日米のテック企業のロビイング活動の違いとは?(写真: Taka / PIXTA)

キャリア官僚からビッグテックへの転職を先駆けたアマゾンの最古参ロビイストである、渡辺弘美氏。15年間の活動で学んだこと、日米におけるロビイストの違いなど、同氏の新著『テックラッシュ戦記――Amazonロビイストが日本を動かした方法』を一部抜粋・再構成する形でお届けします。

日本のテック企業のロビイングと、米国のテック企業の日本におけるロビイングにはどんな違いがあるのかについても触れておこう。

日本のテック企業は「読む力」に長ける

日本のテック企業の公共政策チームとは、頻繁に情報交換や協働して行動していた。製薬、エネルギー、銀行、煙草などの「静的なロビイング」の業界とは異なり、公共政策上の課題を把握し、事実関係の情報収集や周辺の情勢分析を行い、ロビイングの具体的なプランを策定し、実際に行動に移していくスピードが速く、とても頼りになった。

加えて、私のような米国テック企業から見て羨ましかったのは、日本のメディアや政策立案者が好むであろう解決策を提示されていた点である。

例えば、昨今、デジタルプラットフォームの行動を競争政策上疑問視する向きがあるが、それに対する一つの回答方法としては、第三者からなる有識者委員会を企業が自主的に設置し、同委員会からの助言に基づいて自主的に行動をレビューし改善していくことを提案することで、一定の効果を狙うという考え方がある。

米国テック企業からすれば、日本で展開しているサービスは独自のものではなく、グローバルに共通していることが多いため、日本のメディアや政策立案者からの評価を得るため、日本だけのために第三者からなる有識者委員会を設置するというのは容易なことではない。

このように当然ながら、日本のテック企業は、日本の政策立案者が何を求めているのかを“読む力”に長けているので、米国のテック企業の中には日本のテック企業のやり方に学びを感じているところもある。

一方で、米国テック企業のほうに分があるという面もある。

例えば、日本政府からやや首をかしげたくなるような政策提案があった際には、米国テック企業の場合には、米国や欧州などから同種の政策動向に関する情報を取り寄せ、国際的な視点から見ていかに日本政府の提案が珍妙なものであるのかを論じていくのは得意とするところである。

そういう意味では、両者が、それぞれの得意不得意分野をカバーしつつ、良い連携ができているのではないかと思う。ちなみに日本には中国のテック企業も進出しているが、私は中国のテック企業の公共政策チームと連携するメリットを感じることはなかったので、その経験はない。

それぞれの国の環境に合わせて組織運営

最後に、米国テック企業の公共政策チームと一口に言っても、同じ行動パターンを取る訳ではないことも付言しておきたい。幸い、アマゾンはリアルな物品を取り扱うリテールビジネスやマーケットプレイスを主たる事業としているので、ビジネス上の商談もロビイング活動も進出しているそれぞれの国の政治・経済・社会環境に合わせた行動ができるような組織運営がされている。

公共政策チームで言えば、日本の法制度や政策立案過程に精通した専門家が日本法人の関係部署と相談しながら行動していく。

もちろん、米国本社からの大きなガイダンスを仰ぎ、他国の公共政策チームの同僚と連携することもあるが、米国本社がマイクロマネジメントをする訳ではないし、ましてやアジア太平洋地域(APAC)における地域本部は存在していなかった。

ただ、米国テック企業の中には、ロビイングの一挙手一投足に米国本社やAPAC地域本部からの介入が生じる企業もある。

このような場合には、あいにく日本法人の公共政策チームには委任された権限が少なく、米国本社やAPAC地域本部と日本の政策立案者との間の伝書鳩のような役割に徹することにもなる。

「ハイレベル面談こそ最良の解決策」という妄信

米国本社やAPAC地域本部の幹部がわざわざ来日して直接意見陳述したとしても、日本の政策立案者が何を求めているのかを”読む力”に乏しいので、その意見が関係者に響かないままになってしまうこともある。


また、米国本社やAPAC地域本部の幹部は、日本の政策立案プロセスを熟知していないため、首相や大臣などのハイレベルの面談にむやみに拘泥することもしばしば起こる。

最近の例で言えば、生成AIやWeb3.0のように与党が大きな政策の方向性を霞が関に先んじてリードしている分野であれば、閣僚や与党幹部に面会を申し入れることは一定の意義があると思うが、そうでない分野についてトップ外交を申し入れても日本の場合はあまり意味がない。

にもかかわらず、外資系企業の中には、日本を一部のアジア諸国と同様にとらえて、ハイレベルな面会こそが最良の解決策であると妄信している本社や地域本部の幹部もいる。

(渡辺 弘美 : 元アマゾンジャパン合同会社顧問・渉外本部長)