19歳のときには、「『幽遊白書』に出てくる飛影に会うために魔界へ行く必要があった」と自殺しようとしたことも…。その後、女は31歳のときに元夫を殺害。捜査関係者も「これでは刑事責任能力を問うのは難しいだろう…」と思った、女のありえない言動の数々とは? ノンフィクションライターの諸岡宏樹氏の著書『実録 女の性犯罪事件簿』(鉄人社)より一部抜粋してお届け。なお本書の登場人物はすべて仮名であり、情報は初出誌掲載当時のものである。(全2回の1回目/後編を読む)

【写真を見る】『幽遊白書』の飛影に憧れた“奇行を止めない殺人犯の女(31)”


写真はイメージ ©getty

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なぜ遺体のまわりに「中華料理」が?

 青木祥子(31)が「元夫を殺しました」と言って、警察に自首してきたのは2年前のことだった。泣きもせず、落ち着いて淡々と語るので、当初はストーカー的な独占欲から殺害したものかと思われた。

「彼を愛していたので、独り占めにしたくて殺しました。他の女の人には取られたくなかったので、自分だけのものにしようと思いました」

 警察官が自宅へ確認に行くと、元夫の和田孝一さん(39)が寝室の布団の上で包丁で腹を刺されて亡くなっていた。それより異様だったのは、遺体を取り囲むように中華料理が並べられ、ローソクが立てられ、まるで何やら儀式でもしたかのような形跡が残っていたことだった。

 祥子に理由を尋ねると、次のように答えた。

「彼が天国に行くための儀式です。私も彼も病気だったので、あの世で幸せに暮らそうと思いました。彼は糖尿病だったし、ひどい下痢で苦しんでいた。私も彼のもとへ行こうと思いましたが、死に切れず、ずっとそばで見守っていました」

 警察が祥子の病歴を調べると、20代の頃から精神病院への通院歴があった。

「飛影に会うために魔界へ行く必要があった」

 19歳のときにも「『幽遊白書』に出てくる飛影に会うために魔界へ行く必要があった」との理由から自殺を図ったこともあった。祥子は犯行は認めていたものの、その経緯の説明は支離滅裂だった。

「彼を殺した後に、彼の携帯を使って占いサイトを何度も見ました。そしたら『彼も感謝してる』って。彼があの世で幸せになるためには、彼がこの世で好きだったものを捧げなくちゃならない。それで中華料理を並べました。私も彼が好きだったワンピースを着て、彼が使用していたインシュリンを打ち、彼のもとへ行こうと思いましたが、死に切れなかったので、これは彼が『霊界へ来るな』と言っているのだと思い、出会い系サイトで知り合った男の人とセックスしに行きました」

 そして、祥子は「私は彼を愛していた。彼も私に殺されて幸せだと思っているので、悪いことをしたわけではありません」という持論を展開した。犯行後、出会い系サイトで知り合った男とセックスしたことについては、「彼がこの世に未練を残さないための願掛けだった」と説明。かと思えば、「一緒に死ぬつもりだった」と号泣し、死後の世界のことをとうとうと語るのだった。

「これでは刑事責任能力を問うのは難しいだろう…」

 捜査関係者の誰もがそう思った。だが、精神鑑定の結果、「刑事責任能力に問題はない」と診断されたので、祥子は殺人容疑で本格的に取り調べを受けることになった。

拘置所で3度の自殺未遂…“奇行を止めない殺人犯の女(31)”を裁判所が「詐病」と看破できたワケ(2007年の事件)〉へ続く

(諸岡 宏樹/Webオリジナル(外部転載))