マンションを適切に維持するには、管理組合の活動が決定的に重要になる。写真と本文は直接関係ありません(撮影:今井康一)

マンション管理適正化法で定められた「マンション管理計画認定制度」(以下、認定制度)が2022年4月に導入されてからまもなく2年。3月中旬時点で約550の管理組合が認定を受けている。

高経年のマンションが増える中、建物の長寿命化をどう図るかが喫緊の課題だ。そこで、模範的なマンション管理組合にお墨付きを与え、見習ってもらおうというのが、この認定制度の趣旨である。国が制度の枠組みを決め、実際の認定作業は市など地方自治体が行う仕組みだ。

それでは国(国土交通省)が模範的と考えるマンションとはどういうものなのか。端的にいえば、「建物や建物設備が適切に維持されている」のは当然のことながら、「管理組合が管理会社から自立している」かつ「マンション内外に健全なコミュニティが形成されている」である。

国が管理会社からの「自立」を求める理由

そもそもマンション関連法規のバイブルとも言うべき建物区分所有法には、「管理会社」という単語がいっさい登場しない。法律では、マンションは区分所有者が自律的に管理運営することを前提としている。

現在、国内にはマンション管理組合が13万以上あり、そのうち4分の3は管理会社に管理業務を委託しているとされる。管理組合の運営に管理会社は必要不可欠な存在となっているといってよい。

だが、あくまで管理会社は管理組合のサポート業務を請け負っているにすぎず、管理の主体は管理組合である。管理組合が管理会社に過度に依存する姿は決して望ましいものとはいえない。

管理会社は管理業務委託費の支払先であるばかりか、マンション総合保険の保険代理店でもあるし、大規模修繕の元請けにもなる。マンション管理組合にとっての3大支出先、すなわち、管理業務委託費、保険料、大規模修繕工事代金の支払い先は、管理会社か管理会社の密接な取引先であることが多い。 

そして、管理会社は管理費・修繕積立金の集金、日々の支払い、帳簿の記帳業務を請け負っている。つまり管理組合のサイフの中身を知り尽くしているのだ。

営利企業である以上、管理会社には管理組合の利益よりも自社の利益を優先する権利がある。「任せておけば悪いようにはしないでくれるだろう」という甘い考えだと、管理組合は管理会社にとって都合のよいサイフになってしまう。だからこそ国は管理会社から自立し、自律的に管理運営する姿をマンション管理組合に求めるのだ。

それゆえに管理計画の認定に当たっては、管理組合が主体性を持って管理を行っているかがチェックされる。例えば、長期修繕計画では、妥当な計画があるかどうかだけでなく、修繕積立金の残高が十分にあることも基準になっている。不足分を穴埋めするために、一時金の徴収や金融機関からの借り入れをしないといけないようでは認定を取れない。

健全な「コミュニティ形成」も必須条件


国土交通省の資料。マンション管理計画認定制度のねらいとして、管理適正化が推進されるとしている(編集部撮影)

国はマンション内はもちろんのこと、マンション周辺の住民との間で、健全なコミュニティが形成されていることも認定要件に挙げている。マンション内では親睦会や除草活動を通じた住民間の活発な交流を、周辺の住民とは自治会活動を通じた、地域ぐるみの防災訓練などを推奨している。

「人の目」が日常の防犯上有効であることはいうまでもないが、災害発生時にこそ住民間の連携は効果を発揮する。防災委員会を設け、非常時に救助を必要とする独居高齢者を事前に把握し、管理組合として防災備蓄や発電機を備え、災害発生時の行動計画を盛り込んだ消防計画を策定していれば、認定に際しては有利に働く。

逆に、管理会社しか区分所有者や居住者の連絡先を知らないようだと、災害発生時に適切な対応はとれない。日常的にも、管理規約や使用細則に違反している住戸への対応が、管理会社の担当者次第で放置されかねない。

