今年4月に、第一三共ヘルスケアは栄養ドリンク「リゲイン」の主力商品の出荷を終了した。栄養ドリンクが苦戦している背景には、エナジードリンクの浸透がある(筆者撮影)

「24時間戦えますか?」

平成元年、バブル崩壊前夜にこの印象的なキャッチフレーズで、人気商品となった栄養ドリンクの「リゲイン」。今年、4月に販売元の第一三共ヘルスケアはリゲインの主力商品の出荷を終了した。

「リゲインの主力商品とは?」と思うかもしれないが、50mlや100ml、カロリー控えめのゼロや、女性でも手に取りやすいピンクのボトルなど、一口で「リゲイン」といっても、さまざまな種類があるのだ。それが、今後は100mlのリゲインだけが残るという。

「モーレツ社員」は、今も名前を変えて存在している

この件を報じたNHKは記事の冒頭で「多様な働き方の広がりで、働く人たちをターゲットにしてきた栄養ドリンクの市場が縮小しています」と述べてるとともに、栄養ドリンクの国内市場が2000年頃をピークに縮小傾向が続いており、去年の販売額はその5年前と比べて8.6%減少していると報じている(インテージ調べ)。

【画像】そんなのが入ってたのか…!意外と知らないエナドリの「栄養成分表示」の真相。栄養ドリンクとはどこが違う?(10枚)

「24時間戦えますか?(=働けますか?)」の時代は終わり、今はテレワークや時短勤務など、働き方も多様化し、昔のような過酷な労働を強いられなくなったため、「リゲインをはじめとした栄養ドリンクは、苦境に立たされている」と言いたいのだろう。


このタイプがなくなるという。実際見ることが少なくなり、本記事のために複数のドラッグストア、コンビニを渡り歩いても、見つからなかった(画像:第一三共ヘルスケアHPより)

確かにコロナ禍を経て、働き方改革の恩恵を受けた人もいる。その一方で、深夜を過ぎても働いてタクシーで帰宅する、あるいは始発まで働き続ける「モーレツ社員」も、今は「社畜」と名前を変えて存在している。会社員の本業と並行して、命を削りながら副業を一生懸命している人もいるだろう。

そう考えると、今回のリゲインの出荷終了に関していえば、「エナジードリンク(以下、エナドリ)」の台頭のほうが、要因としては大きいだろう。

そこで、ここではエナドリが栄養ドリンクのお株を奪うまでのマーケティング方法や、そもそものエナドリと栄養ドリンクの違いを紹介していきたい。

栄養ドリンクから座を奪い取ったエナドリ

現在、エナドリはコンビニやスーパーマーケットなど至るところで販売されており、すっかり栄養ドリンクから「疲労回復のための飲み物」の座を奪い取ったといっても過言ではない。

インテージSRI+データによると、エナドリ市場はコロナ禍で2021年の対前年の伸びは鈍化したものの、マイナスに転じることなく近年伸び続け、2022年は前年比7.5%増の887億円を記録。2017年比では約1.7倍の伸びとなったという。

主な商品といえば、「レッドブル」と「モンスターエナジー」などの海外メーカーが挙げられるが、サントリーフーズの「ZONe」やコカ・コーラの「リアルゴールド XY」といった国内メーカーの商品も好調である。


今では各社、様々なエナドリを出しており、熾烈な争いが続いている(編集部撮影)

ただ、ひっそりと撤退・終売した商品も少なくない。アメリカからやってきた「ロックスター」、ワシのマークの大正製薬による「RAIZIN」、コカ・コーラの「バーン」、そして今回の主題であるリゲインも「リゲイン エナジードリンク」を販売していたのだ。今やどれも見かけなくなった。熾烈な競争を繰り広げながら、市場としては拡大をし続けてきた、ということだ。

