ペットの柴犬の写真をX(旧Twitter)に投稿し続け、その自然体のかわいさが人気となっている@inu_10kg。ESSEonlineでは、飼い主で写真家の北田瑞絵さんが、「犬」と家族の日々をつづっていきます。第67回は「犬の来訪者への態度」についてです。

わが家に来訪者が!そのとき犬は…

「こんなに元気な柴犬、久しぶりに見ました」

それが犬と対面した友人の第一声である。二月のある日、友人が家にやってきた。以前回覧板に書いたが、犬はどんな来客にも等しく吠える。そのため人を家に招く際は「犬に吠えられても傷つかないかどうか」を気にする。

まあ、私の家は辺鄙な場所にあるので、日本のどこから出発してもとてつもなく遠い。それでも来てくれるなんて、いい人か変わり者か、犬好きである。今回やってきてくれた友人もまた実家に16歳の柴犬がいる愛犬家だ。

友人と大阪で合流し、自宅に着いたのは22時頃。「生の犬ちゃんに会える…緊張してきました…」という友人の高揚が伝わってくる。

以前ご夫婦で遊びにきてくれた友人も犬を目の前にして「びっくりだ、人間の推しに会ったときと同じ感情になっている」と、予想外の感情に自らも驚きながら、喜んでくれた。

さて、まずは私が表玄関からひとりで入る。玄関を開けたら、犬が起き上がってきていつもどおり迎えてくれた。だが今夜は普段とは違うんよ。裏口に回ろうとする私を犬が不思議そうに見てくるので、「今日は友人が来る日やで、昨日も今朝も言うたやろ」と声をかける。来訪の約束がある際は、犬と母親には前もって伝えなければいけない。

裏口にまわって友人を招き入れる。暗い廊下をふたりで通って、先に私が犬の前に姿を見せる。犬は不審がっているが、まだ吠えない。暗がりにいる友人を凝視しているが、まだ吠えない。もしや友人の背丈的に一人暮らしの妹が帰ってきたと思っているのかい?

友人が部屋に一歩ずつ足を踏み入れるにつれて、犬の緊張が張りつめていく。そして妹ではないと分かった途端!!

「ウォンウォンウォオォォーーーン!!」という地鳴りがするような咆哮が鳴り響く。「だれやねーーーん!!」と突っ込んでいるのだろうか。

私が「大丈夫やで〜」と声をかけるも「ウォォンオンオンッ!」と鳴き止まない。腹から声が出ている。私が犬のそばに屈み「危なくないで〜」とじっと座り込み、この場の安全を伝える。

すると「グゥグゥゥ…」と、のどでうなってはいるが落ち着いてきた。年々、荒ぶってからこんなふうに落ち着くのが早くなってきている。

しかし友人から目は逸らさず、「いつでもいけまっせ!」という喧嘩腰は崩さない。友人を裏口から招いたのは、とてもじゃないが表玄関から犬の横を通って入れないでしょう。友人は犬と同じ目線になるように屈むと「今日はお世話になります」と挨拶をはじめる。氏名・職業・inubot及び犬への気持ちを伝えている。面接??

古くから【犬は犬好きの人間かどうか分かる】なんて言うが、きっと真実である。犬のなかで友人が“大丈夫な人”に多少はなったのか、緊張が解け、空気がやわらかくなった。犬の嗅覚はするどいのだ。「フンフンッ!」と真っ黒な鼻を働かせている。

