「言うことがコロコロ変わる」「一貫性がない」ということは、「柔軟性がある」と言い換えることができます(写真:metamorworks/PIXTA)

「言うことがコロコロ変わる上司」「『お客様の声を聞くな』と言うカリスマ企画者」……。ビジネスコンサルタントの細谷功氏は、不可解に思える発言を理解するためには、「Whatレベル」と「Whyレベル」を切り分けて、「Whyレベル」で考えることの必要性を説きます。その理由について、細谷氏の著書『Why型思考トレーニング』より一部抜粋・再構成のうえお届けします。

WhyとWhatを切り分けて考える

「朝令暮改」という言葉があります。文字通りの意味は「朝に命令したことを、その日の暮れ、つまり夕方にはもう改める」ということで、元をたどれば中国の古典『漢書』に由来します。

この言葉はビジネスで用いられるときには、いい意味で用いられるときと悪い意味で用いられるときがあります。

たとえば「朝令暮改型」の社長やリーダーと聞いて思いつくことは何でしょうか?

「言うことがコロコロ変わる」「一貫性がない」といった否定的な意味合いがまずは頭に浮かぶかもしれませんが、半面で「柔軟性がある」「環境に俊敏に適応する」という肯定的な意味も含まれるかもしれません。

こうした相矛盾する「朝令暮改」の二面性というのは、「Whyレベルの朝令暮改」と「Whatレベルの朝令暮改」の違いです。

まずは前者のWhyレベルの朝令暮改とは何か?

これはWhy、つまり物事を考える根拠や理由がふらふらして定まらない、いわゆる「軸がぶれている」という状態です。この部分が定まらないようでは、周りの人間は振り回されるだけで全くいいことはないでしょう。

これに対してWhatレベルの朝令暮改というものを考えてみましょう。

これは、よって立つ「哲学」の部分は不動の状態で、実現手段(What)をその場の状況に合わせて変更させていくということです。いわゆる「軸がぶれていない」状態です。軸がぶれなければ、その場その場で最適の手段に柔軟に対応していくというのは、リーダーとしては必須の行動パターンではないでしょうか。

ここまで述べてきたことは「Whyの一貫性」と「Whatの一貫性」の違いと言ってもよいでしょう。

「Whyの一貫性」は「軸がぶれない人」として歓迎されますが、状況が変化しているのに行動を変えない「Whatの一貫性」は「単なる頑固者」として煙たがられることになります。

ちなみに人によっては「Whoの一貫性」を重視する人(「あの人が言うことは何でも信用できるよ」)もいれば、「Whenの一貫性」を重視する人(状況が許せば何でもOK)もいます。

「一貫性」とは何か

私たちはよく「あの人の言うことは一貫性がある(ない)」などという表現を使うことがありますが、実は一貫性がないと思われている人も、本人からすれば何らかの一貫性が必ずあったりするものです。その一貫性の対象がWhyなのか、Whatなのか、はたまたWhoなのかによって、他人から見た場合には「一貫性がない」と見られたりするのです。

さて、あなたは今までどんな一貫性のことを「一貫性」と呼んでいたでしょうか?

次は新しい商品やサービスの企画や開発という場面での「お客様の声」についてのWhatとWhyとの比較を考えてみましょう。

昔から言い古されていることですが、いい商品を作るためには「お客様の声を聞け」ということがよく言われます。ところがこれもWhat型とWhy型では180度スタンスが異なるのです。

新しい商品を開発する上で何と言っても一番重要なのは顧客ニーズであることは間違いないでしょう。もちろんそれを実現するための技術やイノベーションというものの重要性は大きいですが、それらはあくまでも「それによって解決できる潜在的な顧客ニーズが存在する」ということが大前提となります。

ここで言う顧客ニーズというのも、直接目に見えるカタチになっている「顕在ニーズ」(What)と目に見えない「潜在ニーズ」(Why)の2通りがあります。

ここで、どうやってそれらの顧客ニーズをあぶり出すかというところで、What型の発想とWhy型の発想の2通りが存在します。

まず基本的なスタンスの違いとして、What型というのは「今あるもの(What)」から発想するのに対して、Why型というのは潜在ニーズを満たせる「今ないもの」が何かというところから発想します。では「今あるもの」というのは何か?

