家族同然のペットと幸せに暮らすにはどんな家がいいか。一級建築士の水越美枝子さんは「ペットと暮らす家は、小さな子どもがいる家と同様、『安全』『掃除がしやすい』『使うものを使う場所に収納する適所の法則にしたがう』という3点が大切になる。ペットとの住まいで問題となるトイレは、人間のトイレのすぐ隣にするといい。用を足したらすぐに流せるうえ、隣接する洗面所で手洗いもできて効率的である。洗面所をフル活用するといい」という――。

※本稿は、水越美枝子『40代からの住まいリセット術』(三笠書房)の一部を再編集したものです。

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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Rixipix

■わが子同然の犬と暮らすためバリアフリーの床に

リフォームにあたってCさんからのリクエストは、「滑りにくいバリアフリーの床にしたい」というものでした。

それは、「愛犬を家のなかで思い切り遊ばせたい」という理由です。

「ペットというより、大切な家族」として、犬や猫に愛情を注いでいる人はたくさんいます。いまは室内で飼うケースがほとんどで、そうした「家族の一員」に配慮した住まいを考えることも珍しくない時代になっています。

Cさん夫婦にとっても、犬はわが子同然。リフォームの相談では、愛犬の生活がしばしば話題にのぼりました。

動物は毛が抜けますし、部屋を汚してしまうこともあります。掃除がしやすいという人間の都合で言えば、「ペットのいる家=フローリング」となりがちです。

ところが、汚れにくく塗装されたフローリングの滑りやすさは、犬にとって大変な負担です。

足腰や関節を痛めたり、滑って怪我(けが)をしたり、長年のあいだには椎間板(ついかんばん)ヘルニアを患(わずら)う誘因にもなります。段差もまた、昇ったり降りたりするときに、体に負担がかかるそうです。

■手軽に掃除ができて滑りにくい床

雨の日など、家のなかでも思い切り遊ばせてあげたいけれど、体を痛めることがあっては困ります。そのためCさんは、手軽に掃除ができて滑りにくい床をリクエストしてきたのでした。

そこで床材は、ペット用の滑りにくい材質のものを選択しました。

中型犬が自由に遊べるように、5畳のキッチンをつぶして大きなリビング・ダイニングに。キッチンは和室だったところに移し、すべてフラットにして犬が負担なく動きまわれるようにしました。

Cさんは、バリアフリーの床のメリットを生かしてロボット掃除機を購入。床掃除を始めて充電器に戻るまですべて自動で動きます。

これで犬は思い切り遊べるし、Cさんはペットが落とす抜け毛の掃除に追われずに済みます。

写真=iStock.com/Aleksandr Potashev
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Aleksandr Potashev

■シェルフの一角を犬の体高に合わせる

ほかにも、犬のための工夫を随所に凝らしましたが、ほとんどが、愛犬のことを親身になって考えるCさんの要望から生まれたアイデアです。

ダイニング・テーブルの横に大きな鏡をつけたのは、「覗き込まなくても、下で寝そべっている犬のようすを見られるように」というリクエストからの工夫でした。

私のいつものプランであれば、扉つきにするところを、オープンシェルフにしたのは、「じゃまにならない場所に犬の水飲みスペースをつくりたい」というリクエストによるものです。

床に置いてある犬の水入れを、うっかり蹴飛(けと)ばしてあたりを汚すことがよくあるという話だったので、シェルフの一角を犬の体高に合わせたものにしてみました。

すると、犬が半身を棚のなかに入れて飲んだり食べたりできるスペースができあがりました。

シェルフの裏はシンクなので水の入れ替えも餌(えさ)の用意も楽にできます。これまでは「部屋のなかに唐突に置かれていた」という犬のおもちゃ箱も、ここに入れることで片付きました。

■ペットと暮らす家3つのポイント

ペットと暮らす家は、小さな子どもがいる家と同様、「安全」「掃除がしやすい」「使うものを使う場所に収納する適所の法則にしたがう」という3点が大切になってきます。

たとえば、玄関にあるCさん夫妻の靴収納のなかに、犬の散歩グッズ一式の収納スペースをつくったのは適所の収納です。

カラー(首輪)やリード、犬用の季節の服にレインコート、散歩の必須アイテムであるビニール袋のストックなど、毎日使うものをまとめて収めました。

同じ収納の上の段には、Cさんの散歩用バッグと帽子、いちばん下の段にはCさんの散歩用運動靴を入れたところ、いつでもさっと出られるようになり、散歩が億劫(おっくう)でなくなったそうです。

水越美枝子『40代からの住まいリセット術』(三笠書房)

ペットとの住まいで問題となるトイレは、人間のトイレのすぐ隣に。用を足したらすぐに流せるうえ、隣接する洗面所で手洗いもできて効率的です。

洗面台は一枚板のカウンターにし、その下には犬のトイレシートやごみ箱を置いたので、シート替えからゴミ捨てまで、何度も立ったりかがんだりせずに済みます。

Cさん宅ではやっていませんが、洗面カウンターの下部に通風窓を設ければ、においもこもりません。

洗面所をフル活用するという私の設計ポイントを、ペットと暮らす人に役立ててもらえたプランです。

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水越 美枝子(みずこし・みえこ)
一級建築士
日本女子大学非常勤講師、NHK文化センター講師。日本女子大学住居学科卒業後、清水建設(株)に入社。商業施設、マンション等の設計に携わる。1991年からバンコクに渡り、住宅設計のかたわら「住まいのインテリア講座」を開催、ジムトンプソン・ハウスのボランティアガイドも務める。帰国後、1998年一級建築士事務所アトリエ・サラを共同主宰。主に住宅設計(新築・リフォーム)の分野で建築デザインからインテリアコーディネート、収納計画まで、人生を豊かに自分らしく生きる「人が主役の住まい」づくりを提案。著書に『がまんしない家』(NHK出版)、『増補改訂版 いつまでも美しく暮らす住まいのルール』『一生、片づく家になる!』(以上、エクスナレッジ)、『理想の暮らしをかなえる50代からのリフォーム』(大和書房)など多数。
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(一級建築士 水越 美枝子)