部屋の新設に伴う神事を終え、記念撮影する中村親方(前列左端)と力士ら=6月12日

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 大相撲の中村部屋が1日付で新設された。元関脇嘉風の中村親方(42)が8人の力士らとともに二所ノ関部屋から独立。44番目の部屋として、両国国技館に最も近い旧陸奥部屋の建物に居を構えた。理論派で知られる若き師匠が目指す「自分の形」の相撲部屋とは。伝統を大事にしつつ、新たな試みにも意欲をみなぎらせた。

 念願の船出。中村親方は充実感に満ちあふれていた。「楽しみしかない。ついてきてくれた弟子への恩返しは、彼らの番付を上げて、強くなる環境を整えること」。晴れ晴れと決意を口にした。

 現役時代の師匠だった元大関琴風の先代尾車親方のもとで2年5カ月、尾車部屋閉鎖後は元横綱稀勢の里の二所ノ関親方のもとで2年3カ月、部屋付き親方として研さんを積んだ。吸収した学びを生かすことが、2人への恩返しになる。

 独立にあたり、部屋のルールを決めた。弟子を集めて告げたのは「俺とあなたたち、みんなで部屋の規律・常識を決めていくのが、俺のルールだから」。誰でも意見を言える土壌を重視した。

 ルールも独特だ。日をまたぐ場合でも連絡すれば、未成年力士以外に門限はない。掃除、稽古など部屋のタイムスケジュールを守ってやるべきことをやればOK。中村親方は「規律では弟子を縛らない。信用・信頼で縛ります」と信念を語る。

 根底には自身の体験がある。師匠だった先代尾車親方には、少々ハメを外して失敗した時も助けてもらった。「自分は相撲を嫌いにならなかった。本分を忘れなければ、多少ははみ出してもいい。信頼を持って見守る。そういう“琴風イズム”を引き継いで、自分もそういう親方になりたい。共に育つという意味で“共育”です」と理想を掲げる。

 掃除は若い衆の仕事ではなく、師匠、関取衆を含めてみんなでするのがルール。言って聞かせるのではなく、やって見せる。師匠は「自分がちゃんと背中で指導しなきゃいけない。洗いものだってやりますよ。付け人の雑用も少なくなるような部屋にしたい」と意図を明かした。

 稽古にも独自色を出す。午前と午後の“2部練”の日を導入。体作りには敏しょう性を高めるラダー(縄ばしご)トレーニングなどを取り入れ、みっちりと鍛え上げる。朝に稽古して昼、夜の1日2食が角界の常識だが、朝食をしっかりとって1日3食。「100キロを超える選手でも体が締まっている」とアメフト、レスリングや柔道といった異競技も参考にする。夕方からの土俵での稽古では、組み合った状態から技術を磨くことに重点を置く。

 斬新な取り組みにも、弟子の信頼は厚い。「中村親方がマイナスになるようなことをすることはまずない」と現役時の付け人も務めた部屋頭の幕内友風。師匠は「必要がないと思ったらやめればいいし、新たに必要だと思ったら増やせばいい。力士の意見も取り入れながら」と柔軟な姿勢を示し「目をかけて、手をかけて。少し形になった1カ月だった」とスタートを振り返った。

 65歳の定年までに20人以上の関取育成が目標。「今までの相撲の伝統を残しつつ、自分の形を作っていきたい。結果が出るまでやりますよ」と中村親方の言葉に熱がこもった。7月14日からは独立後初めての本場所となる名古屋場所を迎える。どんな成長曲線を力士が、中村部屋が描くのか。楽しみに注目したい。(デイリースポーツ・藤田昌央)