キョン(写真提供・苅込太郎)

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「八丈島のきょんっ!」という漫画「がきデカ」のギャグを知っているのは中高年男性がほとんどだろうか。シカ科の生き物であるキョンは、見た目も小鹿のようで愛らしい。

 しかし今、本州で「キョン」はシャレにならない問題を引き起こしている。

 千葉県南部を中心にキョンが大繁殖し、対策が喫緊の課題となっているのだ。2001年に勝浦市のテーマパークから逃げ出した数匹が野生化し、現在は7万匹を超えるほどに。育てている花や作物の葉を食い荒らす被害も多く、千葉県では報奨金を出して防除を図っているが、鴨川市の住人は「最近、見ない日はない。目に見えて増えている」と話す。

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台湾やヨーロッパでは“高級食材”

 増え続ける迷惑動物として名をはせたキョンだが、台湾やヨーロッパでは高級食材とされている。ならば、と猟師と料理人にお願いしてキョン料理を食べてみることに。

キョン(写真提供・苅込太郎)

「まずはシンプルに焼いたキョンのモモ肉を塩とこしょうで召し上がってください」

 テーブルに皿が置かれたとたん、焼き立てのステーキのようないい香りが漂ってくる。ひと口食べると、思わず「うまい!」と声が出てしまった。肉質はとても柔らかく、もちろん臭みはまったくない。やや肉汁は少ないが、味も見た目も赤身の牛肉に近い。

 2皿目は夏みかんソースとグリーンマスタードを添えた一品。夏みかんの甘酸っぱさで肉質がよりジューシーに感じられる。3皿目はヒレ肉に上総牛のデミグラスソースとゴルゴンゾーラチーズ添え。チーズの強い味にも負けず肉自体の味が引き立っている。4皿目は君津産のイチゴソースがかかったヒレ肉で、これが絶品。お代わりが欲しくなるほどだったが、残念にもキョン肉が尽きてしまった。

おいしく食べるコツは?

 キョン料理を特別に作ってくれたのは鴨川市のイタリア料理店「チェルカトローヴァ」オーナーシェフの北浦洋平さん(39)。新鮮なキョンの肉を提供してくれたのは、鴨川市で猟師をしている苅込太郎さん(40)。当日の朝、わなにかかったばかりのキョンだという。

 キョン猟は、キョンの通り道に「くくりわな」を置く。わなを踏むとワイヤーが締まり、脚を捉える仕掛けだ。わなにかかったキョンを回収したら、素早く血抜きをする。それがおいしく食べるコツだと苅込さんは言う。

「ちゃんと処理をしたキョンの肉は本当においしいです。私も自分で調理をして食べますが、ほとんどを中華料理の素材として使っていました。今日いただいたようなイタリア料理風は初めて。驚くほどおいしかった」

報奨金を払うくらいなら“名物料理”に

 5月30日には、キョン被害の拡大を食い止めるために千葉県のお隣、茨城県でも報奨金制度をスタートさせた。キョンを撮影したうえでの目撃情報に2000円、捕獲すれば1匹3万円が支払われるという。

 猟師も驚くほどおいしいのだから、いっそのこと名物料理にして食べてしまえばいいのではないだろうか。

撮影・西村純

「週刊新潮」2024年6月13日号 掲載