生成AIによって私たちの仕事はどう変わるのでしょうか(写真:metamorworks/PIXTA)

生成AIツールが世に浸透しつつあります。しかし、生成AIは本当に「ただ便利なツール」なのでしょうか? 経営戦略コンサルタントの鈴木貴博さんは、「2024年、生成AIによってホワイトカラーの仕事が大量に消滅するだろう」と予測しています。

※本稿は鈴木貴博著『「AIクソ上司」の脅威』の内容を一部抜粋・再編集したものです。

仕事の生産性を向上させる最強のお助けアイテム!

AIのもたらす雇用の脅威に関してさまざまな側面から検討がなされた結果として、これまで定説となっていたのが、

「AIによって仕事はなくならない。なくなるのは仕事の生産性を妨げてきた無数の“面倒な業務”である」

という説です。面倒な業務が軽減されることで、AIを仕事の武器として活用できる未来がくる。AIとの共生の時代にはわれわれの生産性は大幅に上がる、というのです。

ひと言でいえば、人類はAIと共生しながらより大きな繁栄の時代を迎えるというのが、2022年までの未来予測の主流でした。

2022年末、そこに登場したのが、生成AI初の実用ツールと言うべきChatGPTでした。定説のとおりであれば、私たちの仕事の生産性はChatGPT時代には格段に上がります。

何かを検索するというそれなりに面倒な手間がなくなれば、仕事や生活での生産性は大きく変わるでしょう。

今のChatGPTはまだおもちゃのように感じるレベルかもしれません。ただ、生成AIは機械学習が急速に進むので、ChatGPTの性能はこの後、指数関数的に向上します。

たとえばいずれ、営業会議ではAIがリアルタイムで議事録を文字起こしするようになるでしょう。さらには、会議が紛糾したら、そこでいったんChatGPT(現在の最新バージョンであるGPT-4からGPT-8ぐらいになっているかもしれません)に、「ここまでの議論、どのように意見が対立しているのか要約して」と言えば、何が論点で、どこで意見が分かれているかをAIがまとめてくれるかもしれません。これまでの不毛な議論の時間は一気に消滅するでしょう。

また、数年後の経営コンサルタントは、ChatGPTに向かって以下のような質問入力を繰り返すことになりそうです。

「A社をとりまく経営環境をざっくりと整理してほしい」

「A社のX事業の競争相手となる主要企業を挙げてくれ」

「それら主要企業について強み、弱み、現在の戦略をそれぞれ整理して」

「X事業の競争環境を変化させる要因について重要なものを5つ説明して。新技術、消費者の変化、海外企業の参入、原材料の入手経路などどのような要因でもいいので」

6カ月のプロセスが数週間に短縮

こういった質問をChatGPTの有料版AIであるGPT-4につぎつぎと投げかけていけば、それまでコンサルティングファームの中で5〜6人のチームが数カ月かけていた基本分析は、極めて短時間でAIが代わりにやってくれることになります。その頃には音声入力を用いることで、対話形式でこのやり取りができるようになるでしょう。

そうなると、コンサルタントと、クライアントである大企業の経営者はともに、これらAIが生成した「現状分析と課題」のレポートに目を通したうえで、初日から「じゃあどうすればわが社は生き残れるのだろうか?」といった具体的な議論に入れます。このイノベーションは、それまで6カ月かかっていた経営戦略策定のプロセスを数週間に短縮してくれることでしょう。

これが定説の「AIと共生する未来論」なのですが、そのような未来は生産性以外の部分で悪影響はないのでしょうか。

たとえば、コンサルティング業界の雇用数は維持できるかどうか考えてみましょう。

普通に考えれば、コンサルティング業界は少数精鋭に変わるはずです。大企業のクライアントにコンサルティングサービスを提供するために出向いていた6人のチームは不要になり、2人の精鋭コンサルタントがAIの力を借りて、それまで以上の超高クオリティの仕事をこなせるようになります。

「生成AIは最強のお助けアイテム」なのか?

