日本株に投資すべきタイミングは「まさに今」といえる理由とは(写真:Elle Aon/PIXTA)

今、投資すべきは日本株。そう言われてどう感じるでしょうか?「日本はもう終わった」「人口減少だし、ITでは出遅れたし、株価が上がる要素がない」などと思う方もいるかもしれません。

しかし、『会社四季報』読破の達人として知られ、投資スクール・複眼経済塾を主宰する渡部清二氏は、「今ほど、日本株に投資すべきタイミングはない」と言います。渡部氏による最新刊『プロ投資家の先を読む思考法』より一部抜粋・再構成のうえ、市場の先読み術に役立つ長期思考について見ていきましょう。

長期投資なら何でもいいというわけではない

巷では長期投資の有効性を説かれることがよくあります。ただし、どんな銘柄でも長く保有すればいいかというと、そういうわけではありません。長期投資はトレンドに合っていて、時間の経過とともに値上がりしていく銘柄を選定できてはじめて効果を発揮します。そこを間違えて一切値上がりしない銘柄を選んでしまうと、まったくの期待外れになってしまいます。

次の図を見ていただくと、そのことが如実にわかることでしょう。この図は東証プライム市場に上場しているキーエンスと野村證券(現・野村ホールディングス)、それぞれの株価および日経平均株価の変化を比較したものです。


キーエンスは大阪に本社を置くFAセンサーなど検出・計測制御機器の大手ですが、平均年収の高さで知られています。2023年4集秋号(9月発売)の『会社四季報』の平均年収の欄には、2279万円と記載されています。まさに、トレンドにぴったりとマッチして大躍進している企業です。

一方の野村證券はといえば、かつて日本の証券会社の中でナンバー1のポジションにいました。ところがそれも2000年代初めまでのこと。その後は悲しいかな、鳴かず飛ばずといったところです。バブル崩壊後、じりじりと下がり続けた日経平均株価にも及びません。

それぞれ1990年4月の株価を1とした場合、2020〜2021年ころの株価は、キーエンス63.7倍、2022年12月時点では野村證券0.24倍、日経平均0.95倍となります。銘柄選びで運用成果が違ってくることがわかる事例でしょう。

さらに衝撃的なのは、それぞれの銘柄を毎月1万円ずつ買っていたと仮定した場合の試算結果です。「ドルコスト平均法」を使い、毎月一定の期日にそれぞれの銘柄を、私が野村證券に入社した1990年4月から2023年3月までの396カ月買った場合と仮定しましょう。投資金はいずれも合計396万円ですが、2023年3月末の評価額はこうなります。

日経平均 735万円 1.9倍
野村證券 238万円 40%減
キーエンス 7274万円 18.4倍

おそろしく差がついてしまいました。野村證券が投資金額を40%も下回っているのに対し、キーエンスは18.4倍にも膨れ上がっています。この例を見てもわかるように、大切なのは長く持つことではありません。「確実に値上がりしていく銘柄を選んで長く持つこと」なのです。

戦前に買っていたら7万倍! 驚異のパナソニック

私は仕事上においてのみならず、個人的にも株価の動きを追うことに強い関心を持っています。正確に言えば「この株、こんなに増えているのか!」と驚きたいという気持ちが強いのです。

そんな株式マニアの私をして、毎回目にするたびに感動せしめるのが、松下電器産業(現・パナソニックホールディングス)の株価の伸びです。

パナソニックは1918(大正7)年、松下電気器具製作所として大阪で産声を上げました。創業者の松下幸之助氏は、家庭内に電気を供給するソケットが電灯用の1つしかなかった時代に、電灯をつけながらその他の電化製品を使えるようにと二股ソケットを考案します。これが創業当初の大ヒット商品となり、後の日本を代表するパナソニックの礎となりました。


株価の側面から見ると、パナソニックが戦後最安値をつけたのは、1950(昭和25)年6月の27円です。当時は1000株単位の売買だったので、必要な買付金額は2万7000円ということになります。

これを上場来高値をつけた2000年3月まで持ち続けていたとしたら、どうなっていたでしょうか? 株式分割などで持株の数が増えたことも考慮すると、なんとその価値は19億円弱。投資金額2万7000円の約7万倍にもなっているのです。祖父母や曽祖父母の誰かが買って持ち続けてくれていたら、一族郎党けっこうな暮らしができたのではないでしょうか。

株の長期投資はこんなことを引き起こす可能性があるのです。

ただし繰り返しになりますが、それは「着実に伸びていく会社=確実に値上がりする銘柄」に長期投資した場合に限られます。

逆に言えば、銘柄選びさえ間違えなければ、パナソニックほどにはならないかもしれませんが、資金を10倍程度まで膨らますことのできる可能性は決して低くありません。

実は私自身、若いころは短期投資推奨派でした。というのも証券会社の営業マンだった私にとって、お客様に頻繁に株式の売買をしていただくことが自分の評価に直結したからです。

当時、株式投資は今のようにインターネットで行うものではなく、私のような証券会社の営業マンを介して行うものでした。人を介するからには当然、そこには手数料が発生します。株式は売りの場合も買いの場合も手数料がかかるので、短期投資でどんどん売買してもらう方が私にとってはありがたかったのです。

セブン-イレブンのオーナーが株で億万長者に

そんな私が考えを変えざるを得なくなったのは、仕事でセブン-イレブンの初期のころのオーナーさんたちのお話を聞いてからのことです。

セブン-イレブンの日本における1号店は1974年に開業し、2年後の1976年には100店舗にまで増えています。初期にセブン-イレブンのオーナーになった方々はイトーヨーカドーやセブン-イレブンの株を持っていて、私が証券会社に入社して10年後の2000年ごろには株式の評価額が何億円という金額になっていたのです。

たかだか25年程度でこんなに大きくなる銘柄もあるんだ!と驚きました。しかも、ご本人たちは株式投資目的でそれらの銘柄を購入したり保有したりしているわけではないのでまったくの無頓着です。

逆に言えば、無頓着だったからこそ「株価が上がったから売ろう」などという考えもなく、25年間保有し続けた結果、億万単位の株主になっていたということなのでしょう。

ふと気づくと、セブン-イレブンのオーナーさん以外にも、なんとなく持ち続けていたら資産が自然にできてしまった方々に多くお会いするようになりました。

そこで、「自分は何をわかったふうなことを言ってきたんだろう」と反省せざるを得なくなったのです。自分や会社に入ってくる手数料のことを考えたら、お客様に短期で売買していただくのがいちばんです。

でも「そうじゃないだろう」ともう一人の自分が囁(ささや)くのです。お客様のことを本気で思うのならば、少しでもリスクのない、できるだけ安全かつ再現性の高い投資手法をおすすめすべきなのは明らかです。

こんな経験から、一般の個人投資家の方にとっては、長期投資という選択肢がベストだと考えるようになったのです。

「将来爆発する銘柄」は常に存在する

長期投資は再現性が高いと考える理由として、「全上場銘柄のうち2%は10倍以上になっている」ということが挙げられます。このことは繰り返しいろいろなところで書いているので、「もう聞き飽きたよ」と思われるかもしれません。

でも、何度でも繰り返し言いたくなるくらい大切なことだと考えていただければと思います。これまで長年投資に関わり、富裕層の方々と接する機会の多かった私の経験上、「2%」というのは重要な意味を持つ数字なのです。

先日も、新聞でこんな記事を読みました。東京はニューヨークに次いで世界で第2位の富豪が多い都市だそうで、1億円以上のお金を使える人が約29万人いるそうです。2023年9月1日時点の東京都の人口がおよそ1400万人ですから、そのうち29万人とすると約2%ということになります。

2022年の年末ジャンボ宝くじの1等・7億円が当たった確率は2000万分の1、1等の前後賞・1億5000万円が当たった確率は1000万分の1だそうです。それに比べれば、保有している株が10倍になる確率が2%というのは、きわめて高いと思いませんか?

2%の確率で持株が10倍になる可能性を、株式投資をすることで誰もが平等に持つことができるのです。

リーマンショック時にも儲かった人がいる

2008年に起こった世界的な金融危機・リーマンショックを覚えていますか?

リーマンショックは、アメリカのサブプライムローンという金利の高い住宅ローンが返済不能になったために、投資銀行であるリーマン・ブラザーズが破綻したことがきっかけとなって起こりました。


この影響で、2007年2月26日に1万8300円をつけた日経平均株価は、2008年10月28日には一時6994円まで急落します。下落率は実に62%です。当時、まだ証券会社で営業マンをしていた私にとっては、悪夢以外の何ものでもありませんでした。もちろん多くの投資家の方々も大きなダメージを受けられたことでしょう。

ところがそんなにひどい時代であったにもかかわらず、中には株価が上がった銘柄も存在したのです。全部で3000ある銘柄のうち、プラスで終わった銘柄が69銘柄、割合にすると2.3%もあったのですから驚きです。

また、リーマンショック後に日経平均株価の終値が最安値をつけた2009年3月10日の7054円98銭から、2018年1月までのおよそ9年間のデータを見てみたところ、日経平均自体は3.5倍に上昇。

さらには、株価が10倍以上になった銘柄(テンバガー)が約9.1%、5倍以上になった銘柄(ファイブバガー)が約27%もあることがわかったのです。

(渡部 清二 : 複眼経済塾 代表取締役塾長)