【今井 悠介】子どもにピアノはさせない…シングルマザーが語る「体験格差」のリアル

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習い事家族旅行は贅沢?子どもたちから何が奪われているのか?

低所得家庭の子どもの約3人に1人が「体験ゼロ」、人気の水泳と音楽で生じる格差、近所のお祭りにすら格差がある……いまの日本社会にはどのような「体験格差」の現実があり、解消するために何ができるのか。

発売即3刷が決まった話題書『体験格差』では、日本初の全国調査からこの社会で連鎖する「もうひとつの貧困」の実態に迫る。

*本記事は今井悠介『体験格差』から抜粋・再編集したものです。

事例:アウトドア系は行ったことがない

長谷川陽菜さん 長男(大学生)・長女(小学生)・次女(幼児)

──例えばの話ですが、もし小学生の娘さんから「ピアノ教室に行きたい」と言われて、それに月額数千円かかるとしたら、どうされますか。

行かさないですね。ピアノはさせないと思います。後々のことを考えるんですよね。大人になってピアニストになるわけじゃないと思うんです。ピアノで生活できるのってきっと一握りの一握りじゃないですか。

生活費から数千円削って何かに行かせるなら、後々に活きてくるようなものにしたくて。どうせ同じお金を出すなら。例えば、そろばんだったりとか。そろばんは長男が年中から小3ぐらいまでしてたんですけど、数学が一番得意になって。

娘は保育園の頃から公民館で英語とダンスに行かせてますね。月に1回ずつでそれぞれ500円です。先生とも相性が良くて、娘も休みたいとか辞めたいとか言わずに続けてますね。行かせて良かったかなと思っています。

──泊まりの旅行だったり、遊園地とか動物園に行かれたりということはありますか。

ないですね。お金もかかるし一人で連れていくのも大変なので。アウトドアは自分があんまり好きじゃないというのも正直ありますね。

──お子さんの側から行きたいと言うこともあまりないですか。

ないですね。行ったことがないから、そういう体験がないから、わからないのかもしれないです。

──ご自身が子どもの頃にキャンプとか、アウトドアの体験をされたりしましたか。

全然行ってないです。私の母親もずっとシングルだったので。だから多分、私自身が関心だったり、アウトドアな感じのところに行きたいっていう感覚がないです。

近くの市民センターみたいなところで、キーホルダーづくりとか、水遊びとか、無料で子どもたちが参加できるのが定期的にあるんですよ。土日はそういうのを見つけて連れていってますね。

車で20分とかで行ける範囲なら送り迎えも私は苦じゃないです。自分が疲れてても、子どもからしたら関係ないじゃないですか。今はちょっと寝ないと無理ですけど、昔だったら寝ずにでもどっか連れていってましたね。だから、ちょっとタフっちゃタフかもしれないですね、私は。

──長男が小さい頃にそろばんに行かれていたとのことですが、ほかにも何か習い事をしていましたか。

高校受験のときから塾に行ってました。長男は小5から中2くらいまで不登校で、友達はいたんですけど学校には行けてなくて。それで、中3で学校に戻る前に、友達が通っていた家の近くの個人塾に通いたいと言ったので行かせました。受験もあったから。

年配の男性の先生だったんですけど、長男との相性がめちゃくちゃ良かったみたいで、しょっちゅう行ってましたね。県立の高校に入ってからも、まだその塾に行きたいって言うから高3まで行ったんです。月に8000円とかかな。本当は週2回の料金だと思うんですけど、何回行っても値段が上がるということもなくて、週に4回か5回行ってたんじゃないかな。

──それは、先生が長谷川さんの家庭の状況を慮ってということでしょうか。

わかってたのかもしれないですね、それもあったのかもしれないです。

夏期講習とか、お金が固まって要るのは1回しか行ってないです。ちょっと高いから。

──子育てのことなどで困りごとがあるときに相談する相手がいますか。

いないですね。ママ友はいるけどそこまで深い話はしないかな。自分の中で解決してしまうタイプなので。自分で考えるっていうか。誰かに言うほうが苦手です。

自分とまったく同じ環境じゃなかったら、相手もわからないじゃないですか。向こうも困るだろうし。相談してわかってないようなことを言われても、こっちも嫌な気になったりするから。だったら別に言わなくてもいいかなって。

──長谷川さんご自身がストレス発散をしたり、リラックスする方法はありますか。

私はなんでもはっきり言うほうだからあまりストレス溜まってないかもしれないです。子どもと24時間いるのはストレスになるので、子どもが保育園に行って、学校に行って、学童に行って、自分は仕事をしてっていうほうが楽だなって思います。適度な距離感があったほうがいいと思っていて。

仕事が平日休みのときは、子どもが家にいないので、そこでちょっとゆっくりするとか、ぼーっとするとか。一人の時間があるから。それぐらいかな。たまに友達と会ったりもするんですけど、それが疲れるときもあるので。

本書の引用元『体験格差』では、「低所得家庭の子どもの約3人に1人が体験ゼロ」「人気の水泳と音楽で生じる格差」といったデータや10人の当事者インタビューなどから、体験格差の問題の構造を明かし、解消の打ち手を探る。

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