それはたとえば「今ある自社の商品」であり、「今ある競合他社の商品」です。「今すでに売れている競合他社の商品を模倣して自社のラインアップに加える」とか、今市場に出ている商品の現ユーザーの声をそのまま聞いて改善するといったアプローチがWhat型商品開発のアプローチです。

これに対してWhy型の商品開発というのは、今売れているものや競合他社のライバル商品をそのまま真似するのではなく、「なぜ」それが顧客に受け入れられているのかという深層的なニーズを探り出そうとします。そこを仮説として、たとえば「安くてもそれなりの品質のもの」であるとか、「さりげなく個性をアピールできるもの」といった売れているものに共通するニーズ(これがWhy)を抽出してそれを今出ているものとは違った形で別のWhatとして世に出していくというアプローチになります。

Why型のアプローチは表面的なものではなくてあくまでも深層的なニーズに対して忠実に動くということです。

What型とWhy型のアプローチの違い

ここまで見てきておわかりのように、What型のアプローチは現状商品の改良によって旧製品の延長線上で新しい製品を作っていくという「インクリメンタル(漸進的)な」イノベーションスタイルですが、Why型のアプローチというのは、全く新しい革新的かつ抜本的なイノベーションを求めるスタイルということになります。

これらの違いを、先ほどの「お客様の声」と紐づけて考えてみましょう。

What型で言うところの「お客様の声を聞け」というのは、文字通り顧客が声に出して言っていることを「そのまま」反映した商品を作るということです。ところがこのお客様の声というのが曲者です。

通常、ユーザーというものはその商品の専門家ではありませんから、その商品が持っている特別な技術とか、背景にある商品コンセプトを意識して意見を言うわけではなく、表面的な使い勝手などを基にした改善の類の要望(クレームであることも多い)を言ってきます。

たとえば機械ものであれば「このつまみをもっと回しやすくして欲しい」とか、ITシステムであれば「この画面の配置を変更して欲しい」といった類のものです。

もう一つの「What型の要望」のパターンは、競合がやっていて自社のものにない機能が不足しているという要望です。

これもあくまでも表面的なものが多く、根本的な解決になっていない場合がほとんどであるのと、所詮その機能を追加したところでやっと「敵に追いつく」(しかも周回遅れで)というだけのことですから、あまり本質的なものでないことは明らかでしょう。

ではこれに対してWhy型思考はどう考えるのか?

「流行は乗っかるもの」か「流行は作り出すもの」

あくまでも重要なのはお客様の「ココロの声」です。それは往々にして先述の顕在ニーズとは正反対のものであったりします。よくカリスマ企画者や開発者が言う「お客の声を聞くな」という表現がまさにこれです。これは「口に出して言っていることは信じるな」ということであり、「口に出していない本当のニーズを見よ」という意味であって、顧客を無視しろという意味とは正反対です。


単に技術主導で顧客を無視した商品と、Why型思考であえて「顧客の声を聞かない」商品との違いがおわかりいただけたでしょうか。

どこの会社でもよくあることですが、現場に出ている営業マンというのはこうしたお客様の生の声をよくも悪くもそのまま真に受けて「こういう商品があれば絶対売れるってわかっているのに何でうちの会社はそういうものを作らないんだろう」という言い方をしますが、これには2つの落とし穴があります。

1つ目は先述のようにこれはあくまでも表面的なWhat型の要望であること、そして2つ目は、What型の要望であるがゆえの宿命として「その要望が陳腐化する」ということです。その声にしたがって商品を開発していたら、できあがる頃にはすっかりその要望はほこりを被ってしまい、その時点での顧客ニーズとはかけ離れたものになっていることでしょう。

「今売れているもの」から発想するのがWhat型の企画、「今ないが売れそうなものはないか」と発想するのがWhy型の企画です。「流行は乗っかるもの」と考えるのがWhat型、「流行は作り出すもの」がWhy型と言ってもよいでしょう。

(細谷 功 : ビジネスコンサルタント、著述家)