コメ不足で逆風も…人気おにぎり店は6時間行列 世界的ブームで1日1500個 涙する客も
世界的なおにぎりブームを牽引(けんいん)するおにぎり専門店「ぼんご」。最大6時間待ちの行列ができる人気店にもコメ不足の影が忍び寄っています。
【画像】ふわっと整えた“握らない”おにぎり 波乱万丈の名物女将…笑顔絶やず■6時間行列のおにぎり店 1日1500個も
ふっくらと炊いたコメの中にはトロットロの卵黄と肉そぼろが。食べた人をとりこにする、専門店のおにぎりです。
東京・大塚にある創業64年のおにぎり店「ぼんご」。待ち時間が6時間に及ぶ日があるほどの人気店です。
埼玉県から来た人(50代)「めっちゃうまい。やばい。1時間半くらい待ったけど、来たかいがある」千葉県から来た人(20代)
「人生で食べたおにぎりで一番おいしいです」
客は県外だけでなく、海外からも…。
「YouTubeで知りました。1時間半並びましたよ。本当に素晴らしい!」
ぼんごのおにぎりの特徴は“握らない”こと。新潟県岩船産コシヒカリを使用した大粒のコメを、なるべく空気を含ませながら、ふわっと形を整えます。
おにぎりの具材は全部で57種類。なかでも一番人気は、光り輝くすじこと肉厚のサケをたっぷりと使った「すじこ・さけ」です。
佐藤ちひろアナウンサー「いただきます!おいしい!こぼれそうなほどふわっとしてますね。ごめんなさい崩してしまって…」女将・右近由美子さん(72)
「こぼれちゃいますよね。(食べ方の)形はないので、好きなように」
食リポの様子を優しい笑顔で見守っていたのは、ぼんごの女将・右近さん。
おにぎりを握り続けて、およそ40年。その人生は順風満帆ではありませんでした。
■波瀾万丈・名物女将 借金1600万円新潟県で生まれ、19歳の時に上京した右近さん。そこで出会ったのが、当時、ぼんごの店長をしていた夫の佑さんでした。
右近さん「こんなに美味しいものがあるのかと、通い詰めてたらナンパされました」
歳の差27歳の2人はやがて惹かれ合い、結婚。右近さんも夫のおにぎり作りを手伝うようになりましたが、そんなさなかに突如夫が病に倒れ、当時50歳の右近さんは店を一人で切り盛りすることに。当時の状況は…。
右近さん「お客さんも常連だから、なんであんたが握ってんの?って。ものすごい怒られましたよ。『俺が代わりに握ってやる』とか。お客さんの顔が怖いから見られない」
さらに経理の状況を調べたところ、衝撃の事実が発覚。
右近さん「主人の個人の借金があり、(それに加えて)会社の借金が1000万円」
「(Q.トータルでいうと?)1500万円から1600万円。で、入院費もかかるじゃないですか。もう必死に働きました」
朝から晩までひたすらおにぎりを握り、働き続ける生活。
右近さん「座るのは(通勤の)自転車のサドル以外、時間がない。自転車に乗りながら泣いたりしてました。寝るんじゃなくて、倒れるような生活をしてたので本当に余裕がなかった」
4年かけて借金は無事に完済。その後、右近さんが還暦を迎える直前に夫の佑さんは亡くなりました。
■がん末期の客が切望「最期に食べたい」笑顔を絶やさず、元気に店に立ち続ける右近さん。10年ほど前に客からかけられた言葉が忘れられないといいます。
右近さん「年配のお客さんが『実はね、うちのお父さんががんの末期で何も食べられないんだけど、(最期に)ぼんごのおにぎりが食べたいと言った』と買いに来てくださって。その話を聞いた時に、大変なこといっぱいあったけど、私はこの言葉を聞くために、おにぎり屋になったんだって」
そこから、これまで以上に客とのつながりを大事にするようになりました。
右近さん「きょうも元気に頑張ります。よろしくお願いいたします」開店2時間前から並んでいた夫婦
「冷たいお茶をいただきました」
「本当にお心遣いが素敵で食べる前からファンになっちゃいます」■新米が高騰 コメ不足が直撃
多い日は一日1500個のおにぎりが売れる「ぼんご」。今、頭を悩ませているのが“令和のコメ騒動”の影響です。幸い、長い付き合いのある農協などからコメを安定して供給してもらっているため、不足はしていませんが…。
右近さん「(仕入れ値は)去年のまま、現行でやってますけど、新米が出たらかなり上がります」
さらに、のりや具材も軒並み値上がりし、利益を圧迫していますが、それでも価格は据え置く方針です。
右近さん「ものの値段が上がったからって(価格を)あげますじゃなくて、ものが1つ上がったくらいじゃ、私が一日ご飯食べなければいい。そんな感じじゃないとお客様をお迎えできない」■理想はお母さんのおにぎり 懐かしさで涙も
店内はカウンター席のみ。これも客と真摯に向き合う為だといいます。
右近さん「みなさん良い顔するでしょ。待って頂いて、おいしいって言っていただいて私たちが元気になるの分かるでしょ」
右近さんは、味だけではないぼんごの魅力をこう語ります。
右近さん「いいおにぎりを作ってるつもりでも、母のおにぎりを超えることはできない。運動会の時に作ってくれたおにぎり、遠足の時に作ってくれたおにぎり、それが(みんな)頭から離れない。でも、ここに来たら思い出せる」
客の中には、一口食べて懐かしさのあまり涙した人も…。
右近さん「うちはおにぎりは売ってますけど、ここ(心)をつなげる、人と人とをつなげる仕事なんです」
おにぎりが世界的なブームとなっている今、右近さんの元には、将来海外で店を持ちたい人が修業しにきています。
おにぎりぼんごで修業中山口大登さん(34)「5年間中国で働いていました。(いつかは)中国で店を開きたい。一番勉強になる所はどこだと思った時に、“ぼんご”かなと。日本一だと思っているんで」
世界に広がりつつある「ぼんごのおにぎり」。
右近さんが後輩たちに最も伝えたいことについて、このように話します。
右近さん「それぞれ全員別、握り方も別、それでいいんだと思う。心、あり方、生き方、仕事との向き合い方はきちんと伝えています。技術じゃないです。おにぎりのおいしさって。ここ(想い)なんですよ」
(「グッド!モーニング」2024年9月14日放送分より)