大企業の社長ほどスゴい?いやいや、逆です(写真:metamorworks / PIXTA)

「日本の会社は総じてヤバい」

「仕事がつまらなかったり、上司が嫌だったら、すぐ職場を離れるべきだ」

元・日経編集委員のジャーナリスト金田信一郎氏はそう断言してはばかりません。

なぜ、そんなことが言えるのでしょうか。日本の会社・職場が、必然的に腐っていくカラクリを、あらゆる面から描いた『見てはいけない! ヤバい会社烈伝』を上梓した金田氏自身が解説します。

「うちの会社、ヤバくないか?」

そう思ったことはないだろうか。

職場の人が集まるたびに、みなが口々に仕事の愚痴をこぼす。上司の悪口が止まらなくなる……。

そんなあなたの会社はヤバいのである。

その直感は当たっている。

昭和の時代までは、そういう職場でも仕方がない面はあった。なぜなら、会社自体が成長していて、そこに乗っかっていることが、自分の成長につながっていたからだ

「会社が成長する」神話は消えた

もっと言えば、会社から独立して、個人で仕事をすることが難しかった。


総務や経理といった業務を自分でこなすのは現実的ではないし、取引をするにも販売をするにも、企業ブランドが大きくものを言った時代だった。

だが、ネット社会となった今、外部の専門業者やAIが、個人でも使えるような低価格で様々な業務を代行してくれる。営業やマーケティングだってネットで展開できる。しかも、それをサポートするサービスも山のようにある。

小さいベンチャーや個人が活動しやすい社会になってきている。

つまり、あなたは今の職場を離れても、食いっぱぐれることはない。

だから、独立してみる手もある。時間と仕事を思うようにコントロールできる自由が手に入る。

もし、数カ月して収入が足りないのであれば、とりあえず違う職に就けばいいではないか。そこで、また、新たな知見を積んで、その先の仕事を設計し直す。

で、もう一度、2つの要点を言う。

1)今の職場を離れても、食いっぱぐれることはない。

2)数カ月たって収入が足りないと思えば、違う職に就けばいい。

それでも、多くの人が、「それは危険な賭けだ」と躊躇する。

「ムリムリ。私の仕事は、この会社だから何とかできている」。そう思ってしまう。

では、2つの要点に、こんな裏付けのデータを付けてみたらどうだろう。少し肩の力が抜け、考え方が変わるのではないだろうか。

1)日本で「食いっぱぐれた人」、つまり餓死した人は、1年間に15人しかいない。これは厚生労働省の「人口動態調査」が示す統計数字(2022年)である。

しかも、20代、30代はゼロ。40代はわずか1人。つまり、若い世代の人が「食いっぱぐれる」ことは、日本においてはまず起こりえない。

おそらく、一人暮らしの高齢者が、突然、動けなくなったケースぐらいだろう。生活保護を申請することもできずに孤独死する──それぐらいしか、「食いっぱぐれる」なんていうケースは考えられない。

日本には会社があふれている

つまり、あなたが食いっぱぐれることはない。ならば、思い切って自由に仕事をやってみたほうが、人生、充実するんじゃないだろうか。

2)日本には法人が260万社以上ある。これは国税庁の数字である。つまり、会社なんてものは、この日本に掃いて捨てるほどあるのだ。

社員が10人以上の会社は約66万社、100人以上の会社は約6万社ある。もし、あなたがちょっと町に出たり、駅前の道を歩けば、次々と会社の看板を見つけることができるはずだ。そう。日本には会社があふれている

「仕事にありつけない」なんていう事態は、職場や仕事を慎重に選びすぎているから起きることと言ってもいい。「独立のために経験を積む」ぐらいに考えれば、つなぎの仕事は得られるはずだ(実際、有効求人倍率はここ10年、1倍を超え続けている。つまり求職数を求人数が上回っている)。失業率という統計は、「人と仕事をうまく結びつけられていない結果の数値」ぐらいに思っていればいい。

それでも、上司や社長は、あなたに「会社をやめたら食いっぱぐれるぞ」と脅してくる。

なぜか。

それは、上司や社長こそ、あなたがいなくなると困ってしまう当の本人だからだ

そう。彼らは仕事をしていない、あるいは会社の役に立っていない可能性がある。

最も仕事をしないのは、社長

例えば、あなたの会社の上司は、具体的にどんな仕事をしているだろうか。社長はどうか?