これまで6カ月かかっていたプロジェクトが数週間で終わるとなると、生産性は大幅に上がるでしょう。早く結論が出ればクライアント企業も早く対策を打てるので、論理的にはコンサルタントのアドバイスの価値は上がります。つまり、コンサルタントはそれまでの6カ月分の報酬と同じ金額を、数週間の労働で稼げるようになるかもしれません。

では余った時間は休暇をとって、南の島で数カ月のバカンスを楽しめるようになるのでしょうか。おそらく、そうはなりません。6人のコンサルタントが2つしかない椅子を取り合うサバイバルゲームが始まるからです。

単純に考えれば、AIによって大幅に個人の能力が増幅される未来においては、過去に存在してきたポジションの数はそれに応じて削減されるはずです。ChatGPTのような生成AIだけでも、ホワイトカラーの仕事の40%ぐらいをこなしてくれるようになるという予測があります。だとすればコンサルだけでなくすべての業種で、ホワイトカラーのポジションは長期的に相応の減少傾向を見せるはずです。

「そんなことはない。生産性が上がった分、産業はイノベーションにより新しい仕事を生み出すから、仕事はむしろ増えるはずだ」

と主張する人々がたくさんいます。「AIと人類が共生する未来」の理論であり、これは今のところAIに関わる未来予測の定説になっています。

この説のように、私たちが嫌ってきた「AIに仕事を奪われる未来」は本当に到来しないと言えるのでしょうか。

中国の若者の失業率が高い理由

お隣の中国では、若者の失業率が高くなっています。中国政府が発表する都市部調査失業率では、2023年5月に16〜24歳の若者の失業率が20.8%に達しました。中国ではすでに新卒学生の5人に1人、仕事がない状態です。

中国では年間に1160万人の若者が就活をします。コロナ禍前は、仕事が見つからない学生は10人に1人だったところが、直近では5人に1人が仕事を見つけられていません。

日本のニュースでは、これらの現象を「中国の景気減速だ」と説明しています。

しかし、若者の失業率の上昇は本当に景気だけが原因でしょうか。それを考えるために、もう1つのデータを見ていただきたいと思います。

おなじく急成長を遂げている新興国のインドでは、年間1200万人規模の若者が求人市場に参入するのですが、ITや製造業など主要8業種の求人は、インド全体を合計しても60万〜70万人規模でしかありません。結果として大卒のインド人の大半は、零細の自営業や日雇い契約での小売業・サービス業の仕事に就かざるをえません。

実はインドは女性の労働参加率が25%と低く、かつ男性の労働参加率も57%とそれほど高くはありません。総数2400万人の若者人口の約半分しか就活をしない社会であるにもかかわらず、大学は出たけれどもまともな仕事がない人が大半なのです。

生産性を徹底的に上げていった結果の失業率上昇

「リープフロッグ(かえる跳び)現象」という言葉があります。途上国が最先端技術を導入することによって一気に先進国よりも高い発展を遂げる現象を指しますが、その視点から中国やインドの現状を捉え直すと、ある可能性が見えてきます。これは不況ではなく好況が理由で起きた失業であるという可能性です。

要するにコロナ禍で中国、インドでもDXを強固に推進せざるをえなくなり、業務の生産性を徹底的に上げていった結果、急成長中の大企業が必要とする従業員は日本企業以上に少なくなってしまったのだと捉え直すことができるのです。

日本では大卒の就職者は年間約40万人、20〜24歳の青年失業率は9.0%です。そして就活生の人気が集中する大企業は求人倍率が0.6倍程度です。

これらの数字から、空前の売り手市場の中、就活に成功した学生の数を多めに推定したとして25万人程度。それと比較すればインドの大企業に就職できる学生が70万人しかいないという状況は、インドの巨大な人口を考えるとかなりの狭き門です。

日本でも就活に失敗して正社員の職にあぶれた若者が非正規雇用に向かうように、インドや中国でも同じ流れができているのですが、数字を見ても、現地の情報を見ても、どちらの視点で見ても仕事がない深刻さは日本よりもインドと中国のほうが上です。このことを、「仕事消滅による雇用の冬は、すでにインドと中国で始まっている」と見ることはできないでしょうか。

大半の仕事が生成AIに奪われる

生成AIが得意とする仕事は大きく分けて3つあります。「調べること」「整理すること」「模倣すること」です。これらの能力を生成AIが仕事で発揮してくれるようになることで、私たちの仕事はどう変わるのでしょうか。


ここが人類にとっては一番のカギとなる質問です。おそらく人類の大半はこの「調べる」「整理する」「模倣する」の3つの業務に従事しているはずだからです。

ChatGPTを生み出したオープンAIのサム・アルトマン氏は、

「AIがなくすのはジョブ(雇用)ではなくタスク(業務)だ」

と主張していますが、その小さなタスクの消滅が積み重なることで、何が起きるかを予測すると、それはホワイトカラーの仕事量の大量消滅に他なりません。

つまり、AIをフルに活用することで極めて高いビジネス生産性を謳歌できる未来は、一部のビジネスパーソンにとっては朗報であっても、大半のビジネスパーソンにとっては自分の仕事の消滅を意味することになりそうなのです。

(鈴木 貴博 : 経済評論家、百年コンサルティング代表)