日本代表、アジアカップでの焦点は「選手を使い回して」優勝できるか 過去2大会はそれで失敗
日本代表アジアカップ戦記(3)
(1)サッカー日本代表の優勝をイメージできなかったアジアカップ 予選落ちを繰り返した80年代から、頂点に上り詰めるまで
(2)オシムジャパンの有益な敗戦 ザッケローニの采配ミス...サッカー日本代表の成長を証明してきたアジアカップ
2014年ブラジルW杯でグループリーグ最下位に終わった日本。アルベルト・ザッケローニの後任としてサッカー協会はハビエル・アギーレを招聘した。その指揮を執ったのは4年前の前回に引き続き原博実専務理事兼技術委員長(当時)で、攻撃的サッカーというコンセプトも引き継がれた。
前任者のザッケローニは就任2戦目の韓国戦を前に、「攻撃的サッカーで立ち向かうのか」と問われると「バランス重視だ」と述べている。この言葉に代表されるように、そのサッカーはいまひとつインパクトに欠けた。企画倒れに終わった感、なきにしもあらず、だった。
対するアギーレは、就任記者会見で、質問を受ける前から「攻撃的」という言葉を自ら口にし、「4−3−3で戦う」とまで言いきった。最初からほぼ4−2−3−1一辺倒だったザッケローニより、鋭さを感じさせる台詞を口にした。
その4−3−3は、アンカー役を務めた長谷部誠が、マイボールに転じるや2人のセンターバックの間に降りる。と同時に、両サイドバックが迫り上がる3−4−3の可変式は、そのフォーメーションにトライしたものの実を結ばなかったザッケローニとの差を際立たせることになった。
アジアカップは2015年1月、オーストラリアで行なわれた。その初戦、対パレスチナ戦は、アギレーレジャパンの5試合目に相当した。
アギーレは就任後の初戦ジャマイカ戦、2戦目のブラジル戦(いずれも2014年10月)では新顔を多く起用。小林悠、田口泰士、塩谷司らを代表デビューさせた。しかし、メディアの受けはよくなかった。「ブラジル相手にベストメンバーを送らないとは何事か」、「代表戦はテストの場ではない」と、テレビ解説者らが揃って批判を繰り広げたこともあった。
そうした外圧に屈したのかどうか定かではないが、アギーレはアジアカップには遠藤保仁、今野泰幸、長谷部誠らベテランを招集。ベストメンバーを送り込んだ。
アジアカップ・カタール大会を前にした現在、筆者はそこにベストメンバーを送り込むことに抵抗を覚えるほうだ。その気持ちは9年前のアジアカップを前にした時も少なからずあった。日本のレベルが、アジアカップのレベルを超え始めていると感じるようになっていたからだ。
【最も攻撃的だったアギーレジャパン】
アギーレ采配に抵抗を覚えたのはそこだけではなかった。グループリーグ初戦のパレスチナ戦、2戦目のイラク戦、3戦目のヨルダン戦、さらには準々決勝のUAE戦と、4戦連続でスタメンを、以下のメンバーでまるで入れ替えることなく臨んだことにある。
川島永嗣、吉田麻也、森重真人、酒井高徳、長友佑都、長谷部誠、遠藤保仁、香川真司、本田圭佑、乾貴士、岡崎慎司。
メディアは、オールスターキャストを毎度並べるこの采配を特に問題視しなかった。選手を使い回す術に優れていないと4試合目以降(決勝トーナメント)になると行き詰まる――という意見は聞かれなかった。準々決勝でUAEに1−1、延長PK戦で敗れたことと、それは密接な関係にあると見る。
ただし一方で、サッカーの中身そのものは上々だった。その4−3−3と3−4−3の可変式は実にバランスよく機能していた。歴代の日本代表のなかで最も整ったサッカーと言えた。
それまでの日本代表にはポジションをカバーする意識が薄かった。日本人の指導者にその概念がなかったことが最大の要因になるが、その名残はザックジャパンでさえ見え隠れした。
ザックジャパンが2010年ブラジルW杯初戦でコートジボワールに逆転負けした理由は、まさにその概念の希薄さだった。左ウイングの香川が相手ボール時にポジションを外していたことが痛手となっていた。2015年アジアカップで左ウイングを務めた乾とポジショニングを比較すると、それは一目瞭然となる。
