男性の体臭を批判したことで大炎上した、川口ゆりさん。人気YouTube番組に出演したものの、イメージの回復にはつながっていないようです/画像は「ReHacQ−リハック−【公式】」より

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男性の体臭を批判したことで大炎上した、川口ゆりさん。人気YouTube番組に出演したものの、イメージの回復にはつながっていないようです/画像は「ReHacQ−リハック−【公式】」より

「男性の体臭」についてのSNS投稿が問題視された、フリーアナウンサーの川口ゆりさんへのバッシングが止まらない。そんななか、契約解除になった元所属事務所が、追加声明を発表した。一方の川口さんは、YouTubeでの人気配信に出演したものの、イメージ向上にはつながっていないようだ。

両者の印象をわけているのは、炎上後の対応だ。筆者はネットメディア編集者として、これまで10年以上にわたって、SNSなどの炎上事案を見てきた。その中には、後にプラスの印象に転じたもの、マイナスに転じたものの両方があるのだが、旧事務所は前者、本人は後者になりつつあるように感じる。

そこで今回は、「事後対応」に焦点を当てて、あれこれ考えたい。

謝罪から1週間以上たっても、やまないバッシング

川口さんは2024年8月8日、Xに「夏場の男性の匂いや不摂生してる方特有の体臭が苦手すぎる」などと投稿し、デオドラント商品の利用を呼びかけた。この投稿に対して、「男性蔑視ではないか」との非難が殺到し、炎上状態となった。

そして所属事務所の「VOICE」は8月11日、川口さんとの契約を解消したと発表した。あわせてビジネス研修事業を行う「青山プロダクション」も、提携講師だった川口さんとの契約解消を発表している。

【画像9枚】「ReHacQ」出演時の川口アナの様子と、「男性を蔑視」と炎上した実際の投稿など

その後、川口さんは「言葉を扱う仕事をしている者として未熟でした」として、X上で謝罪したものの、それから1週間以上たった今なお、川口さんに対するバッシングはやまない。なかには誹謗中傷とみられる投稿もある。

こうした状況を受けて、VOICEは8月16日、「お問い合わせへのご回答」と題した追加声明を公式サイトに掲載した。そこでは契約解除の背景として、「当社宛に川口氏の発言で深く傷ついたという内容のメールや問合せが多数届いたこと」を挙げたほか、VOICEと川口さんの関係性について「本件以外に於いて関係性は良好でありましたことを申し添えます。一部ネット上で、彼女の普段の素行の悪さから契約解除になったという憶測が出ておりますが、そのようなことはありません」とも書いた。

加えて、この追加声明では、11日に行った発表の表現をめぐり、「名誉を毀損するという表現が強すぎるご指摘があったため、修正いたしました」とも明かした。弁護士チェックを受けつつの使用であったが、「川口氏への罰則を印象として強めてしまったのではないか」と思い至ったとしている。


(画像:川口アナが所属していた事務所の公式サイトより)

なおVOICEでは今後、所属アナウンサーや従業員に対して、SNS投稿についてのルール設定や講習会などの実施を検討しているという。

「契約解除後も守る姿勢」が伝わった

筆者はネットメディア編集者として、これまで多くの「炎上をめぐる謝罪文」を見てきた。それらの経験から、今回のVOICEによる追加声明を読むと、社会に対して「誠実なイメージ」を与える内容ではないかと感じた。

いったん契約解除した以上、一般的には「赤の他人」となる。しばらく事務手続きでの関係性はあろうとも、それは表に出す必要のないものだ。もし法的措置を取ることがあっても、その際は粛々と対応すればいい。

事態が大きく動いていない段階で、新たにコメントを出すことにより、さらに火に油を注ぐ展開も予想される。にもかかわらず、そのリスクを負ってでも、あえて追加声明を掲載したことで、「契約解除後も守る姿勢」が伝わったのではないか。

いわゆる「やらかしてしまった人」を、突き放したり、切り捨てたりするのは簡単だ。しかし、その道を選ばず、言葉の力で包み込み、ウワサを否定することにより、新たに信用を築き直す上での障壁を取り払う。温情あふれる対応に思えた。

本人にとっても、プラスの後押しになったようだ。川口さんは8月17日、経済系YouTubeチャンネル「ReHacQ(リハック)」に出演。VOICEの追加声明で「関係性は良好だった」と明言され、「名誉毀損」の表現が変更されたことにより、気持ちが落ち着いたと明かした。

炎上後初のメディア露出、ネットユーザーの反応は…

ReHacQは「日経テレ東大学」などを手がけた、元テレビ東京の映像ディレクター・高橋弘樹氏による人気チャンネルで、この日は高橋氏と川口さんの対談として、「メディア初登場!ビジネスパーソンのための匂いケア講座」と題した生配信が行われていた。

番組内の発言によると、大手出版社やテレビ局からのオファーがあったものの、知人の後押しもあり、ReHacQへの出演を優先したという。今後は「アナウンサーの肩書を使うのはやめようと思う」として、タレントや配信者、インフルエンサーに転向して活動する可能性にも触れた。


