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バッテリーEVへ有利な法規制が変われば量産も

水素の生産会社を傘下に収める巨大企業、イネオス。AUTOCARの読者なら、豊かな資金力を活かし、オフローダーを独自開発したことをご存知だろう。しかし彼らも、水素の将来性を信じつつ、それを燃料とするクルマの需要が見込めないことを認めている。

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だとしても、イネオス・オートモーティブは、グレナディアの水素燃料電池車(FCV)を試作した。最高経営責任者(CEO)を務めるリン・カルダー氏は、バッテリーEVへ極めて有利な法規制が改定されれば、2030年代に発売される可能性があると話す。


イネオス・グレナディア・ハイドロジェン(プロトタイプ/英国仕様)

「将来的には、水素が事業を構成する強力な一部になる可能性が高いでしょう。でも、まだ先のことですね」。と説明するカルダーだが、水素FCVは燃料の充填時間が短く済み、既に充分な航続距離も得られることを、繰り返し主張する。

「バッテリーEVは、オフロードでは重すぎ、牽引能力も制限されます。充電器がない大自然の中では、充電の問題も生じます」。グレナディアのような大型のオフローダーには、水素燃料電池が好適だと考えている。

カラフルに塗られたプロトタイプを仕上げるのに、要した期間は僅か11か月。完成したのは1台のみだが、水素FCVの将来性と可能性を証明するため、世界を巡るプロモーション活動が計画されているそうだ。

燃料電池はBMW社製 ビデオゲームのように簡単

イネオスは、水素FCVが緊急部隊やNGO、国境警備隊などで活躍できると想定。BMWが開発した115kWの燃料電池システムを、ボンネット内に搭載した。ラダーフレーム・シャシーには、2kgの水素タンクが2本収まっている。

小さな駆動用バッテリーは、荷室のフロア下に搭載。プロトタイプの航続距離は、現状では200kmだが、量産仕様ではこの3倍が計画されているとのこと。


イネオス・グレナディア・ハイドロジェン(プロトタイプ/英国仕様)

燃料電池以外のドライブトレインは、従来のグレナディアと同一だという。駆動用モーターは3基載り、デフロックを備えるフロントアクスル側は1基、リア側は左右個別に2基が受け持つ。

今回、このプロトタイプへ試乗したのは、ロンドンの北、ミルブルックにあるオフロードコース。まだ防水性が完璧ではないということで、深い水たまりは避けることになったが、かなり本格的なセクションが続いた。

グレナディアの開発が進められた、オーストリア・シェークル峠の悪路と比べれば、だいぶ優しいだろう。とはいえ水素FCVのグレナディアは、簡単な運転操作だけで、手強そうな地形をクリアしていく。まるで、リビングでビデオゲームをしているように。

見るからに危険そうな場所でも、滑らかに前へ進んでいく。筆者は、ステアリングホイールとペダルを操っていればいい。

内燃エンジン車より悪路へ立ち向かいやすい

助手席には、チーフエンジニアのパメラ・アマン氏が座っている。彼は「ビギナー向けのオフローダーですよ」。と水素FCVのグレナディアを説明するが、それでも唸るほどの走破性だと思う。

ドライブトレインは驚くほど静か。各タイヤがどのように路面を掴んでいるのか、音でも理解しやすい。それに合わせてパワーを展開できるため、内燃エンジン車より悪路へ立ち向かいやすいのではないだろうか。


イネオス・グレナディア・ハイドロジェン(プロトタイプ/英国仕様)

BMWのエンジンを積んだグレナディアと乗り比べてみたが、走破性は同等といって良かった。むしろ正確に運転できるため、有利かもしれない。アマンは、トラクションがかからなければトルクを展開できないため、優れた精度が対応力を高めると話す。

量産仕様では、フロントのロッキングデフは降ろされ、リアと同様に2基のモーターが左右を受け持つ可能性が高いという。高度な電子システムが、4本のタイヤを個別に制御することになる。

それにより、一層メカニズムは簡素化される。プロトタイプ以上に、走破性も引き上げられるだろう。

カルダーは、このクルマの可能性を信じている。「水素はとてもエキサイティングなものですよ。(内燃エンジン車と)同等の機能を備えながら、実質的にゼロ・エミッションなクルマを作れるのですから」