王貞治氏、大谷翔平にみる自身との“似ている”点「余韻を楽しまない。次へ次へと」
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、世界のホームラン王・王貞治氏と二刀流生みの親・栗山英樹氏が「大谷翔平の本塁打」をテーマに対談。
日本人として初めてアメリカ・メジャーリーグ(MLB)ホームラン王に輝いた大谷の打撃を徹底解説した。
テレ朝POSTでは、対談の模様を前後編で紹介する(前後編の後編)。
◆大谷翔平と王貞治、フォームの異なる2人の共通点
栗山:「大谷翔平はノーステップで、どちらかというと無駄をなくすようなフォームに見えます。そのフォームでメジャーのホームラン王を獲りました。一方、世界でも一番ホームランを打っている王会長は足を上げていました。一本足になったのはどんな経緯だったんでしょう?」
王:「僕は“詰まり屋”だったんですよ。始動を早くすることによって、要するに普通に足を上げないでバックスイングしたり、いろいろやったんですけれど、どうしてもボールが入ってきてしまったんです(※予備動作を早くするために、例えば足を上げずすり足でタイミングをとったり色々試したが、どうしてもボールに差し込まれ詰まってしまっていた)。
すると窮屈な打ち方になるでしょう。だから、前に倒れてもいいぐらいの感じでピッチャーが足を上げたら足を上げる、ピッチャーが地面に足を着いたら前へステップしていくようにしました。大谷君はノーステップですが、ずいぶん早めにステップしているんですよ」
栗山:「はい。動き出しが早いですよね」
王:「ステップして待っている感じが、いいバッターにはよくあること。打てない人は待っている時間がないんですよね。彼はスッと早めにステップして、ボールを見極めるというか、待つ時間を早くつくっています。アメリカに行った当初はそこまででもなかったけれど、この2〜3年は本当にスッと早めにステップして待っています」
栗山:「『さぁいらっしゃい』みたいな感じですよね。とにかく始動を早く、準備をするために早めに足を大きく上げる。そういう感覚ですか?」
王:「ピッチャーが足を上げたら私も上げる。ピッチャーがステップしたら私も出ていく。そういう感じでやったら、それまで詰まっていたボールを前で打てるようになったんです」
栗山:「足を下ろしながらタイミングを取っているのか、足をつきながらタイミングを取っているのか、それはどちらですか?」
王:「結局ボールが見えていれば、足の幅の半分や1足ぐらいステップが多くなったり、小さくなったりするんです。小さくしようというんじゃなく、ボールが見えていれば自然に強弱ができる。だからボールを見ることが一番大切。
ボールが見えていれば、『緩い球だ』と思って(動き出しが)少し遅くなったりします。でもボールをしっかり見ていなかったら、いつも同じところにステップすることになるので、変化球はなかなか打ちにくい。ボールを見て『あっ』と反応するだけでいいんです。それだけで、ギリギリ何とかミートできたり、ボールを見極められるようになる。
だって(ピッチャーがボールを離してキャッチャーミットに収まるまでに)0.5秒かからないですよ。その間にいわゆる人間の感覚で言う“見る”ことはできないと思います。もう打つ体勢にいきながら見ているという感じですね。ただ振るか振らないか決めるだけですから」
栗山:「ということは、ノーステップの大谷翔平と一本足の王会長、見た目は違いますが、早く準備して『さぁいらっしゃい』という形をつくっているという点では、同じことをしているんでしょうか?」
王:「彼は僕のように足を上げてませんけれど、意識は早めに踏み出せる準備をしているということですね。150km/hや160km/hに近い球でも、高めの球だってうまく打つじゃないですか。そうかと思ったら、緩く抜かれた球も打つ。やはりそれは早めに準備しているからだと思います」
◆長嶋茂雄にイチローも…“いいバッターの条件”
ここで、推定150mという昨シーズン最も飛距離が出た大谷のホームランを王氏に見てもらった。
王:「やはり腕がよく伸びていますよ。彼は本当によく両肘が最後に伸びていきます」
栗山:「そうですね。そして頭が残って手が伸びている」
王:「要するに飛ばすんじゃなく、飛んでいっちゃう打ち方をしているんです。飛ばそう飛ばそうというのは余分な力が多いですから」
王氏が挙げたポイントは、ボールを捉える際に両肘が伸びること。
王:「これはイチロー君もしっかりしていました。長嶋茂雄さんはじめいいバッターはおそらくみんなそうでした。やはりインパクトがしっかりしている人は、いい成績を出せる。僕もそれは意識してやっていました。
だから、若い選手たちにはいい選手のインパクトの瞬間の形を見せて、『ここが一番大事なんだ』と言ってやるべきだと思います。バットの構えや肘が上がるのがどうというより、やはり『インパクトが一番大事だ』と。僕は大事にしていましたし、大谷選手も大事にしていると思います。意識していると思いますよ」
両者に通ずる、理想のインパクト。
続いて王氏に見てもらったのは、崩れて右手1本でスタンドに入れた、まさに大谷のみぞ成せる一発だ。
王:「これはもう完全な応用編でしょう。このホームランは彼の体力じゃないと飛んでいかない。いいミートはほかの選手もできるけど、あれをレフトスタンドに押し込んでいくのは、トレーニングの賜物だと思います」
栗山:「この感じでホームランになったらバッターは楽というか(笑)」
王:「相手はがっかりですよ。完全に打ち取っているんですから。『やった。レフトフライ』と思っているのに、(スタンドに)入ってしまっている」
どんなボールでも芯に当てる大谷の対応力は、明白にデータにも表れている。昨シーズンのコース別成績を見てみたら、すべてのコースをホームランにし、まんべんなく打ち返していた。
王:「常に同じフォームでは打てないんですよ。ボールというのは高い・真ん中・低い、遠い・近い、スピードも変化もある。ホームランが打てる幅はみんな持っているけれど、狭い。その幅が広い人ほど、たくさんのホームランを打てます」
栗山:「今年の大谷選手のホームランを見ていると、比較的いろいろなコースがホームランになりはじめた感じがします。王会長は得意なところや苦手なところはあったんでしょうか?」
王:「私はもうはっきりしていましたね。どちかというと、真ん中よりも少し外角の球。そこが一番ボールは飛ぶ。逆に言うと、そこが一番何も考えないで打って飛ぶんです。ほかの球は脇を締めたり、やっぱりいろいろしなければならない。でも大谷くんはさらに幅が広いですね」
◆「常に挑む大谷翔平であってほしい」
栗山:「今さらですが、毎年40本20年間打っても800本にしかならないので、868本というのは想像を絶する数字です。なぜ王会長はそれだけホームランを打てたんですか?」
王:「僕はやっぱり余韻を楽しむほうじゃないんです。打ったらもう次。常に次、次なんです。第一打席にホームランを打っても、(意識は)次の打席。ホームランの快感は関係ない」
栗山:「今日1本打ったからいいやとは思わない?」
王:「ないです。今振り返ってみると、よく13年も連続でホームラン王になったなと思います。でも、その時ホームラン王になったのは関係ないんです。常に次の年の次の1本、次の1本だったんですね」
栗山:「今回、日本人が初めてメジャーリーグでホームラン王を獲りました。世界でホームランを打っていた会長から見て、このことは日本の野球界や未来に大きな意味を持つと思われますか?」
王:「それは大きいでしょう。やっぱりホームランをたくさん打つこととタイトルを獲ることは大きいです。タイトルはその年の一番ですから。
アメリカでグラウンドにいる選手、ベンチにいる選手、監督・コーチ、スタンドのファンの人にとって、大谷選手が当たり前の存在になったでしょう。特別日本から来ている選手ではなく、メジャーリーグのすごい選手という存在。そこまで自分の立場を引き上げたことは、本当に素晴らしいと思います」
栗山:「そういう選手が出てくると、日本の野球が進化したり、子どもたちがそこを目指したりして、日本の野球が変わっていく可能性はありますか?」
王:「『アメリカに行きたい』『アメリカでやりたい』『大谷選手のように』と思っている子どもたちはたくさんいるでしょう。だけど、彼がやってきたようなことが、グラウンド外のことも含めてできるかどうか。
大谷選手は、自分に対して大変厳しい規律をかけています。彼もどちらかというと、あまり余裕を楽しむほうじゃなく、次へ次へと向かっている。そういう点で、自分と似ているところがあると思います。
日本の選手たちもいずれはメジャーと思うでしょうが、彼のように自分にいろいろなことを課しながらやれる選手が出てくるかどうかですよね。大谷選手は特別だと言っていては近づけませんから。どうせ行くならメジャーでプレーするだけじゃなく、大谷選手のようなところまで行くぐらいの気持ちを持って取り組んでほしいですね」
栗山:「王会長、最後の質問になります。僕も入団した時から大谷選手と5年間付き合ってきて、ずっと成長していく姿を見てきました。会長からご覧になって、これからの大谷翔平にどんなことを期待しますか?」
王:「肘も負傷しましたし、二刀流はいつまでできるかわかりません。でもバッターは毎試合出られますし、お客さんにとっては毎試合出ている選手が一番いい。大谷選手は今のスタイルでもっともっと突き詰めてやっていくタイプだと思いますよ。『これでいいや』なんて思うタイプじゃない。今年は50本塁打までいけるようにチャレンジしようとか、常に挑む大谷翔平であってほしいですね」