M&Aは活況だが(中小企業庁の入る経済産業省別館)/(C)日刊ゲンダイ

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【企業深層研究】M&A総研HD(下)

【前編はこちら】M&A総研HD(上)“時代の寵児”が直面、中小企業を食い物にする悪徳業者対策

 前編では、最近、中小企業のM&Aを巡るトラブルが相次いでいること。トラブルを起こすのは特定の買い手企業であること。そしてこの買い手企業に対して、M&A案件を数件仲介したのが、東証プライム上場のM&A総研ホールディングス(M&A総合研究所)であると書いた。

 中小企業のM&Aが活況を呈するにつれ、M&A仲介事業に乗り出す企業が増えており、中小企業庁に登録する業者は3000社に迫る。その中でもM&A総研は、もっとも勢いのある会社だ。

 創業は2018年。その4年後には上場を果たす。創業者の佐上峻作社長は33歳。昨年には米「Forbes」誌の日本人長者番付に最年少でランク入りした。

 佐上氏は神戸大学在学中に起業。その後サイバーエージェントの子会社に入社した後、EC・メディア事業の会社を立ち上げ、それをPR会社のベクトルに売却すると同時に入社し、M&A業務に従事する。

 そこでM&A仲介会社を利用するが、理不尽に感じることが多かった。例えば、成約前に着手金や中間報酬を請求する。それはそれで理由はあるのだが、佐上氏は納得できなかった。

「これを改善すればもっと生産性の高いM&A仲介ができる」と考えた佐上氏は、M&A総研を立ち上げた。

 その強みを佐上社長はマッチング能力と営業手法にあると説明する。佐上氏はもともとエンジニアでプログラミングに詳しい。マッチングでもAIとビッグデータを活用した独自のシステムを自社開発している。

 営業には、ナンバー2にキーエンス出身者を迎え、キーエンス流の営業可視化やデータ管理を徹底、効率化を図った。

 この2つを原動力に、M&A総研は急成長を果たしてきた。それがなぜ、悪徳買い手企業に手を貸す結果になったのか。

■報酬体系に問題が


 佐上社長は9月19日のM&A仲介協会の会見に出席した際、「悪質な相手とは知らなかった」と弁明するとともに「報酬体系に問題があった」とも語っている。

 M&A総研の営業社員は、仲介報酬に応じてインセンティブを受け取っており、社員の平均年収は2300万円にもなる。つまり、成約すればするほど収入が増える仕組みになっており、それが悪質案件につながったというわけだ。

 ただしインセンティブの仕組みは他社も似たようなもの。それだけでは説明がつかない。考えられるのは、企業の成り立ちだ。M&A総研より古い仲介会社の創業者たちは、前職時代に中小企業経営者の悩みを聞く立場にあった人が多く、その悩みを解決するために会社を立ち上げた。だからこそ、M&Aを成立させるだけでなく、その後の企業成長にも気を配る。

 その点、佐上社長を筆頭に新世代の仲介会社は、そこにビジネスチャンスがあると考え参入している。その創業の原点の違いは大きい。

 佐上氏の先輩にあたる上場仲介会社経営者は「佐上さんは脇が甘い」と苦言を呈する。同時に「言えばわかる人ですよ」と、今後の改善に期待を寄せる。

 朝日新聞デジタル(10月4日)はこう報じている。<(M&A総研は悪質な買い手対策として)9月以降、仲介契約を結ぶ買い手を対象に、信用調査会社の情報などで財務状況やコンプライアンスを評価し、基準に満たなければ取引しないことにした>。

 また先週11日には元警察庁長官の金高雅仁氏と顧問契約を締結したと発表した。佐上氏の真価が問われている。

(真保紀一郎/経済ジャーナリスト)