純丘曜彰 教授博士 / 大阪芸術大学

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構造からすれば、EV車は画期的だ。エンジンが無い。ホイール内にモーターがあるだけ。部品数も少ないから、故障も少なく、メンテナンスが楽。問題はバッテリーだが、これも冷却システムを組み込むことで、猛暑にも対応。量産すれば、リチウムより安全な固体電池も出て来るだろう。冬場のヒーターは電気ストーブ並みに電気を食うが、エンジンという熱源が無いから、夏はクーラーの効きもいい。排熱も少なく、空気の薄い高地でもトラック輸送ができる。

と、良いことばかりのように思うのは、理系バカ。ヨーロッパや米国のEVシフトが失敗した大きな原因は、部品数の少なさ、メンテナンスの楽さ。EVシフトは、既存の自動車メーカー、自動車関連産業の雇用を激減させてしまう。面倒な機械だからこそ、社会を広くうまく潤してきていたのに。逆に、既存の自動車産業の無い後発の中国などにとっては、簡単に製造維持できるEV車は、参入が容易だった。

つまり、EVシフトには、大規模な産業構造の組み直しが必要になる。この社会コスト、というより犠牲が莫大すぎるのだ。先に自動車関連産業に代わる雇用先を育成し確保しないかぎり、ヨーロッパも米国もエンジン自動車という社会の「エンジン」を止めるわけにはいかない。これが「先進国」の経済の天井。

ネットビジネスだ、AIだ、なんだも、しょせんは旧態依然たる広告媒体としてのビジネスモデルでしかない。ほんとうにそれで仕事が効率化されれば、いよいよ雇用が激減するが、実情は、ただ投資として集めたカネを遊び呆けている従業員たちで山分けしていたただけ、という、その化けの皮も剥がれて、むしろITビジネスがリストラの嵐。これでは、自動車関連産業に代わる雇用の受け皿にはなりえない。

アニメ立国だ、観光立国だ、などと、バカなことを言っている連中もいるが、直接経済規模はともかく、経済波及効果において、自動車産業に優るものはいまだにない。波及効果のない産業は、一部が潤っても、社会的にも、産業内でも、経済格差を拡大し、外部不経済(ツケを外に回す)を引き起こすのみで、むしろ国を疲弊させる。長期的には人口減で労働集約産業からの脱皮効率化を図らなければならないのだから、こんな目先の思いつきは、むしろトレンドに逆行している。(昨日まで自動車の製造や整備をしていた人々が、明日からアニメを画いたり、ホテルで接客をしたりできるわけがない。そして、労働余力が無くなれば、アニメも、観光も、質がが落ちて国際競争力を失う。)

昨年の夏あたりから、欧米の自動車関連産業のストの多発で、この雇用の社会的問題が明らかになっていたのに、日本は新NISAとか言って、ドシロウトたちに投資を煽った。知っていてやったなら、巨大詐欺であり、知らずにやったなら、経済を語る資格は無い。週明け、いったんは下げ止まるかもしれないが、ファンダメンタルには、かなりクリティカルな状況だ。

(写真は国産の先駆的電気自動車。戦後、ガソリンが入手できなくなった日本は、こんなしゃれた車を作っていた。欧米の猿真似などせず、このまま続けていれば、日本の産業構造は、はるかに効率的なものに変わっていただろう。ガラパゴスと揶揄されようと、独創と努力なしに新時代の開拓はできない。)