「偽造書類は見破りようがない!?」...《不動産取引のプロ》であるデベロッパーでさえ騙されてしまう地面師たちの巧妙な「手口」

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今Netflixで話題の「地面師」...地主一家全員の死も珍しくなかった終戦直後、土地所有者になりすまし土地を売る彼らは、書類が焼失し役人の数も圧倒的に足りない主要都市を舞台に暗躍し始めた。そして80年がたった今では、さらに洗練された手口で次々と犯行を重ね、警察組織や不動産業界を翻弄している。

そのNetflix「地面師たち」の主要な参考文献となったのが、ノンフィクション作家・森功氏の著書『地面師』だ。小説とは違う、すべて本当にあった話で構成されるノンフィクションだけに、その内容はリアルで緊張感に満ちている。

同書より、時にドラマより恐ろしい、本物の地面師たちの最新手口をお届けしよう。

『地面師』連載第33回

「取り調べ」はできても「摘発」はできない!? いまだ未摘発の『地面師詐欺事件』の犯人たちが使った「カラクリ」』より続く

渋谷区富ヶ谷一丁目の土地

NHK放送センターから参宮橋方面に向け、井ノ頭通りを車で走ると、右側に代々木公園の緑が広がる。左手は瀟洒なビルが立ち並ぶ。井ノ頭通りに沿って左折すると、テナントビルもあるが、住居用のマンションも少なくないエリアになる。

都心に近いため、大企業の幹部や外国人が多く住んでいるという。地面師に狙われた渋谷区富ヶ谷一丁目の土地は、そんな好立地の物件といえる。だが、ビルに囲まれたそこだけは、草木が茂ってまったく手入れがされていない。一種、異様な空間でもあった。

古く終戦間もない時代に跋扈した地面師たちが、21世紀の現在、東京や大阪の都心で蘇っている。とりわけこの数年来、地面師による不動産のなりすまし詐欺が横行し、警視庁が対応に追われてきた。もっぱら被害に遭っているのが、不動産取引のプロであるデベロッパーである。

なぜ、不動産取引の知識豊富なデベロッパーが、こういとも簡単に騙されてしまうのか。地面師事件の取材を始めた当初、誰もが抱くような疑問を私も持った。それが一連の事件を取材する端緒になったといってもいい。

「見やぶりようがない」

「うちの場合、印鑑証明を偽造され、それに気づかないままでした。取引に立ち会ったこちらの司法書士も騙されています。司法書士の力量の問題もあります。ただ、事件に遭遇し、いろいろ聞いて回ると、最近の地面師たちは不動産取引に必要な書類を偽造するというより、同じ物をつくれるらしい。

たとえば印影さえあれば、3Dプリンターを使って実印を作り、本物と見分けがつかないほど精巧な書類を偽造する。見破りようがないケースも少なくありません。また偽の実印を使って改印し、新たな印鑑証明を作り直す。そうした行為を繰り返せば、どの時点で書類が偽造されたか、わからなくなるから厄介です」

そう悔しがるのは、東京都内でマンション開発を広く手掛けてきた地道建造(仮名)という40代の不動産会社の経営者である。事件の発端は2015年5月のことだ。同業の不動産業者から、渋谷区富ヶ谷にある住宅地の取引を持ち込まれたという。

「もともとの紹介者は、僕が独立する前に一緒に働いていた大手デベロッパーの先輩だった神津三四生(仮名)さんでした。神津さんも今は会社を経営しています。長年の付き合いもあって信頼のおける人なのは承知していました。

不動産業界では知人や取引先からの紹介を受けていっしょに事業をやることも珍しくありません。だから深く考えずに話に乗りました。神津さんが見つけてきた物件の購入資金を私が調達して物件を買い、さらに大手デベロッパーに物件を転売してマンションを建てる事業計画でした」

ある「職業」の存在が“鍵”...《不動産のプロ》でも簡単に騙されてしまう「社会的信用」の罠とは』へ続く

ある「職業」の存在が“鍵”...《不動産のプロ》でも簡単に騙されてしまう「社会的信用」の罠とは