「世界幸福度ランキング」の上位にランクする北欧。そこで暮らす人々の時間の使い方は、日本人とどう違うのでしょうか? 北欧の人たちの考え方や暮らし方をご紹介します。教えてくれたのは、現在、デンマークで暮らしながら、フリーランスのライター、イラストレーターとして活動している日暮いんこさん。近著でも、『北欧時間』(大和出版)で北欧流の「本当に豊かな時間の使い方」をレポートしてます。

北欧の人と日本人の似ているところ、異なるところ

最近では、「世界幸福度ランキング」の上位にランクインし続けている北欧。それもあり、「北欧=幸せな国々」というイメージがあるかもしれません。

北欧の暮らしが、日本の慌ただしいそれとはかけ離れているように感じられて、「私たち日本人とはまったく共通点のないような、とにかくスーパーハッピーな人たちなのかな」と思うことはありませんか?

しかしながら、意外にも彼らの性格や気質は日本人と似ています。ほかの欧米諸国の人々と比べても、かなり近いように感じます。

たとえば……、

・とてもシャイで感情表現が控えめ
・お酒を飲むと急に打ち解けられる
・勤勉で真面目。活字、読書好きな人が多い
・家では靴を脱ぐ
・信号はきちんと守る
・サウナ、温泉で裸のつき合いがある

などなど。パーソナルスペースの取り方も似ていて、日本人と会話をしているのではと錯覚することもあるほどです。

ですが、生き方やそれに対する考え方については真逆といっていいほど。その大きな理由の1つは、日本の社会では「世間」が重視されるのに対して、北欧諸国の社会では圧倒的に1人ひとりの「個人」が中心だからかもしれません。

というのは、たとえばこんな感じです。日本にいると、受験戦争、夜中までの残業や、ワンオペ育児など「それって無理でしょ」と思うようなことを、なぜか皆が「当たり前」のようにやっているように見えます。

そして、皆と同じようにできれば「ちゃんとやれている」と初めて安心でき、できなければ「なまけ者、根性がない」と自分を責めてしまうのです。皆がプレッシャーを感じ、皆が無理してがんばってしまう側面があるように思えてなりません。

無理をせずとも、のびのび生きていける環境がある

北欧にいると「だれもが無理をせずとも、のびのびと生きていけるような環境」がもうそこにあることに気がつきます。それは、充実した生活保障や、残業のない働き方、自由に使える自分の時間の多さ、立場に関係なく、人と人が実直に対話できる空気感といったことです。

とはいえ、北欧諸国も最初から現在の姿であったわけではありません。1人ひとりの「個人」が尊重され、自由に生きられる社会であるべきという、現在にも受け継がれる彼らの「考え方」が社会を形成してきました。もちろん、現在の北欧社会も完璧なものではありません。

しかしながら、もともとの気質が似ている我々日本人が「幸せ上手」な北欧の人々から多くのことを学べるということに変わりはないはずです。これは、自分の人生が北欧への移住でガラリと好転した、私自身の経験から確信しています。

北欧の人々はタイパの達人!

 

近年、「コストパフォーマンス(費用対効果)」をもじった「タイムパフォーマンス(時間対効果)」、通称「タイパ」という言葉をよく耳にするようになりました。

効率的な時間の使い方を重視し、それにより、たくさんのことを同時並行に進めようとする人が増えている様子。倍速で話題のアニメを見ながら、SNSをチェックしながら、明日の仕事のことを考えながら夕飯を食べる、などなど。

過去に私も「タイパ」を上げなくてはと焦るあまり、不器用なくせに大量のことを同時にやろうとして、よくパニックになっていました。その結果、集中力が分散し、どれもこれもおろそかに。時間だけが刻々と過ぎていき、虚しさと焦りが積もるばかり。

振り返ってみると、その原因は「優先順位をつけるのが下手だったから」でした。もっといえば「自分にとって、なにが大切で、なにがさほど大切ではないのか」がわからず、「大切ではないことを『やらない』勇気」がありませんでした。

「これをやったほうがいいらしい」と流されているうちに、やるべきことリストが膨大になって、収拾がつかなくなっていたのです。

北欧の人々は、自分にとって大切なことを明確にしている

それに気がついたのは、北欧に移住してからのこと。幸福度も生産性も、世界最高クラスの北欧の人々は、常に時間に追われ、せかせかと「タイパ」を上げなければと必死になっていた私とまるっきり違ったのです。

想像していたよりもずっと、ゆったり、のんびりとしている彼らの様子と、とてもリラックスした空気が漂う光景に驚き、そして納得しました。

私が「たくさんの『自分にとって大切ではないこと』を、やたらめったらたくさんこなす」に終始していたのに対し、北欧の人々は自分にとって大切なことを明確にし、そのひとつひとつ、タスクが仕事でも遊びでもそれにきちんと集中していました。そうすることで時間の密度をぐっと濃くして、本当の意味での「タイパ」を向上させていたのです。

まさに「本当に充実していて豊かな生き方」を実現しているといえるでしょう。