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 夏のラブホ、それは刺激を求める人たちが訪れる場所。付き合いたてのアツアツなカップルから、一夜限りの秘密の関係まで……そんな場所に、時に招かれざる客が紛れ込んでしまうことがある。
 筆者(帆浦チリ、以下帆浦)は過去に、彼氏と訪れたラブホの部屋で、大きなトラウマになった経験がある。

◆悲劇の舞台は“リゾート風のおしゃれなラブホテル

 当時の帆浦とその彼氏は遠距離恋愛中。お互い実家と社員寮に住んでいてどちらかの家にお邪魔はできなかったので、遊ぶ時は前日の夜にラブホに一泊して、次の日に出かけるという感じで過ごすことが多かった。我々は同棲を始めるまでに全国津々浦々、結構な数のラブホに宿泊してきた。だがお互い気分屋で、とくに彼氏は行き当たりばったりな性格なのもあり、前もって部屋を予約するという堅実な行動を一切したことがない。むしろ、「ラブホを予約するなんてナンセンス。ホテルも旅もその時のフィーリングで決めるから楽しい」とか考えていた。

 そんなことを繰り返していたせいか、予想外の出費も多く常に金欠気味だったので、もっぱら安めのラブホを探しがちだった。

 その日もホテル街をドライブしながら彷徨っていたら、たまたま、青々とヤシの木などの植物が生い茂り、クワガタやセミが元気過ぎるくらいに飛び回る敷地に建つ、レンガ屋根のリゾートな雰囲気のラブホを発見した。値段も安いし、「南国リゾートみたいでおしゃれ!」という安易な理由で宿をここに決定。

 これが悲劇の始まりだった……。

◆「見て! トトロに出てくるお家みたい!」盛り上がっていた矢先に覚えた違和感

 土日だったせいかそこそこ賑わっていて、空き部屋も少なかったので目についたところにすぐ入室。内装は見ずに選んだのだが、入ってみると和洋のレトロで雰囲気のあるステキな部屋だった。安かったこともあり、とくにクオリティは期待していなかったので「広ーい! おしゃれ!」と俄然テンションも上がる。

 和室には、ドリフのコントに出てきそうなちゃぶ台と小ぶりなテレビがあり、棚に並べられた漫画や成人雑誌がなんともいい味を出している。隣の洋室とはふすまで仕切られていて、壁には丸い大きな飾り穴が空いていた。この穴が「となりのトトロ」のサツキとメイたちが引っ越した家の壁にある、大きな飾り穴にそっくりで大はしゃぎ。

「見てみて! これ、トトロに出てくる家の壁にある穴みたいじゃない⁉」

 とか言いつつ、子どものようにそこから身を乗り出して室内を覗き込み、トトロごっこをする帆浦。その瞬間、視界をものすごい速さで黒い影が横切ったのを、確かに感じた。

「ん? 虫……?」

 そう、気にならないほどの虫だったらよかったんだが。

◆素早く動く黒い影が、正体を現す

 気のせいだと思いたかったが、それにしては存在感がありすぎた。とてつもなく嫌な予感……。男の浮気と害虫に対して、女の勘は高確率で的中する。そもそもよく考えたら、たくさんの植物に囲まれたこのホテルの立地環境では、室内にどんな虫が出てもおかしくないのだ。脳内に絶え間なく浮かぶ最悪のイメージ。真夏の蒸し暑い夜なのに止まらない鳥肌。とりあえず、隣の洋室で呑気にくつろいでいる彼を呼ばなければ。

「ねえ! 気のせいかもしれないんだけど、今そこに……」

 彼氏に確認してもらおうと大きめの声を出した途端、ちゃぶ台の足元の死角からものすごい勢いでそれが飛び出してきた。真っ黒でツヤツヤな体、不規則に動く長い触覚、間違いなく夏の天敵代表、ゴキブリだ。

 やっぱり気のせいじゃなかった!! どうしてよりによってこの部屋なの⁉ 本気でゴキブリだけは無理なんだよおおお!! 湧き上がるさまざまな感情が全て「ギャー!!」という渾身の叫びに変わる。この世の終わりのような絶叫を聞き何事かと駆けつけた彼氏に、取り乱しながらも状況を説明する。