偉そうに指示をしているが、自分は何か中身のあることをしているのか、考えてみてほしい。

おそらく、仕事をしている上司や社長は、部下や社員から陰口を叩かれるようなことはほとんどないはずだ。

威張り散らしている上司は、総じて危険である。指示ばかり出して、会議で怒鳴り散らして、実は自分は何もしていないことが多い。経営陣から言いつけられたノルマを、下に押しつけているだけだ。

で、社長はどうなのか。

私は日経グループの記者になってから35年ほど「会社」を追い続けてきた。

もちろん、会社を牽引する「能力の高いトップ」はいる。だが、その数は極めて少ない。言わば「絶滅危惧種」である。

一方、「仕事をしない社長」が増殖を続けている。

考えてみれば、「社長」になることは、社員になるよりも簡単かもしれない。

就職活動をする必要もない。会社を作ってしまえばいいだけだ。資本金は、かつては1000万円必要だったが、今は1円で済む。設立にかかる費用も20万円程度。要するに、ちょっとカネがあれば、社長になれるわけだ。

2代目ともなると、もう何も考えずに、できあがった会社が与えられ、顧客までついてくる。

「でも、大企業の社長はすごいのではないか」

そう思う人もいるだろう。確かに、学歴も高いし、話している内容も理路整然としている。社長になるまでにも、長い出世レースを勝ち抜いている。

「目立たない」「ゴマすり」でトップに

だが、そういうみなさんは、実際に大企業の社長とじっくり語り合ったことがあるだろうか? 実際のところ、自分が働いている会社が「大企業」だった場合、社長と1対1で話し込んだ経験がある人は少ないかもしれない。

私は仕事柄、かなりの頻度で企業トップと1時間を超えるインタビューをしてきた。

そうして私が実感していることは、大企業ほど、トップの言葉が軽いという現実だ。自分で考え抜いた言葉ではないから、少し質問すると、答えに窮することになる。結局、流行の経営用語や、業績の目標数値を並べているだけなのだ。

なぜそうなるのか。おそらく、大企業ほど、仕事を無難にこなすことが求められる。数多くの同期たちとの出世レースを勝ち残るには、言われたことに逆らわず、黙々とぞうきん掛けを続けること……。

つまり、大企業の社長は、目立ったことをせず、上司への「ゴマすり」を続けた結果と思われる人物であふれている。

彼らには、新しいことを作り出す能力はないので、ひたすらリストラで利益を出そうとする。それが、リスク回避をしながら出世街道を生き残る確実な方法なのだから。

どうだろうか。「社長」の実像が見えてきただろうか。

で、日本の260万の法人に「社長」がいるわけだ。何社かを兼務しているケースもあるが、それを除いたとしても、相当数の「社長」が世の中に存在している。

この社長たちの「仕事ぶり」は、実際のところどうなのだろうか。

通常、我々が目にする「社長」は、ニュースに出てくるような大企業のトップが多い。だから、それなりの人物に見える。仕立てのいいスーツを着て、身だしなみも整っている。

だが最近では、経営トップがセクハラで何代も続けて辞任するような破廉恥なケースも見られる。

それは、例外的なケースではないのかもしれない。

「社長サークル」で散財

東南アジアの歓楽街に行くと、「シャチョーさん、一杯どう?」と店の呼び込みから声を掛けられることがしばしばある。

もちろん、営業トークでもある。日本の会社で一番エラい肩書きが「シャチョー」だから、そう言っておけば悪い気はしない。

だが、実際に歓楽街に社長が来ているのだと思う。経営者仲間や、部下、取引先を引き連れてやってきて、最後に支払いをして帰っていく。

だから、東南アジアの女の子たちは「シャチョー」こそが、カネを払うボスだと認識している。

それは「ニッポンの社長」の実態をよく捉えていると言える。

彼らは、つるんで夜の街に繰り出す。社長サークルとでも言おうか。そんな散財ができるのも、社員が稼いでいるカネを経費として使えるからだ。

だからして、こき使っている社員が去って行かれては困る。

「食いっぱぐれるぞ」とは、本来は自分に言うべき言葉なのである。

で、ここで、「会社とは何か」について考えてみたい。

そもそも、会社って必要なのだろうか?

この問いかけは、私が35年間にわたって会社取材を続ける中で、常に頭の中にこだましていたことである。

何のために会社があるのか、と。

「2人分」以上の成果があるか

私は、少なくとも、次の公式が当てはまらない職場はいらないと思っている。

1+1≧2

つまり、1人と1人が一緒に働いて、「2人分」以上の成果が出る、という意味だ。

もし、これが「2人分」に満たないのであれば、それぞれが別に働いたほうがいい。

これは、人数が増えていっても、同じ公式が成り立たなければならない。

で、あなたの会社はどうだろうか?

大企業、有名企業ほど、その存在意義が問われる。優秀な人材をかき集めているからだ。

要するに、世間体がいい職場ほど、危険が多い。

もし、あなたがそういう職場にいるとしたら、ぜひ、会社と仕事について考えてみてほしい。

(金田 信一郎 : 作家・ジャーナリスト)