隣人との交流を避けたくてマンション暮らしを選択する人が一定割合存在するのは事実だが、それはマンションの資産価値を守るうえではマイナスに働く。例えば、独居高齢者が孤独死すれば、その居室は事故物件となり、買い手も借り手もつきにくくなる。そうなれば管理費・修繕積立金の滞納が始まる可能性が高い。近所付き合いの煩わしさが少ないマンション生活だが、コミュニティの形成は資産価値の維持には必須条件なのだ。

高経年マンションで多発している漏水事故にしても、その対応を管理会社に丸投げするリスクは高い。発生した事故が、個人としての対応で済ませて良いものなのか、或いは管理組合として対応すべきものかどうか、判断を必要とする場合があり、管理会社任せでは判断を誤る可能性がある。

保険金を請求して事故処理に当たる場合、管理会社が懇意にしている設備工事会社と結託すれば、管理組合に気付かれることなく過大請求をすることすら可能になる。そして損害保険を使えば、保険料の値上げという形でマンション管理組合に不利益をもたらす。

だからこそ、認定要件には「管理組合がマンションの区分所有者等への平常時における連絡に加え、災害等の緊急時に迅速な対応を行うため、組合員名簿、居住者名簿を備えているとともに、1年に1回以上は内容の確認を行っていること」を挙げている。

管理組合は個人情報保護法で定める「個人情報取扱事業者」だから、名簿の保管場所や鍵の管理などについて厳格なルールを設け、適切な保管・管理がされていることは大前提だ。

情報の帰属先は「管理会社」か「管理組合」か

組合員名簿と居住者名簿。どちらの名簿も管理会社が窓口となって集めることがほとんどだ。認定制度の取得を目指す管理組合は当然、管理会社に名簿の提供を求める。ところが管理会社が個人情報保護を理由に、管理組合に対し提供を拒むケースがあることが筆者の取材で判明した。そうなると管理組合は、いちから居住者の情報を取り直さなければならなくなる。

本稿執筆にあたり、組合員名簿及び居住者名簿の開示を管理組合から求められた際の対応を、管理会社大手10社に問い合わせたところ、回答を拒否した日本ハウズイング以外の9社中、三井不動産レジデンシャルサービスだけが、「居住者名簿は渡さない。区分所有者名簿はそもそも作成していないので渡すことができない」と回答した。同社は「居住者名簿は業務上の必要性から、入居時に居住者から直接取得している。居住者名簿はあくまでも管理会社に提出いただいており、管理組合に提出するフォーマットになっていない」と説明する。 

ほかの管理会社の場合、居住者名簿のあて名は、管理組合と管理会社になっている。ところが三井不動産レジデンシャルサービスは、2022年8月まで三井単独になっている書式だった。つまり、入居者から提供を受けた個人情報は三井のものであり、管理組合のものではないという主張である。 

管理認定制度で居住者名簿の整備が条件に入ったため、2022年9月以降はあて名に管理組合も入れた書式に変更したが、それ以前に集めたものは従来通りの対応を続けている。

こうした対応について、三井は管理組合には知らせていないので、管理組合は居住者名簿の提供を求めて初めて、その事実に気付くことになる。 

残る8社は、求められれば居住者名簿を開示すると回答したが、管理組合向けのコンサルティング業務に従事しているマンション管理士によれば、「現場レベルでは三井以外の管理会社も開示を拒否するケースがある」と語る。

情報の「帰属先」を明示する必要性

このマンション管理士は「住民間の交流がなく、何事も管理会社任せの組合は、管理会社のい言うなりだから都合がいいはずだ。管理組合は居住者名簿がないと何も判断できず、管理会社にすべてお任せになってしまう。居住者名簿が典型だが、管理会社は管理業務を通じて取得した情報は管理会社のものだと思っている。こうした情報は法的にも誰のものなのか明示されていない」と指摘する。 

国は管理組合に自立せよと言っている。管理組合の自立を阻んでいる要素の1つが管理会社による個人情報の独占なのだとしたら、まずは情報の帰属先が管理組合にあるのだということを法的に明示する必要があるのではないだろうか。

(伊藤 歩 : 金融ジャーナリスト)