高橋弘樹氏と、生配信に出演した/画像は「ReHacQ−リハック−【公式】」より

「炎上後初となるメディア露出」とあって、話題性は高いと思われるが、残念ながらネットユーザーの受け止めは、あまり芳しくない。その背景には、「フリーアナウンサーの川口ゆりさん」としての姿よりも、「体臭発言で炎上してしまったフリーアナウンサー」としての姿を、無意識のうちに視聴者が求めていたからだろう。

約1時間にわたる対談を見て、筆者が感じたのは「世間のニーズがどこにあるか」だ。テレビであれば番組スタッフや視聴者、出版物であれば編集者や読者が、なにを求めているかによって、今後の立ち位置も、振る舞いも変わってくる。

ニーズに対応して、コンテンツを届けるのが、ほとんどのメディアの役割だ。今回の件については、川口さん自身についてよりも、発言の方に各社がニュースバリューを見いだして、一斉にオファーをかけたはずだ。

しかし、川口さんの発言を見る限り、制作側の真意は、残念ながらあまり伝わっていない気がした。この配信は、言い方は悪いかもしれないが、「出落ち」的なネタ企画だろう。また、バラエティ番組である以上、出る側は「終始殊勝に振る舞う」か「火に油を注ぎに行くか」の2択の、どちらかを求められてしまう。炎上ですら消費しようとするバラエティ的な姿勢の是非はさておき、そういった背景を踏まえたうえで、出演を決めるのが好ましいだろうが、配信を見る限り、川口さんはどちらでもないスタンスに感じられた。

ネットメディア編集者を長年していると、しばしば「よく燃える人」がいることに気づく。いや、気づいているのは私だけではなく、読者の多くも同様だろう。「また炎上してる」と、ネットニュースの常連になっている人物は少なくない。

しかし、その多くは、「もともとの知名度に、炎上要素が掛け合わさった人物」だ。技術なりセンスなりに裏付けられて、影響力は生まれてくる。そして、こうした人物は、炎上を売りにしなくても、生き延びられるスキルや、一貫したスタンスを持っている。

一般的に「炎上で有名になった」と思われている人物も、よく調べてみると、炎上発言そのものが人気の起爆剤になったケースは珍しい。そもそも「通常運転」でファンが付いていて、そこに炎上きっかけで知った人々が加わり、ファン層が広がったに過ぎないのだ。炎上があってもなくても、遅かれ早かれ注目されていた人物であることは、往々にしてある。

わかりやすい事例が、元プロゲーマーで配信者のたぬかなさんだろう。ネット上で大炎上し、所属チームから契約解除された。しかしその後も毒舌配信者として、一貫したスタンスを取っており、逆に彼女の支持層を広げている。

炎上と言うと「人生の終わり」といったイメージを持たれやすいが、決してそうではなく、インフルエンサーなど影響力が必要な職業では、逆に、知名度アップの追い風になるケースも少なくないのだ。

最初の場に生配信を選んだのは、賢明な判断だったが…

SNSを発火点とした炎上は、毎週のように起きている。気がつけば、新たな「やらかしてしまった人」が登場し、そちらに目が向いてしまったが最後、すぐさま「そんな人もいたなぁ」となる。だからこそ、言い方は悪いが、注目されているうちに、イメージ定着につながる一手を打つのが有効だと思うのだ。

その点で、最初の場としてReHacQの生配信を選んだのは、賢明な判断だったと言える。大きな番組の「1コーナー」としての編集を前提としたキー局の番組よりも、さほど「尺」を気にせずにすみ、かつ1対1で話せるYouTube対談の方が、セルフブランディングする上で、見え方をコントロールしやすいためだ。

今回の配信は「匂いケア講座」と題していたが、あくまで川口さんは「匂いにまつわる発言で炎上した人」であって、「匂いのプロ」ではない。つまり専門知識を問われるわけではなく、極端な話をすれば、「画面に出た時点で役割を果たした」と言える。

となれば、残りのほとんどの時間は、今後へのアピールに使える。終始けなげに振る舞うか、それとも、さらに火に油を注ぐか……。

【画像9枚】「ReHacQ」出演時の川口アナの様子と、「男性を蔑視」と炎上した実際の投稿など

しかしながら、全編通してみた感想としては、そのどちらでもなかった。なにより独自性や「人間臭さ」が、あまり視聴者に伝わらなかったことは、インフルエンサーを目指す門出として、あまり好ましいものとは言えないだろう。

その他の画像はこちら


以前よりXでジェンダーギャップについて、たびたび触れていた川口アナ(画像:本人の公式Xより)


現在は削除された川口アナの問題の投稿(画像:本人の公式Xより)


過去には「思うことや感じることは自由でも、それをここでわざわざ言う必要があるのか、にはいつだって慎重になりたいなあ」との投稿が(画像:本人の公式Xより)


「何を言うかが知性、何を言わないかが品性」という投稿も(画像:本人の公式Xより)


川口ゆりアナとの契約を解除したことを発表した事務所の声明文(画像:川口アナが所属していた事務所の公式サイトより)


ハラスメント防止研修講師としても活動していたが、今回の炎上で契約解除となった(画像:川口アナが所属していた事務所の公式サイトより)

(城戸 譲 : ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー)