頭を刈り上げ、三笘薫のドリブル突破に思わず雄叫びを上げる久保【写真:荒川祐史】

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THE ANSWER好評企画が復活、ドラゴンが編集部で日本代表戦を観戦

 サッカー・アジアカップカタール大会は31日、決勝トーナメント1回戦で世界ランク17位の日本が同86位のバーレーンに3-1で快勝し、8強入りを決めた。2022年のワールドカップ(W杯)カタール大会で独自の解説がひそかに話題となった元日本代表FW久保竜彦が今大会も東京・中目黒のTHE ANSWER編集部に来訪し、試合を観戦した。高校からJリーグ広島に入団した当初の先輩で、結婚する際、入籍届の保証人になってくれた“心の師”森保一監督が率いる日本代表のノックアウトステージ初戦を見守ったドラゴン。独自の視点で振り返った解説インタビューに先駆け、今回も大興奮で観戦した様子を余すところなくレポートする。(文=THE ANSWER編集部・神原 英彰)

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 1週間ぶりに帰ってきた中目黒。さっぱりとした頭をかき、ドラゴンが言葉を失った。

「ええ、今日(相手は)韓国じゃないん? ここに来るまで、韓国と思っとったで。気合入れて髪刈ってきたのに。どうするん、(頭が)寒いよ。相手はバーレーン? バーレーンか……どこや、それ」

 2、3着を着まわしている一張羅の黒のジャージにビーチサンダル。山手通りを素足で歩く久保竜彦は、打ちひしがれた。

 引退後、自由を求めた山口の港町・室積でコーヒー焙煎に、塩作りに野菜作り……異色のキャリアを歩む。そんな伝説のストライカーの感性を4年に一度の舞台で輝かせたい。記憶に新しいカタールW杯。編集部に呼び寄せ、缶ビールを飲みながら日本戦を観戦・解説する企画を実施。当時、一部サッカーマニアの間で好評を呼んだ。

 ポケットからガラケーが落っこちるほど興奮した熱狂をもう一度――。今回も二つ返事で快諾してくれた。

 14日、ベトナム戦。

 かつて日本代表時代に“天敵”といわれたトルシエがベトナムの監督をしていることに目を剥きながら、4-2で白星発進。「トルシエ。今、監督なん。(当時は)大嫌いやった。(通訳の)ダバディは好きやったけど。でも、ベトナム強くさせたよな」

 19日、イラク戦。

 よもやの劣勢を強いられ、前半から2失点。決勝トーナメント進出した場合、いきなり韓国との激突する可能性があると知った。「めっちゃええやん。あのめっちゃ点取るFWはまだおるん。フン・ソンミン? ファン・ソンミン?」。ソン・フンミンのことだ。まさかの1-2で敗戦。

 24日、インドネシア戦。

 職人とドラゴンの朝は早い。「釣りしとったんよ。朝、5時から。山口で。関サバとか関アジとか狙って、船で40、50分くらい海に出て」。朝釣りを終え、山口から東京に移動する強行軍が実り、3-1で決勝トーナメント進出。順当なら初戦で日韓戦になるはず……だった。

 最近、ガラケーからまた新しく替えたガラケーではニュースが存分にチェックできない。

 韓国が25日のグループリーグ最終戦で格下マレーシアにまさかの引き分けで、日韓戦は幻に。「楽しみやったけん、韓国のことばっか考えて、韓国の夢よう見たんよ。(マリノスで同僚だったユ・)サンチョルとか、韓国ドラマみたいのとか。そうか、(相手は)韓国じゃないんか」

 近所の和食屋で生ビール7杯で喉を潤し、乗り込んだ編集部。対戦相手がよく知らない国でも、そこにサッカーがあれば自然と熱くなる。

「この観戦記が好評なん? こんなん普通記事にならんやろ。俺、酒飲んで喋っとるだけやん」

 今夜もキックオフのホイッスルより先に響いたのは、エビス350mlの「プシュッ!」という快音。

 試合は日本が序盤から優位に運ぶ。前半30分、この日最初の「んあー!」の絶叫が。毎熊の強烈ミドルのこぼれ球を堂安が詰め、先制点。そして、咆哮。「あのシュート、毎熊なん? なんでサイドバックがあんなとこおるん?」

 前半40分に2本目のエビス350mlを投入すると、一気に加速。「パンパンパーンと行って、ゴール前でパーンやん。そうやろ?」。篠塚に憧れた巨人党はミスターが憑依したかのようなドラゴン節で、いまいち噛み合わない上田に檄を飛ばす。

 好物のハッピーターンに手もつけない熱戦。

 後半4分、ペナルティエリア内の決定機に上田が堂安とお見合い。直後、久保がゴールに押し込むも、オフサイドの旗が……。「上田、なんで止まるん。なんで打たんの。優しすぎるんか、(周りが)見えすぎるんか。堂安ごとゴールにぶち込まなあかんやろ」

 苛立つドラゴン。しかし、VARで判定が覆り、ゴールが認められる。瞬く間に上機嫌。「やっぱ、もうVARやな!」

 後半19分、よもやのオウンゴールで1点差に迫られたが、27分に上田が巧みなターンから裏へ抜け出す。「打て!」。GKとの1対1から股を抜くダメ押し弾。手をパンパンと10度も叩いて喝采を送った。「今日、今までしょぼかったのが帳消しよ。おーん」

 後半40分には、途中出場の三笘が60メートルのドリブル突破から決定機を演出。今度は「うわあ……」と恍惚の雄叫びが。「上手すぎるやろ。ヤッバイね、スッゴイね……浅野がついていけてないやん。もう、驚愕よ」

 アディショナルタイム10分に「じゅっぷぅん!?」と驚き、またも苛立ち。「まだ? 審判まだやるん?」。催すものがあり、もぞもぞと立ち上がって画面の至近距離から主審に圧をかける。そして、試合終了のホイッスルとともに、一目散にトイレに消えた。

 すっきりした状態で実施した解説インタビュー。

 往年のオランダ名手とダブって見えたという三笘のプレー、3得点の裏で挙げた意外な勝利のキーマンから、2戦連続の快勝でよぎった次戦の不安まで存分に語った。

 今夜もほんのり顔を赤らめ、酒と日本代表の勝利に酔った夜。頭は冷えても、観戦は熱かった。

「この観戦記が好評なん? ホンマか。だって、こんなん普通記事にならんやろ。俺、酒飲んで喋っとるだけやん。どういうことよ……まあ、俺は読んどらんけどな」

 しかし、今夜もこうしてドラゴン色に染められた文字が躍る。最後まで饒舌に、1月最後の夜の中目黒に消えて行った。 

 なお、インタビュー記事は近く配信する。

(THE ANSWER編集部・神原 英彰 / Hideaki Kanbara)