スポーツウェアブランドのチャンピオン(Champion)は、新たなオーナーとなったブランド管理会社であるオーセンティック・ブランズ・グループ(Authentic Brands Group)の下でビジネスを建て直すことを望んでいる。しかし、その勝利までの道のりは厳しいかもしれない。

6月初週、カジュアルファッションブランドのヘインズブランズ(HanesBrands)はチャンピオンをオーセンティックに12億ドル(約1880億円)で売却し、業績連動報酬としてさらに3億ドル(約470億円)を支払う可能性があると発表した

財務的重荷を捨て去るべきとき



このニュースが報じられたのは、ヘインズブランズがコスト削減をめざしてチャンピオンの見直しに着手してから9カ月後のことだ。

チャンピオンはその名前にもかかわらず、長い間ヘインズブランズの収益の足を引っ張っていた。5月時点で、チャンピオンの四半期売上高は全世界で前年比26%減だった。一方、米国での売上高は前年比35%減だった。3月30日時点で、ヘインズブランズの長期債務は32億3700万ドル(約5080億円)だった。

アナリストは、ヘインズブランズがチャンピオンという財務的重荷を捨て去るべきときが来たのだと、米モダンリテールに語った。「ブランドの売却は、苦戦している企業にとって常に助けになる」とコンサルティング会社のジェーン・ハリ&アソシエイツ(Jane Hali & Associates)でシニアリサーチアナリストを務めるジェシカ・ラミレズ氏は述べた。

チャンピオンがなくなったことで、ヘインズブランズは損失を削減できる。あるいは、ヘインズブランズのCEOが6月初めに述べたように「適切な経営体制を整える」ことができる。今度は、オーセンティックがチャンピオンを建て直し、成長に向けて体制を整える番だ。しかし、スポーツアパレル業界の厳しい競争を考えると、それは難しいかもしれない。

ヘインズの足を引っ張っていたチャンピオン



1919年に創業したチャンピオンは、かつてはスポーツウェアブランドの最大手のひとつだった。当初、ニッカーボッカーニッティングミルズ(Knickerbocker Knitting Mills)と称していた同社は、自身がフーディースウェットシャツとスポーツブラの発明者であると主張している。ビジネスインサイダー(Business Insider)が報じたところによると、1990年代にはヒップホップアーティストのあいだで特に人気を博し、ビースティ・ボーイズやシュプリームなどとのコラボレーションを展開してきた。1989年に食品会社のサラリー(Sara Lee)がチャンピオンを買収したのち、2006年にヘインズブランズの一部として分社化した。

しかし近年、チャンピオンの売上は低迷している。スポーツウェアブランドのナイキ(Nike)、アディダス(Adidas)、ルルレモン(Lululemon)などの企業が成長するにつれ、市場シェアを失いはじめた。そして2018年には、大手小売チェーンのターゲット(Target)と提携して生まれた人気ラインであるC9の生産を中止した。当時、ヘインズブランズはコストと支出の増加により、前四半期の利益が前年比で18%減少したと述べた。ターゲットの広報担当者はニュースチャンネルのCNNに、C9ラインの生産中止は店舗で販売する独占ブランドを刷新する「複数年にわたる広範な戦略」の一環だと語った。

それからの数年間、ヘインズブランズの需要は落ち込み、卸売業者は注文を減らした。同社は負債を積み上げ、2023年2月にはフリーキャッシュフローのすべてを負債の返済にあてた。昨年、ヘインズブランズは不振だったチャンピオンの業績計画を策定したが、そこには「在庫評価減5900万ドル(約93億円)」と「専門家の手数料、サプライチェーンの細分化、店舗閉鎖、退職金、その他の費用に関連する支出2900万ドル(約46億円)」が含まれていた。

チャンピオンを売却することでヘインズブランズはこれらの投資から解放されるが、同時に商品の面でも解放される。両社は提供する商品が異なっており、チャンピオンは主にランニングショーツ、レギンス、ジョガーを販売しているのに対し、ヘインズブランズは主にアンダーシャツ、アンダーウェアなどの肌着を販売している。ヘインズブランズのCEOは声明で、チャンピオンを売却したことでヘインズブランズは「さらに強い立場」からインナーウェアにフォーカスできると認めた。

