新庄監督

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 プロ野球はクライマックスシリーズ(CS)のファイナルステージ(FS)真っ最中。パ・リーグで首位ソフトバンクに挑んでいるのは日本ハムだ。2年連続最下位から今年は2位と躍進して8年ぶりとなるCS進出を果たした。ファーストステージでは、3位ロッテとの大激戦を制するなど、“新庄イズム”はしっかりチームに浸透している。「一気に上に行くというドラマはすごく楽しみにしている、それが僕の人生」と豪語する新庄監督の真価を探った。

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【写真を見る】豪華すぎる! 新庄監督の自宅サウナ

 開幕前、日本ハムの下馬評は決して高くはなかったが、躍進は決して偶然ではない。新庄監督が温めて続けてきた3年計画の集大成の道のりなのだ。2021年の就任会見の際には「優勝なんて一切目指しません」と述べて物議を醸したが、昨季2年連続の最下位が決まった時に「僕がファイターズに入った時にも(3年かかったが)一気に日本一になった。この選手たちにはその可能性もある」とその眼差しは真剣だった。

新庄監督

SNSで連絡

 新庄監督の良さとは何か。その秘密が本拠地エスコンフィールドの監督室にある。

「テレビを5台も設置していると。全て野球の試合を見るためとも言っていました。試合前に対戦相手の映像を見、分析することに余念がないそうです。iPadに至っては1年で買い替えるほど使い込んでいることも明かしていました」(日本ハム担当記者)。

 本人も「監督になって一番疲れるのは目。iPadが恋人ですからね」と証言している。この行動は球場だけではない、自宅でも続き、風呂やトイレばかりではなくサウナに持ち込むなど、監督就任以来、iPadを2台も壊したという。

 これこそ就任から続けてきた凡事徹底だった。そうして得たデータを采配に生かす。新庄監督は今季、打順をくるくる入れ替え、助っ人外国人の4番、レイエスなど主力選手も2軍に平気で落としているが、これも数字の裏付けがあった。データは、とりわけ守備面に生かされている。監督は「打球の方向、チャンスでこの打者はどこ狙いで打つのか」が「だいたいわかっている」ときっぱり述べている。選手に守備位置の指示を出しているのが監督本人なのだ。「SNSを使ってよく指示をしている。その内容は? 言えません(笑)」と話している。

BOSとは

 実は、日本ハムは12球団屈指のデータベース・システムを持つ。「ベースボール・オペレーション・システム」(通称BOS・ボス)だ。2005年春、初期投資に数億円をかけて導入。選手の能力を数値化するのはもちろん、大谷翔平獲得などドラフト戦略にも活用している。システムは毎年バージョンアップされ、「球団ではしっかり予算をとってレベルアップを図っています。選手さえ見ることができません。球団でも閲覧できるのはごくわずか。もちろん新庄監督はその1人でしょう」(前出の担当記者)。

 20年近く蓄積されたこの膨大なデータも新庄采配の後押しをしている。これを導入したのが吉村浩チーム統括本部長だ。日本球界を驚かせた“新庄監督招聘”に動いた1人でもある。吉村本部長はスポーツ紙の記者を経てMLBデトロイト・タイガースのGM補佐となり、帰国後は阪神でキャリアを積んだ。そして2005年に日本ハムがヘッドハンティングで呼び寄せた人物である。新庄監督との信頼関係も厚く、就任1年目のスタッフミーティングで「(新庄)監督のいうことは“絶対”ですから」と述べ、監督を感激させている。

野村監督の教え

 新庄監督と言えば、その表に見える言動から緻密、精密な「智将」のイメージはないが、躍進の陰には球団のバックアップによる、データ入手とその分析、遂行能力の高まりがあったというわけである。そんな新庄監督を見て、この人はどう思っているだろうか。

 南海、ヤクルト、阪神、楽天で監督を務め、「ID野球」を駆使してリーグ優勝4度、日本一3度を果たした故・野村克也監督だ。

 新庄監督は1999、2000年と阪神・野村監督の元でプレーした。陰と陽、そのスタイルの違いから“水と油”だという指摘が大半だったが、

「それは違います。新庄の天性の野球センスと人を惹きつける素養に最も惚れ込んでいたのが野村監督で、新庄もその“考える野球”に懸命に取り組みました。当時、野村監督は“陰でしっかり努力をしている”と新庄にぞっこんでした」(当時の阪神担当記者)。

 野村監督は、新庄の“野球脳”向上のために、「お前の無駄にはならんから捕手をやらんか?」と打診。しかし新庄は「キャッチャーはスタイルが悪くなるなら投手をやらせてください」と直訴。実際、オープン戦では登板を果たしている。大谷翔平の二刀流の元祖が新庄監督だった。

 新庄監督は、2022年に神宮球場で行われた野村監督の「しのぶ会」で野村氏愛用のジャケットを自ら仕立て直して参列し、「メディアを通して(チームを)コントロールする手法はなるほどなと、思っています。僕も今監督として選手とファンを意識して発信しているんです」と語り、野村監督のことを「プロ野球のお父さん」と慕い続けている。

「努力は一生、本番は一回、チャンスは一瞬」。これが新庄監督のモットーだ。今シーズンはこの方針が見事にはまった。躍進はどこまで続くのだろうか。

小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター

デイリー新潮編集部