電気・電子工学分野で世界最大の学会であるアメリカの電気電子学会(IEEE)が、1972年に発刊された成人向け雑誌・プレイボーイに掲載されたヌードモデルのレーナ・フォセーン氏の写真を使用した論文の受理の停止を発表しました。当該画像は、長らく情報技術におけるデジタル画像処理の標準テスト画像として使われてきましたが、かねてから「アダルト雑誌の写真を学術的な場で使用するのは女性への配慮が欠けている」との批判がなされていました。

Playboy image from 1972 gets ban from IEEE computer journals | Ars Technica

https://arstechnica.com/information-technology/2024/03/playboy-image-from-1972-gets-ban-from-ieee-computer-journals/

IEEEが論文への使用を禁止したのは、1972年の「プレイメイト」としてプレイボーイの見開きページを飾ったレーナ・フォセーン氏の画像です。



フォセーン氏のヌード写真の肩から上を512×512ピクセルにトリミングにしたこの「レナ画像(Lenna image)」は、もともとは南カリフォルニア大学信号画像処理研究所のアレクサンダー・ソーチャック氏らが1973年に、初期のスキャナーに関する学会発表用に雑誌をスキャンした画像です。

帽子にあしらわれた紫色の羽根飾りや、フォセーン氏の顔とむき出しの肩が特徴的なこの画像は、コントラストが高く細部まで変化に富んでいるため、初期のデジタル画像技術のテストに最適だったと言われています。

また、プレイボーイも著作権侵害を認識しつつ画像の使用を黙認したことから、レナ画像は画像処理のテスト画像として広く用いられ、研究者の間で「モナリザよりも研究されている顔」や「JPEGの守護聖人」などと呼ばれてきました。



by Roͬͬ͠͠͡͠͠͠͠͠͠͠͠sͬͬ͠͠͠͠͠͠͠͠͠aͬͬ͠͠͠͠͠͠͠ Menkman

しかし、肩から下が省かれているとはいえ、権威ある学会誌の論文にアダルト雑誌のヌード写真を使用する慣例には、「女性を性的対象化していて、女性に『あまり歓迎されていない』と感じさせる学問的風土を作り出している」として、特に女性の科学者やエンジニアから批判が集まっていました。そのため、学術誌・Natureは2018年に、IEEEに先駆けて論文投稿におけるレナ画像の使用を禁止しています。

当のフォセーン氏自身は、1988年にスウェーデンのメディアが「自分の画像がコンピューターサイエンスで使用されることをどう感じますか」と尋ねた取材に快く応じ、「面白がっています」と回答していたとのこと。また、IT系ニュースサイト・Wiredが2019年に行ったインタビューに対しては、写真撮影の際にもっと報酬をもらっておかなかったのは残念だったとした上で、 「あの写真を本当に誇りに思います」と語っています。

しかし、その後は態度を改めており、2019年に公開されたドキュメンタリー映画「Losing Lena」では「私がモデル業から引退したのはずいぶん前のことですが、テクノロジーからも引退する時が来たようです」と話したほか、オーストラリアのメディア・Women Love Techなどの複数の団体とともに、レナ画像の削除を訴える活動を開始したことが2023年に報じられました。



レナ画像に対する批判の高まりや、本人が使用を控えるよう求めたことを受けて、IEEEは会員に宛てた2024年3月のメールで「4月1日以降、レーナ・フォセーン氏の画像を含む論文の投稿は受け付けません」と通知しました。