子どもが言うことを聞かないときは、しつけの一環として、つい声を荒げて叱ってしまいがち。ですが、まだ幼い脳を活性化するうえで、大切なのが「子どもが緊張しない環境をつくること」。脳科学にのっとった“孫育て”を実践中である脳科学者の黒川伊保子さんに、脳に優しい子どもとの接し方を聞きました。

祖父母が気を配るのは、孫が「肩身の狭い思いをしないこと」

わが家の2歳児(孫)は、月曜から土曜まで保育園フルタイムに加えて、日曜日もベビーシッターさんのところへ預けられます。そのこと自体をかわいそうだと思ったことはありません。彼自身、シッターさんたちをうんと気に入っているし、「何日かに1回の特別な遊び場」として、全身全霊で遊び尽くしてきます。孫は、大人たちそれぞれのペースがある家に生まれ、週7日出勤のベビーライフを満喫して、すくすく育っています。

そんな彼のアウト・ホーム・ライフで、私が気を配っていることは、ただひとつ。彼が肩身の狭い思いをしないこと。彼の一日が、無邪気な時間で満たされていること。どこであれ、彼がいるその場所が「彼のために用意された舞台」だと彼自身が感じること。彼は思いついたように振る舞っていい。それが困るのなら、大人のほうでうまく誘導すればいい。保育園にはそのプロのテクニックがあります。

家族の緊張は、子どもを緊張させる

問題は家の中にあります。「他人様に迷惑をかけないように」「遅刻したらダメなんだよ」「大きな声は出さないで」―そんなふうに大人たちがイラつきながら、シッターさんのおうちに送り込まれたら、彼の無邪気時間は寸断されてしまいます。家族の緊張が、子どもを緊張させるのです。そんな肩身の狭さでは、週7日出勤は、脳のストレスに。だから、私は、家族の言葉づかいに、鈍感ではいられないのです。

保育園に遅刻しそうなときも、私は「遅刻したら叱られる」「遅刻したらだらしないと思われる」というせかし方は決してしません。すべては、彼のために言葉を紡ぐようにしています。「遅刻したら、公園ツアーに連れて行ってもらえない。君のために急ごうね」のように。

「叱る」のではなく、「問いかける」、「誘う」

夫も最近は、なんでも「いや!」という2歳児の扱い方に長けてきました。毎日の送り迎えは基本夫の役目なのですが、孫は毎朝、お気に入りのミニカーを握って自転車に乗ろうとします。最初は、なんとしてでも置いていかせようとした夫でしたが、10分以上も格闘し、大泣きさせて自転車を走らせることになるので、とうとう折れました。そのまま持たせて、保育園に入るときに「お友達に取られちゃうけど、いいの?」と問いかけると、ぱっと手渡してくれるのだそう。

じつは、息子のおよめちゃんが、こういう対応、とってもうまいのです。真正面からぶつからず、幼子の目線でものを言い、解決してしまいます。私の夫も、彼女に学んでいます。たとえば「帽子をかぶらない」問題も、彼女ならすんなり解決してしまいます。彼女がうれしそうに帽子をかぶって、彼女の夫にもそうさせて、保育園児の「みんなと一緒」本能をうまく刺激して、誘うのです。

子育て中の親に、イライラはつきもの

およめちゃんが、幼子に「〇〇しなさい」と怒鳴っている姿は見たことがありません。イラついて、ほかの家族に当たったり、その場を放棄することはあるけれど、これが正解です。こういうことができるために、私たち家族がいるんです。私は、イラつく彼女に同情し、彼女がうんざりして脱力し始めたら孫を受け取ります。

子どもは言うことを聞きません。それが仕事だからです。脳は、この星のありようを知ろうとしています。目についたものに触り、やりたいと感じたことをやってみます。「やるな」と言われれば、当然やります。なにが起こるか知りたいからです。

それは、脳の構造から言えば28歳まで続きます。

その子どもを、一度の失敗もなく正しく導こうとして、親は焦ります。それが親の本能だから。かくして、子育て中の親にイライラはつきもの。要は、そのイライラをどう処理するかです。

よその子と比べない、世間体を言わない

ワンオペ育児のママたちが、その場から逃げ出せないことに、心から同情します。彼女たちに必要なのは、イライラを“放電”させてくれる相手。そして、自分を取り戻す、ひとりの時間をもらうこと。

そんなワンオペ育児のママ以上に、よその子と比べたり、世間体を口にする親(子どもの祖父母)をもつママには、もっと同情します。イライラをさらに加速させられるということだから。最近は若々しい60代70代も増えています。“若々しい”ついでに「親のような気持ち」で孫を抱く祖父母もいるように見えます。

・他人の子や世間と比べて劣っていることを心配する
・親のしつけに意見する
・親以上に世間体を気にする

―これらは、いまだなお「親」のステージにいる祖父母たちの言動。「世間体を気にしてしつけをする」のは元来、親の役目で、しかも、21世紀には、やや控えめにしていくべきこと。祖父母の役割は、親をリラックスさせて、ブレーキをかける役どころなのに。

よその子と比べるのは、「孫を褒めるとき」のみ。親がよその子と比べて、孫のできないことを心配しても、それに乗っからないことです。