たとえばイラク戦。スコアは1−0ながら、それは考えられる範囲の中で最上の1−0だった。特に後半18分、遠藤に代わって今野が投入されると、布陣は、マイボール時には3−1−3−3となり、フラット型に近かった中盤の構成はダイヤモンド型になった。1トップ(岡崎)と周囲との距離が遠く孤立しがちだった問題は解消。パスコースが多く、バランスに富んだ、文字どおりの攻撃的サッカーになった。
しかしアギーレは大会後、解任。後任のヴァイッド・ハリルホジッチも2018年ロシアW杯の開幕を2カ月後に控えた段で解任される。そして本大会を戦った西野朗監督も大会終了後に退任する。
【準決勝がピークだった前回大会】
2015年から2019年アジアカップまでの4年間に、日本代表の監督は、かつてないほど目まぐるしく変わった。そして2019年大会の時点で、まさか次回のアジアカップも森保体制で臨むとは想像だにしなかった。カタール大会(名称は2023年カタール大会)に臨む森保監督は、つまり5年前と比較される立場にある。当時の敗戦と同じ轍を踏むわけにはいかない。
2019年大会の森保采配は、2015年大会のアギーレ的であり、2018年ロシアW杯の西野的でもあった。つまり選手を使い回す術に欠けていた。決勝でカタールに1−3と番狂わせを許した理由と、2015年アジアカップでUAEにPK戦負けした理由は、ほぼ一致していた。
前回のアジアカップ決勝でカタールに敗れた日本代表 photo by Fujita Masato
以下に示すのは、全23選手が決勝までの7試合を戦うなかで得た出場時間だ(アディショナルタイムは除く)。
冨安健洋・7試合541分、原口元気・7試合509分、権田修一・6試合540分、吉田麻也・6試合540分、長友佑都・6試合540分、柴崎岳・6試合540分、堂安律・6試合531分、酒井宏樹・6試合523分、南野拓実・6試合506分、遠藤航・5試合335分、北川航也・5試合236分、塩谷司・5試合207分、伊東純也・5試合117分、大迫勇也・4試合288分、武藤嘉紀・4試合236分、乾貴士・3試合94分、槙野智章・2試合180分、室屋成・2試合107分、シュミット・ダニエル、三浦弦太、佐々木翔、青山敏弘・各1試合90分、東口順昭0。
大迫が途中でケガをし、3試合スタメンを外れていなければ、武藤、北川の出場出番はもっと少なかったと見ていいだろう。4年前ほどではないものの、やはり誰がレギュラー(上記リストでは南野まで)で誰がサブか、出場する選手としない選手の差は著しい。出場時間のシェアができていないことが鮮明になる。
日本は第1戦トルクメニスタン戦(3−2)、第2戦オマーン戦(1−0)に連勝、その時点でグループ突破を決めた。3戦目のウズベキスタン戦(結果は2−1で勝利)は、それまでベンチを温めてきた選手をスタメンに持ってきた。
その半年前、ロシアW杯で当時の西野監督が振った采配とほぼ同じである。さらに西野監督、森保監督は、続く4戦目(2019年はサウジアラビア戦、2018年W杯はベルギー戦)の起用法も同じだった。いわゆるベストメンバーに戻したのだ。西野ジャパンがそこでベルギーに敗れたのに対し、2019年の森保ジャパンはサウジアラビアに勝利を収めた(1−0)。試合間隔は中3日だったが、森保監督は以降もベストメンバーを使い詰めした。その流れで決勝まで一気に行こう考えたのだろう。
だが、それでは7試合目(決勝)は戦えない。根性論、精神論に頼るサッカーになる。実際、日本のピークはイランに3−0で勝利した準決勝で、そこで燃え尽きてしまった恰好だ。
W杯でベスト8以上を狙うとアドバルーンを打ち上げた森保監督だが、この選手の起用術では難しい。23人(フィールドプレーヤー20人)中、3戦目のウズベキスタン戦しか出場していない選手が4人(同3人)いた。26人枠ではなく23人枠でこの有様だった。
間もなくカタールで開幕するアジアカップの森保采配で、まず目を凝らす点はハッキリしている。選手を使い回す術だ。これこそが代表監督に求められる一番の資質なのだ。できるだけ多くの選手を使いながら優勝する。前回大会から得た教訓を森保監督は生かすことができるか。代表監督としての資質を探るうえで重要な要素だと筆者は考える。