一方の栄養ドリンクはというと、縮小気味とはいえ、大正製薬の「リポビタンD」、佐藤製薬の「ユンケル黄帝液」、アリナミン製薬の「アリナミンV」などは健在で、テレビCMもたびたび放映されている。どのコンビニに入っても、入り口付近の棚に必ず陳列されているため、いくら縮小しているとはいえ、このままなくなってしまうとは思えない。


リゲインの他にも栄養ドリンクは様々ある。が、全体で見れば縮小の傾向だ(編集部撮影)

ところで、栄養ドリンクとエナドリの違いはご存じだろうか? 大まかにいえば「タウリンが含まれているか否か」である。

例えばリゲインをはじめとした栄養ドリンクにはタウリンが含まれており、薬事法において「医薬品」または「医薬部外品」に分類される。これは病気に対する治療や緩和、予防効果が期待されることを意味する。

このタウリンという成分はアミノ酸から合成され、ホメオスタシスと呼ばれる“細胞を正常な状態に戻す作用”を持つ、生物にとって非常に重要な物質である。特に肝機能に対して効果を発揮するといわれており、胆汁の分泌を促進したり、肝細胞の再生を促進するとされている。

このように栄養ドリンクは医薬品または医薬部外品のため、「滋養強壮」や「栄養補給」などと宣伝できるのだ。


エナジードリンクの栄養成分表示(編集部撮影)

一方のエナドリは食品衛生法のもと、「清涼飲料水」に分類される。要はコカ・コーラや三ツ矢サイダーのようなジュースと同じ扱いである。

エナドリには栄養ドリンクのように、タウリンは含まれていないため、間違っても医薬品などではない(ややこしいが、海外のエナドリにはタウリンが含まれていることもある)。

その代わりに「カフェイン」と「アルギニン」、あるいは「ガラナ」などが添加されている。前者の説明は省かせてもらうが、後者は必須アミノ酸の一種であり、人の体内で生成できないアミノ酸である。代謝をよくする効果があり、この成分が「リフレッシュ」を感じさせてくれるのである(もっとも、エナドリを飲んでアガるのは、主にカフェインによるものだが……)。

勝因は「若者向けマーケティング」

栄養ドリンクとエナドリは、それぞれ違った飲み物だ。しかし、「疲労回復」という面においては、医薬品や医薬部外品のほうが効果はありそうである。それが、なぜエナドリに取って代わってしまったのだろうか? そこには、エナドリ側の「若者向けマーケティング」という戦略があった。

レッドブルが日本に初上陸したのは2005年からだが、当時はさまざまな栄養ドリンクが群雄割拠している時代。そこに、同じく「疲労回復」を謳うレッドブルが入り込む余地はなかった。

そこで、レッドブルはタウリンを抜いて清涼飲料水、つまりジュースとして販売することにした。

それはそれで、レッドオーシャンであるが、レッドブルは栄養ドリンクのいない世界で「アガる」「疲労回復」「カッコいい」というコンセプトを全面的に打ち出し、スポーツイベントや音楽フェスなど、若者が集まる場所でプロモーションをかけていく。


エナドリは、ビジュアルから洗練されているのだ(筆者撮影)

同様に現在、エナドリのシェア2位を誇るモンスターエナジーもタウリンを抜き、若者が集まりやすい場所での地道なサンプリング、そしてエクストリームスポーツなどのスポンサーとなり、「イケてる」飲み物というイメージを打ち出した。

「『アガる』とか『イケてる』とか、なんだかバカな分析だな」と思うことなかれ。エナドリが上陸するまでの日本で、「疲労回復」するには栄養ドリンクしかなかった。

「モーレツ」とは別の、「クール」なイメージ

その一方で、リゲインの「24時間働けますか?」がわかりやすい例だが、栄養ドリンクは「サラリーマン向け」、もっといえば「おじさん向け」の商品だった。


ドラッグストアでは常温の棚があるため、今も栄養ドリンクは多く売られている。しかし、ドラッグストアでもレジ横やコンビニでは、冷蔵庫のスペースをエナドリと分け合っている(編集部撮影)

