山口馬木也(C)日刊ゲンダイ

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 異例のヒットとなっているインディーズ映画「侍タイムスリッパー」の勢いが止まらない。

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 8月末に池袋シネマ・ロサで上映が始まると、SNSで大バズリ。公開1カ月半となった10月半ば現在で、全国172館で拡大上映となり、まだまだ広がりそうだ。自主製作映画「拳銃と目玉焼」「ごはん」で知られる安田淳一監督が私財を投じた製作費はわずか2000万円。しかし興行収入は3億円を超えたという。

 同作は、落雷によって現代にタイムスリップしてきた幕末の会津藩士が、剣の腕を頼りに「斬られ役」として新たな人生を歩むというSFコメディー。

 タイムスリップものと時代劇の面白さを融合させた意欲作で、涙あり、笑いあり、迫真の殺陣ありで、上映後は劇場で観客から拍手が起こることも話題に。老若男女が楽しめる内容だという。時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野氏はこう語る。

「確かに聞きしに勝る面白さで2時間ちょっとはあっという間でした。時代劇好きにとっては、知った顔がたくさん出てきてたまらないし、時代劇をあまり見たことがない人でも、現代が舞台なので、スッと入れて楽しめる。平日の午前中に見たのですが、若い人たちがたくさん見に来ていましたね」

 江戸時代からタイムスリップした侍を演じているのは、藤田まことの「剣客商売」をはじめ、朝ドラや大河など数多くの作品に出演してきたベテランの山口馬木也(51)。

「本当にたくさんの時代劇に出ている方ですが、現代にやってきた侍のコミカルとシリアス両面を見事に演じていて、よかったですね。私は、以前から時代劇の主役は顔が大きくて(笑)、喜怒哀楽がハッキリわかる方がいいと言ってるんですが、馬木也さんはまさにハマリ役。笑えるシーンと生死をかけた殺陣のシーンとの緩急も素晴らしかった」

生身の体を使った殺陣に原点回帰

 確かにこの映画の魅力の一つは、クスリと笑えるコメディー要素と手に汗握る圧巻の殺陣シーンのギャップにある。

「殺陣を担当された清家一斗さんは、東映京都撮影所の伝説的な殺陣師・清家三彦さんの息子さん。殺陣の世界ではすでに有名な方ですが、三彦さんを超える殺陣をと奮闘したのだと思います。クライマックスの緊迫感あふれる一対一の長い殺陣は最大の見どころです。京都の撮影所で時代劇を撮るからには、とことん殺陣を見せたいという監督の強い覚悟を感じましたし、ここまでできるんだということを見せたかったんでしょうね。今、CGなどを駆使していろいろな表現もできるのですが、やっぱり人間が生身の体を使って表現する殺陣の面白さに原点回帰したかったところがあったのだと思います」

 監督の情熱にほだされて、「東映剣会」の役員や会長を歴任した殺陣師役の峰蘭太郎、敵役の冨家ノリマサ、住職役の福田善晴など、長年、時代劇で数多くの殺陣を演じてきたレジェンド級の俳優たちが大集結している。

「時代劇が衰退し、十分な予算もない中、“これは絶対作るべきだ”という熱い思いに満ちあふれていて、その方たちが長年培った技術の粋が余すところなく投入されているのがわかります。これはタダものじゃありませんよ。それが見ている側にも伝わって現在のヒットにつながっていると思います。ぜひスピンオフ作品などもやって欲しいですね」

 エミー賞を獲得した「SHOGUN 将軍」とタイプは違えど、こちらも世界に打って出るべき作品だとペリー氏は付け加える。“時代劇再ブーム”がやってくるかも知れない。

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 インディーズ映画で大ヒットした例と言えば、「カメラを止めるな」が代表的だが、同作の原案を主張していた舞台のDVDが販売中止になっていたのをご存じだろうか。

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