アリババは2023年9月にグループCEOに就任した呉泳銘氏への権限集中を進めている(写真は同社ウェブサイトより)

中国のEC(電子商取引)最大手、阿里巴巴集団(アリババ・グループ)の経営体制に、再び大きな変動が起きた。グループCEO(最高経営責任者)でクラウド事業部門のトップを兼務する呉泳銘氏が、2023年12月20日付で国内EC事業部門のトップも兼任することになったのだ。

この人事は同日、アリババ董事長(会長に相当)の蔡崇信(ジョー・ツァイ)氏が全従業員宛てに送信したメールを通じて明らかにされた。国内EC事業部門の前トップの戴珊氏はグループの資産管理会社に異動し、新規事業立ち上げの支援にあたるという。

「呉氏がクラウド事業と国内EC事業のトップを兼任することで、イノベーションを通じた国内ECサービスの変革がより確かなものになる」。上述のメールのなかで蔡氏は、今回の人事の狙いをそう説明した。

経営陣の世代交代加速

アリババは2023年3月、主要事業を6つのグループに分割する大規模な組織再編を発表。その際には、当時のグループCEOの張勇氏がクラウド事業部門のトップを兼務し、呉氏は国内EC事業部門の董事長、戴氏は同部門のCEOに就任した。

ところが、張氏は6月に「9月10日付でグループCEOを退任する」と発表。この時点では「クラウド事業の経営に専念する」としていたが、実際にはクラウドを含む全事業部門の役職から退いた。それに伴い、後任のグループCEOに指名された呉氏が、9月からクラウド事業部門のトップも兼務していた経緯がある。

今回の国内EC事業部門のトップ交代により、グループ内における呉氏の権限がさらに強化された格好だ。

アリババの国内EC事業部門は、中国のECプラットフォームの草分けである「淘宝(タオバオ)」と「天猫(Tモール)」を運営する。しかし競合するECプラットフォームとの顧客争奪戦が激化するなか、2022年から伸び悩みが顕著になっていた。

投資銀行大手のゴールドマン・サックスが2023年4月に発表したレポートによれば、中国のネット通販市場における淘宝・天猫のシェアは、2019年の66%から2022年には44%に低下。同じ期間に、ネット通販2位の京東集団(JDドットコム)は20%前後のシェアを維持し、低価格販売を強みにする拼多多(ピンドゥオドゥオ)はシェアを10%から18%に伸ばした。

ジャック・マー氏が叱咤激励

そんななか、アリババの停滞を象徴する出来事が起きた。拼多多の株価が2023年後半を通じて上昇し、11月末時点の時価総額でついにアリババを追い抜いたのだ。


アリババ創業者の馬雲氏は、引退後もグループの重要な意思決定に大きな影響力を持つとされる(写真は同社ウェブサイトより)

その直前の11月28日、すでに経営の第一線から身を引いた創業者の馬雲(ジャック・マー)氏が、社内ネット上に異例のメッセージを書き込んだ。馬氏は拼多多の経営努力を称えるとともに、「アリババは変わるし、変えられる」と社員に呼びかけ、こう叱咤激励した。


本記事は「財新」の提供記事です

「すべての偉大な企業は冬(の厳しさのなか)に生まれる。AI(人工知能)を活用したECの時代は始まったばかりで、誰にとってもチャンスであり、(困難な)チャレンジでもある。過去にどんなに凄い実績があっても、明日やその先の(成功の)ために変革できる人物、そのためにいかなる代償や犠牲を惜しまない組織こそが、社会の尊敬を勝ち取れるのだ」

(財新記者:包雲紅)
※原文の配信は2023年12月20日

(財新 Biz&Tech)