そのなかでエナドリは「クラブで飲むとアガるイケてる飲み物」に「疲労回復」を添加させて、それまで日本人が栄養ドリンクに抱いていた「モーレツ」とは別の、「クール」なイメージをエナドリに抱かせたのである。

これが若者に大当たりした結果、「魔剤」というネットミームが生まれるほど、疲労回復のための飲み物としてのイメージが定着した(ただ、メーカーも予測していなかった小中高生までもが常飲するという問題も発生したりしたのだが)。

そして、売れれば、当然陳列される数量も増える。次第にコンビニの清涼飲料コーナーの一角をレッドブルとモンスターエナジーが占めるようになり、そうするとこれまで栄養ドリンクにしか目がいかなかった者も、大量に陳列されているエナドリが気になるようになる。

成分の「効き方」は人によって違うが、飲み比べて「どっちがいいか」を選ばせると、エナドリに軍配が上がるのは必然である。というのも、栄養ドリンクは医薬品や医薬部外品のため、薬のような味がして、「おいしい」とはいえない。それが、エナドリは大枠だとジュースのため、甘くて炭酸もハジけて飲みやすい。

こうして、これまで疲労回復のために栄養ドリンクを飲んでいた者たちが、おいしいエナドリに流れるのは容易に想像できるだろう。

この若者向けマーケティングによって、エナドリは、栄養ドリンクの市場規模を縮小させたのだった。

後続のZONeはeスポーツ、VTuber、スマートフォンゲーム『ウマ娘』とコラボし、リアルゴールド XYは「YOSHIKIプロデュース」を前面に打ち出している。レッドブルやモンスターエナジー同様、若者に向けて商品をアピールしているのだ。

YOSHIKIが若者向けかといわれてしまえば、そこに疑問符はつくが、それでもアリナミンVはスーツを着こなした反町隆史、ユンケル黄帝液はとうとう50歳になったイチロー、久光製薬の「エスカップ」は出社前の向井理をCMに登場させているように、栄養ドリンクはエナドリに対抗して、「サラリーマン向け」と完全にすみ分けがされた状態になっている。

ただ、その代表格だったリポビタンDは、今月から妻夫木聡と木南晴夏をCMに起用し、「チオビタ」のような爽やか路線に変更している。筋骨隆々の男たちはもうそこにいない。

「飲み過ぎてしまうこと」に危険性も

人々の働き方は変わらず、ただそのお供は栄養ドリンクからエナドリに変わっただけ。両者は完全に別物ではあるものの、それはそれとしてタウリン、カフェイン、アルギニン……何が入っていようと、飲んで「アガる」のであれば正直、成分は関係ないのかもしれない。

ただし、すでに触れたがエナドリの特徴は「飲みやすさ」にある。苦くてマズい栄養ドリンクを毎日1リットル飲むのは不可能だが、甘くてスッキリ感のあるエナドリだとごくごくいける。ストロング系飲料そのものが危険性なのではなく、「飲み過ぎてしまうこと」に危険性があるのと、同じ構造なのだ。

……ということで、後編の記事「エナドリを「1日1リットル」飲んだ私に起きた異変 一気飲みで心臓バクバク…アル中が犯した危険」(6月27日公開)では、アルコール依存症だった時期に、同時並行でエナドリを「1日1リットル」飲んでいた筆者が、命の危険を感じた体験談を綴っていく。

後編で紹介する写真の一例


当時愛飲していた「ZONe」。コスパがよく、レッドブルが250mlのロング缶で300円近くするのに対し、ZONeは200円で500mlも飲めた(筆者撮影)


元アルコール依存症の筆者。もっとも飲んでいたときは、1日10缶もストロング系缶チューハイを飲んでいた(筆者撮影)


アルコール依存症を経て、筆者はどうなったかと言うと…詳しくは後編の記事をどうぞ(筆者撮影)

(千駄木 雄大 : 編集者/ライター)