Metaのアカウント復活のために最終手段として少額訴訟を使った事例いろいろ
FacebookやInstagramを運営するMetaは、2022年になってようやくカスタマーサポート部門を作る取り組みを始めたというぐらいユーザーからの問い合わせを軽視していて、長らくまともな問い合わせ窓口を置いていなかったことが知られています。それゆえか、カスタマーサポートの品質はとても低く、根拠なくアカウントを停止されていつまでたっても解除されないなどの不満を抱いたユーザーが、少額訴訟で会社を動した事例が共有されています。
https://www.engadget.com/how-small-claims-court-became-metas-customer-service-hotline-160224479.html
ニュースサイトのEngadgetは、個人がMetaを相手取って起こした少額訴訟が過去2年に4つの州で5件あり、2件は棄却されたものの、3件の原告は失われたアカウントの少なくとも1つは復活させることができたと報告しています。
◆1:レイ・パレナ氏の事例
ニュージャージー州在住のレイ・パレナ氏は20年以上前、まだFacebookが大学生向けに提供されていたころにアカウントを作成したユーザーの1人です。
パレナ氏のFacebookアカウントは攻撃者に乗っ取られ、登録しているメールアドレスと電話番号を変更した上で、Facebook Marketplaceに詐欺リストを掲載するために利用されていました。このことについてパレナ氏はEngadgetに対して「誰かが詐欺に遭ったとき、私と、私の名前が受けるダメージのことを気にしていました」と語っています。
パレナ氏によると、Metaが「アカウントを乗っ取られた」という申し出を無視し続けたため、「サービス規約に反して、ハッキングされたアカウントを放置してパレナ氏の評判を傷つけた」として、サンマテオ郡少額裁判所への提訴を決めたとのこと。
パレナ氏が求めた損害賠償額は、少額訴訟として最高額の1万ドル(約159万円)でした。このことについてパレナ氏は「金銭的な補償についてはあまり気にしていませんでした。ただ、アカウントがハッカーに乗っ取られていたので、返してほしかっただけです。ハッカーは、私の名前とプロフィール画像で、私のアカウントを使っていたのです」と語っています。
提訴から数週間後、パレナ氏のもとにはMetaの法務担当者からアカウントに関する情報を求める連絡があり、何通かメールのやりとりをしたものの、アカウントを取り戻す助けにはならなかったとのこと。いよいよ審問が行われる前日にも「アクセスチームがアカウントを安全にして再び有効化する作業に取り組んでいます。訴えを取り下げませんか?」という連絡が来たそうですが、アカウントを取り戻せたわけではなかったためパレナ氏は「明日、出廷するつもりです」と返答。すると審問当日になって、アカウントのパスワードをリセットするメールが届いたそうです。
しかしパレナ氏はそのまま出席。Metaは出席せず、パレナ氏は8カ月の時間と、裁判所への旅費およそ700ドル(約11万1200円)かけて、Facebookアカウントを取り戻すことに成功した形となりました。ただし、まだ解決は暫定的なものであり、Engadgetの調べによれば裁判自体は続いているとのこと。
◆2:ヴァレリー・ガルザ氏の事例
マッサージ事業を営むヴァレリー・ガルザ氏の事例は、FacebookアカウントとInstagramアカウントがハッキングを受けて使用不可能になったとしてサンディエゴの少額裁判所へ提訴したもの。
Metaは審理開始の数週間前に訴訟を取り下げるよう求めましたが、ガルザ氏は無視。結果として、Metaは審理に出席しなかったことでガルザ氏は「不戦勝」となりました。しかし、審理に出なかったことを理由に、Metaは裁判官に対して判決の破棄を求める申し立てを行いました。
対抗するための動きを始めたガルザ氏らは、ハッキングした攻撃者がInstagramアカウントを規約違反であるセックスワークの宣伝に利用していることや、Facebookアカウントで不正請求を行っていることを突き止めました。
ところが、次の審理にもMetaは出席せず、裁判所はMetaに、ガルザ氏に対する7268.65ドル(約115万円)の損害賠償支払いを命じました。
この裁判についてガルザ氏は「私の推測ですが、Metaは自社事業でどれだけ大きな怠慢をしていて、広告主の安全性や財務面の保証についてほとんど気にしていないということを示すような記録を公開したくなかったのではないでしょうか」と語りました。また、ガルザ氏はこの裁判に1年以上かけて、法廷に3回出廷することになりましたが、「そうするだけの価値はあった」と述べています。
◆3:ロン・ゴール氏の事例
ノースダコタ州在住のロン・ゴール氏は、標的型攻撃を受けてMetaにアカウントを無効化されたため少額訴訟を起こしました。
しかし、Meta側の弁護士がノースダコタ州法に基づいて訴えを扱う裁判所を地方裁判所に移したのち、棄却されています。
ゴール氏はEngadgetに対して「弁護士をつけられなかったので少額訴訟にしたのです」と、Meta側が弁護士をつけて対応してきたのが予定外だった旨を語っています。
◆4:ライアン氏とパートナーの事例
アリゾナ州で不動産業を営むライアン氏とそのパートナーは、それぞれ大規模なFacebookグループの管理をしていましたが、2022年秋に「著作権侵害の疑い」でアカウントが無効化されたため、Metaを相手取って少額訴訟を起こしました。
審問実施を前に、Metaはライアン氏らに「利用規約があるので、Metaとしてはどんな理由をつけてでも人(のアカウント)を削除できる」と伝えてきたそうです。結局、ライアン氏はMetaの弁護団が主張した「アカウント回復の手助けをする」という言葉に乗り、訴訟取り下げに合意しました。しかしパートナーのアカウントについて、Metaは「完全に削除された」とのことで復旧は不可能だと説明したそうです。
Metaが和解金として提示したのは、アリゾナ州の少額訴訟の最高額にあたる3500ドル(約55万6000円)でした。ライアン氏らは、Facebookアカウントが無効化されたことで潜在的に数万ドル(数百万円)を失っていると不満だったものの、Metaはそれ以上の支払いを拒否し、ライアン氏らに選択肢はなかったとのこと。
ライアン氏は「裁判を進める準備はありましたが、1万5000ドル(約238万円)の保証金なしでついてくれる弁護士はいませんし、それだけの価値はありません」と述べています。
なお、これらの少額訴訟についてEngadgetから問い合わせを受けたMetaは、直接的な回答はせず、「われわれは、アカウントへのアクセスを失ったり回復したりすることがストレスになることを知っていて、アカウント侵害を未然に防ぐための投資を行っています」「一方で、攻撃者はネット全体を標的として、我々のようなSNSなどで見つからないように適応しています」「悪意ある活動を検出し、侵害された可能性のあるユーザーの保護を支援するため、Metaはユーザーがアカウントの問題を報告できる経路を用意し、法執行機関と協力して悪意ある攻撃者への法的措置を講じるとともに、サポートシステムを絶えず改善しています」という声明を返してきたとのことです。