オーセンティックはチャンピオン再建に相応しい場所なのか



ヘインズブランズのそのほかの資産には、アパレルブランドのヘインズ(Hanes)、ベビー用品ブランドのプレイテックス(Playtex)、女性用下着ブランドのワンダーブラ(Wonderbra)、バリ(Bali)、メイデンフォーム(Maidenform)などがある。投資会社のウェドブッシュ証券(Wedbush Securities)で株式調査担当シニアバイスプレジデントを務めるトム・ニキック氏は、「チャンピオンのような商品は必ずしもヘインズの主力ではない」と米モダンリテールに語った。「チャンピオンは、あるコアコンピテンシーを持つ企業から、まったく異なるコアコンピテンシー持つ企業に移行しているところだ」。

チャンピオンの新しいオーナーであるオーセンティックは、ヘインズブランズよりもチャンピオンに合っている可能性が高いとニキック氏は語った。たとえば、オーセンティックのポートフォリオには、サーフブランドのビラボン(Billabong)やクイックシルバー(Quiksilver)のようなスポーツ関連ブランドも含まれている。さらに同氏は、「オーセンティック・ブランズ・グループは、知名度の高いブランドを取り上げ、流通を最適化し、ライセンス契約を結ぶ方法を見つけるのに長けている」という。たとえば、オーセンティックはスポーツ月刊誌のスポーツイラストレイテッド(Sports Illustrated)やロックアーティストのエルビス・プレスリーなどのライセンス事業を展開している。

オーセンティックは買収に慣れている。1月にはブーツメーカーのウルバリン(Wolverine)からボートシューズブランドのスペリー(Sperry)を買収し、2023年4月にはスポーツライフスタイル企業のボードライダーズ(Boardriders)を買収した。2023年6月にはブーツブランドのハンター(Hunter)の知的財産権を獲得した。

オーセンティックは現在40以上の資産を管理しているが、ラミレズ氏はオーセンティックがチャンピオンにとって最適な場所であるかどうかは懐疑的だという。オーセンティックの有名ブランドの多くは、アパレルブランドのエアロポステール(Aéropostale)、フォーエバー21(Forever 21)、ラッキーブランド(Lucky Brand)、ロキシー(Roxy)など、1990年代や2000年代はじめに人気があったブランドだと同氏は指摘した。「オーセンティック・ブランズは多くのブランドを所有しているが、現在の市場にとって重要なブランドではない」という。

激化するスポーツアパレル業界の競争で生き残るには



総合情報サービス会社のブルームバーグ(Bloomberg)によると、オーセンティックの評価額が最後に200億ドル(約3兆1400億円)とされたのは2023年6月のことだ。当時、同社は成長株投資会社のジェネラルアトランティック(General Atlantic)から5億ドル(約785億円)を調達していた。その2年前の2021年7月、オーセンティックは15億ドル(約2360億円)のIPOで株式を公開するという計画を提出した。

計画は4カ月後に撤回されたが、現在は2025年半ばまでに上場することを再度検討していると、新興ニュースメディアのアクシオス(Axios)が1月に報じた。

それでも、オーセンティックには課題が待ち受けている。同社は、スポーツアパレル業界の競争が激化する時期にチャンピオンを買収する。今年のはじめ、アスレジャーブランドのブオリ(Vuori)の創業者は、かつてない規模で新製品を投入する予定だと米モダンリテールに語った。

ルルレモンの第1四半期の収益は10%増えて22億ドル(約3450億円)となった。トレッキングシューズブランドのホカ(Hoka)はニューヨークの新しい旗艦店で衣料品のテストを行っている。さらに、経済紙のウォールストリートジャーナル(Wall Street Journal)によると、ヨガウェアブランドのアロ(Alo)は2022年に10億ドル(約1570億円)以上を売り上げている。

「そこは厳しい競争の世界で、チャンピオンよりもはるかに強いブランドがいる」とラミレズ氏は語った。

[原文:What Champion’s future looks like under Authentic Brands Group]

Julia Waldow(翻訳:ジェスコーポレーション 編集:分島翔平)

Image via Champion on Instagram