私だけが知らなかった…犬のもうひとつの顔

それから友人がお風呂に入っているあいだ、犬を労わるべく身体をブラシでといていたら「ちょいと疲れたねんけど…」と言わんばかりにコロコロと体重を委ねてきた。

と思えばお風呂から出てきた友人に反応して、せわしなく飛び起きて土間へ急発進していく。しかし先ほどの面接が生きたのか、厳しい目を向けているものの、落ち着いていた。

「そしたら私もお風呂行きますね。犬とふたりになるのあれやったら部屋行ってください」

「あっもしよければここで犬ちゃんを見ていたいです」

見ていたいんや〜と思いながら、犬と友人を部屋に残して去る。このとき、身内で言われていた犬のある説が立証されたのだ。家によく来てくれる親戚がいて、会う頻度に反して犬はまったく慣れず、いつも吠えていた。どうしたもんかと悩んでいたあるとき、親戚から衝撃の発言を聞いた。

「犬は瑞絵がおらんかったらまったく吠えへんデ」と言うのだ。…犬が? うそやろ?

「ほんまやって、瑞絵がおらん日に来たら私が家入っていっても知らん顔して寝とる」

いーや信じがたい。困惑している私をよそに、父が同意する。父にいたっては共に暮らしているのに、風呂から出てきたら先ほどの友人のように結構な確率で追いかけられるのだ。

「犬はなんか父に懐けへんなぁ」と捉えていたが、そうやって父を追いかけるのもまた私が犬といるときに限るという。

そんな話も聞いていたので、友人と犬がふたりきりでも大丈夫かと思ったのだ。そしてお風呂にいる間、外からすこしの声も物音も聞こえてこなかった。

それもそのはずである。私がお風呂に入っているときに、友人が撮ってくれた犬の写真がこちらです。

めっちゃそっぽ向いてるやん。おしり向けて、完っ全に監視を解いている。「瑞絵さんがいなくなったらずっと寝てました」と言われて驚愕した。いやええねんで!? むしろええんねんけど! 知らんかった一面に動揺しているだけ! だってこんなおしり向けて…。

私がお風呂から出てきたときもうつ伏せになっていたものの、まだ身体が友人に向いていたので、いやまさか背中を見せているとは思わなかった。うつらうつらとしながらも、友人や風呂場に顔を向けていたけどなぁ。

重そうにまぶたが落ちてきている犬におやすみなさいと小声で告げて、消灯する。私にとってはかなりレア度の高い貴重な姿を見れてよかった。私ひとりが見れていなかった一面である。

そして、訪れた次の日の朝

翌朝、犬は友人を見つけると「ム!」と目を釣り上げたが、友人の手におやつがあるのに気づくとすかさずお座りをして、釣り上げた目を今度は爛々と輝かせている。

おやつに夢中である。おやつは偉大。

5月で10歳になる犬と接しながら、友人は実家の16歳の柴犬に思いを馳せる。「10歳の頃だと6年前か…昼間もずっと寝ていた記憶があるなぁ。あんなに元気いっぱい吠えたのかな…いやもう結構おじいちゃんだったかも…」と実家の犬、目の前の犬みなを慈しむように呟いた。昨夜の猛烈な咆哮(ほうこう)を“元気”と捉えてくれて感謝だ。

犬は友人の前でもごろ〜んと横になると、猫のように顔をかく。私に身体をなでるように催促しているのだ。おやつコミュニケーションによって、穏やかな空気に包まれる。

しかし友人が帰る際には、ふたたび荒れましたね。「バウ!! ウ゛!!」と、アコーディオンカーテンをどったんばったんと噛んで揺らし、激しいお見送りとなりましたね。

犬がうんと小さい頃に、愛犬家のご近所さんから「大丈夫! おじいちゃんになったら自然と落ち着くで」と言われた。“年齢を重ねるにつれて落ち着いていく”そんな日も訪れるのだろうか。

翌日、私がこたつで昼寝をしていたら犬がドスドス! と足音を立ててやってきた。「どしたんよ」と尋ねると、お腹に頭を「ン!」と押し付けてきた。まるでトトロのカンタの傘の渡し方。

しかし犬の来訪者への態度が私がいるのと不在とで変わるのだとしたら、その理由はなんだろう。もし「うちの犬も似た行動を取っています!」なんてエピソードがあればぜひ教えてほしいです。