業績も上向きになり、拡大に意欲を示すいきなり!ステーキ。来期は数十店舗の純増を狙う(記者撮影)

最盛期には約500店舗を展開、多くのファンを生み、一世を風靡した「いきなり!ステーキ」。2019年以降は過剰出店の影響やコロナ禍などで業績は低迷。店舗数は約180店まで減少した。

厳しい経営が続いていたものの、前2023年12月期の営業損失は4.9億円と、2022年12月期の15.5億円の損失から大幅に縮小。第4四半期は黒字化を達成した。今2024年12月期は2018年以来、6期ぶりの通期黒字化を計画している。

創業者の一瀬邦夫氏が2022年8月に辞任し、長男の一瀬健作氏が経営を引き継いでから2年。復活を目指す「いきなり!ステーキ」の今後の戦略や経営方針、社内環境の変化について一瀬健作社長に聞いた。

ボトムアップの提案も増えた

――2022年8月に社長に就任してから2年が経ちました。どんな苦労がありましたか?

就任当時はコロナの影響が残り、過剰出店で業績も低迷していた。借入金の返済もあり、まずは会社の立て直しが課題だった。足元では2019年に実施した借入金の返済が終了するなど、会社の立て直しは一段落し、ようやく攻めの経営をできる土台が整ってきたところだ。

以前は前社長の強いリーダーシップがあった。それによって大量出店を実現できた側面もあり、すべてが悪いことではなかった。だが、そこに依存していた部分もあった。

現在は、組織として動く文化が少しずつ根付いている。イベントや販促などはボトムアップで考えている。特に集客など販売促進の部分で柔軟な施策を打てるようになった。グランドメニューにない新たな部位の導入や焼き方など、調理方法の工夫もボトムアップで提案が出てきている。

――社員にとってもトップダウンからの転換は難しかったのでは?

6月に実施したVTuberグループのホロライブとのコラボは、ボトムアップで決まったものだ。いきなり!ステーキが10周年を迎えるにあたり、社内向けに「家族客の獲得」が課題と話した。その後、社員から提案があって実現している。

現場もボトムアップで変わっている。家族客の獲得が見込める店舗では、期間限定で税込み110円のお子様ランチも提供していた。

自分から発案した企画が通れば、社員も楽しく働けるだろう。うまくいかなくても成長につながる。いいサイクルを構築できていると思う。


主力のワイルドステーキ(200グラム)。一部商品は産地をアメリカからオーストラリアに変更するなど低価格を維持する工夫をしている(記者撮影)

――今2024年12月期は6期ぶりに営業黒字化を計画しています。足元の状況はどうですか?

上期は赤字になる計画を組んでいたが、計画よりも順調に推移しており、かなりポジティブに捉えている。

4月に価格改定を実施した影響があり、現状は客数にマイナスの影響が出てしまっている。その影響が今後どうなるか見守る必要がある。ただ、粗利益の確保はしっかりとできている。通期では黒字化できる見通しだ。

父、邦夫前社長との関係は・・・

――現在、邦夫前社長との関係はいかがですか?

家族としてのコミュニケーションは取っている。お盆の時期に線香を上げに実家に帰った。父が両国でやっている「和牛ステーキ和邦(わくに)」の休憩時間に家に帰ってきて、テレビを見ながら「次はいつお墓参りに行こうか」といった話はしている。普通の親子の関係だ。


創業者の一瀬邦夫氏はいきなり!ステーキの顔だった(撮影:尾形文繁)

ペッパーフードサービスについては、退任したので口を出さないようにしているが、リリースなどは見ているようだ。ただ、リリースで知ると「なんで教えてくれなかったの」とさみしそうにするので、言える範囲で会話するようにしている。

――いきなり!ステーキは、以前のスタイルから転換を進めています。

従来、ターゲットとしていたのは40〜50代の1〜2人で来店する層。立ち食いで回転率をできるだけ高め、利益を出すスタイルだった。

ただ出店から10年が経ち、リピーターの年齢も上がり、客層の拡大は課題だ。牛肉価格も上がり、集客は難しくなっている。それでも、ステーキを食べたいという需要はなくなっていない。リーズナブルで高品質なステーキを提供する方針は変わらないが、スタイルは変わっている。

具体的には、家族客を呼び込めるようにしている。会員ごと、グラム単位でポイントを付与していた「肉マイレージ」は、金額でポイントを付与するように変更した。家族でまとめて会計してもポイントが付与されるので、リピートしてもらえることを狙っている。

また、回転率を重視するのではなく、食事の時間を楽しんでもらえるレストランに近づいている。例えば、ステーキを焼く鉄板を店舗の中心に配置してステージのようにすることを考えている。食事だけでなく、料理の過程も楽しんでもらいたい。


いちのせ・けんさく/1972年生まれ。静岡地盤でハンバーグ店を展開するさわやか株式会社を経て、1999年ペッパーフードサービス入社。ペッパーランチ運営部長やCFO、副社長などを歴任し、2022年8月から社長

――それでは他チェーンとの差別化が難しくなる面もあるのでは?

牛肉価格が高騰する中で価格帯が変わり、客層も少し変わっている部分はある。しかし、以前の「回転率が高い」イメージは依然として強い。競合他社が多くいるようなカテゴリーに入ったとは思わない。

「リーズナブルで高品質なステーキ」を出す独自性は変わらない。商品の調達などで自社の強みをしっかりと打ち出していきたい。

――ここ数年、店舗数は純減傾向が続きました。

飲食店としては、店舗数は多いほうがよい。が、過剰出店で不採算店舗も増え、コロナ禍もあり会社存続が危うい状況だったので、店舗数にこだわらず、まずは会社の建て直しが重要だった。足元は会社の基盤も強くなってきた。再び出店を目指していく。

東南アジアの外食需要は大きい

出店は、従来多く出店していた駅前や繁華街を中心に考えている。コロナの影響も少なくなり、外食を利用する人は確実に増えている。インバウンドの増加が追い風になっている店舗もあるので、人の多く集まる地域には一定数の店舗を出していきたい。

――今後は海外でも出店を進めていく方針です。

現在は台湾、フィリピン、インドネシアに計5店舗を出店している。出店した店舗はいずれも好調だ。東南アジアは日本よりも外食の需要が大きいと感じている。

FCで展開しているため、現地のパートナーと協力して、商業施設などを中心に出店していく。国内と同様に店舗数を追いかけるのではなく、消費者のニーズがある立地を見極めていきたい。

(金子 弘樹 : 東洋経済 記者)