芸人として活躍する一方、大阪市淀川区で、小・中学生向けの格安学習塾「寺子屋こやや」を開いている漫才コンビ、笑い飯の哲夫さん。子育てに悩む親たちへ、ゆるくやさしく、時に厳しいアドバイスをまとめた著書『がんばらない教育』(扶桑社刊)が、話題を集めています。自身も二児の父親として子育てをする哲夫さんに、読者のリアルなお悩みについて答えてもらいました。

相談者「娘を近所の道もわからない“箱入り娘”にしてしまって…」

小学生4年生の娘がいます。テレビや新聞で犯罪のニュースを聞く度に心配になり、ついつい娘を過保護に育ててしまいました。1人で行動させない(登下校以外)、親がいないときは買い物をさせない、友達の家にいくときは必ずクルマで送迎しています。

私が娘と手をつないで歩いていると、1人で自転車に乗って遊びに行く同級生に出会うことがあります。娘はうらやましがりもせず、「そういうもんか」と思っているようです。ただ、最近「過保護すぎて、娘の自立心が育たないのでは」と、心配が芽生えてきました。

また娘は、驚くほど近所の地理が頭に入っていません。いつも自分で行き先を把握せず、親に連れられているから仕方ないのかなと思いますが…。今思えば、私も親に同じように育てられました。バスに1人で乗ったのも中学生になってからだったような気がします。もう少し娘を信じてひとりで行動させるようにしたほうがよいのでしょうか。

(相談者/42歳女性・会社員)

哲夫さんの回答「子どもを守りすぎると逆にリスクを増やすこともあります」

哲夫:今はカーナビが実装されているクルマが当たり前じゃないですか。大人でも「ナビがあるから」って道を覚えられなくなった人はすごく多いはず。こちらのお母さんも、子どもの頃は同じように、箱入り娘として育てられたのですね。やっぱり、自分の体験と同じようにしつけてしまうというのは“あるある”です。

それに、周りへの不信感が強いというのもある気がするんですよね。なんかもう、「3秒歩いたら犯罪者に遭遇する」くらいの感じなのかな。でも「クルマ通りが多いところは通らんとこ」とか、「あそこは夜暗いから、避けよう」とか、お子さんが万が一、1人で行動しなきゃいけなくなったときに、リスクを回避できなくなってしまう。だって、情報がないですから。

――そうなると、リスクを回避するためにやってきたことが、逆に「リスクを増やす」ことになってしまいますよね。では、どうすれば現状を変えられるのでしょうか。

哲夫:まずはゆっくりでもいいので、地域に知り合いをつくってみてほしいです。親子で近所の人と立ち話をしてみたり、よく行くお店であいさつ以外に言葉を交わせる人を増やしていく。そうやって近所に信頼できる人が増えれば、近所のあらゆるところに警備隊を配置するということになりますから。見守りや助け合いですね。

僕が子どものころは、地域に顔見知りのおっちゃんやおばあさん、おねえちゃんとか結構いたんですよ。近所の人が遊んでくれたり、悪いことをしたら叱ってくれたり。あとは、悩みや愚痴を無責任に話せる、得体の知れないおっちゃんもいましたね。絶対に親や先生に告げ口されないので、安心して心のもやもやを吐き出せるというか。学校や家のほかに、地域に自分の居場所があるって、ちょっとホッとするんですよね。すごく居心地がいい。

そんな日本にもう一度戻ってほしいなという気持ちもありつつ、こんな物騒なご時世だからこそ、過剰にお子さんを守ってしまうこのお母さんの気持ちもわかります。

●「はじめてのおつかい」から始めてみても

哲夫:最初の一歩として、“はじめてのおつかい”をしてみるっていうのはどうですか? 最初は10メートルくらい後ろを歩いて、ゆっくりとその距離を伸ばしてみる。僕も最近、娘が初めて自転車に乗れるようになったんですよ。「後ろを押さえてるから」と言って、ゆっくりと離す時間を増やしていって、最後には親の手を離れてひとりでこげるようになった。その瞬間、子どもの背中に羽がはえて、自分の力で飛び立ったような感動を覚えました。

子どものたくましい背中、そして美しい瞬間は今でも忘れられません。そんな感動ができるかもしれませんよ。

相談者「夫が子どもになめられているのでは…。娘に甘すぎる夫が心配です」

5歳の娘がいます。夫が娘に甘すぎて困っています。何度注意しても、娘におねだりされるとすぐお菓子や細かいオモチャを買ったり、なにかお手伝いをする代わりにと条件をつけて高いオモチャ入りの入浴剤を買ったり…。娘も、パパに頼めば買ってもらえる、普段からパパはママに怒られっぱなしだしわがままを言っても大丈夫、というように夫をなめている感じもあります。この父と娘の関係を改善するにはどうしたらいいと思いますか?

(相談者/40歳女性・会社員)

哲夫さんの回答「改善すべきは夫婦の関係ではないでしょうか」

哲夫:これはもしかして、日常的にお母さんがお父さんに少し厳しいのかも…。普段の様子を見ていないのでなんとも言えないのですが。「ママに怒られっぱなし」というところ見ると、お父さんもそんなお母さんが好きなのかもしれない。娘に甘やかして妻に怒られてるとき、多分お父さんめっちゃ気持ちよくなってますよ。

子どもってめっちゃ親を見てるんですよ。ほとんどの情報の仕入れ先は、親ですから。この場合娘さんは、お母さんのお父さんへの態度を見てマネしているかもしれません。

――改善するのは、父と娘の関係ではないということですか?

哲夫:そうです。お母さん自身が、お父さんとの関係を見直した方がいいかもしれない。でもお父さんが「最近妻が全然怒ってくれへんな」と感じて、もしかしたら全財産を娘に渡してしまうかもしれない。

今は入浴剤とかお菓子をおねだりされるまま買っているみたいですけど、無条件で反射的にすぐ買い与えてしまうのもどうかと思うんですよ。それより、買ってあげるものに緩急をつけるというか、夫婦で話し合った方がいい。線引きやルールを決めるというか。

なんだろう、このお父さん娘さんに、お金を入れてハンドルを回すとオモチャが出てくる「ガチャポンしたい」って言われたら、際限なくやらせてしまいそうですね。あれで出てきたオモチャは、子どもは大事にしないですから。…僕の偏見ですけど。

夫婦の関係を見直しつつ、安いお菓子やオモチャでも「どんなときに買うか」ルールを決めてみてください。あと、「滅多にガチャポンはさせない」ところから。お父さん、耐えてください。

 

哲夫さんの新刊『がんばらない教育』(扶桑社刊)はただいま発売中。