『正直不動産2』で神木涼真を演じているディーン・フジオカさん

2024年1月9日火曜夜10時から始まるドラマ『正直不動産2』。山下智久さん演じる主人公、永瀬財地(ながせ・さいち)の最大敵対者である神木涼真を演じているディーン・フジオカさん。

永瀬が勤める登坂不動産の競合であるミネルヴァ不動産のエースでありながら、誰よりもナンバー1にこだわる神木。その悲しき過去を抱えた鬼気迫るキャラクターをどのように演じているのか。漫画『正直不動産』の脚本を手がける水野光博氏がとことん訊いた――。

『正直不動産』だから届けられる真実がある

――神木涼真役をディーンさんに演じていただけて光栄です。

フジオカ:ありがとうございます。ドラマ放送後に「よくやった」と言っていただけるよう頑張ります。やはり原作サイドの方々に満足していただけると嬉しいですからね。想いを込めて作られてきた作品かと思いますので、その気持ちに応えたいと思いますし、できるなら期待を超えるような結果を残せたらと思います。

――お会いして、改めて神木のイメージにピッタリだと感じたんですが、ディーンさんには神木というキャラクターはどう映りましたか?

フジオカ:正直に言わせていただくと、狂気だなと(笑)。

――ハハハハ。嬉しい感想です。神木は最も難産だったこともあり、個人的に思い入れの強いキャラクターなんです。おっしゃっていただいたように狂気をはらんだ人物をどう描いたらいいか悩み、最終的にタップダンスを踊らせることにしました。ただ、先ほどディーンさんがタップの猛練習をされている姿を見て、僕が神木にタップを踊らせたばっかりにと少し申し訳ない気持ちになりました。そもそも不動産の営業がタップを踊るって冷静に考えると……。

フジオカ:ハハハハ。僕は神木がタップをすることをすんなり理解できましたね。原作を読み進めていくと踊るきっかけがわかる構成になっていますよね。ストーリーテリングとして、キャラクターが「僕、狂気をはらんでます」とせりふで言ってしまったら台無しなわけで。では、どうしたらと考えた時、身体表現であるタップダンスをチョイスされたのはすごい洗練された表現方法だなと。神木にとってタップは解消できない葛藤や孤独を、熱を込め足で地面に叩きつけるという行為でもあるわけですから。

もちろん神木の言動は、一般的な社会通念とはズレが生じています。それでも、そこに自分の生きている目的や存在意義があり、深掘りしていくと神木にとっての正義や真実というものが見えてきます。キャラクターのビルドアップとして、タップはすごく練られた設定だなと思いました。


ディーン・フジオカさん

――原作をかなり読み込んでいただいているようで嬉しいです。

フジオカ:非常に興味深く読ませていただきましたね。このインタビュー前の雑談で、最初は桐山を主人公にしたシリアス路線の作品を想定していたが、急遽180度方向転換して永瀬を主人公に据え、コメディー要素を取り入れたという経緯をお聞きしました。そうお聞きして、より作品の解像度が上がりましたし、腑に落ちた部分が大きいです。当然、世の中のすべての不動産屋が悪徳なわけではないですし、不動産屋はビジネス、なりわいとして正当な対価をもらうべきです。ただ、そのために守らなければいけない矜持のようなものがあり、その幅は人それぞれ。そして、明らかにその幅から逸脱している悪徳不動産屋がいるのもまた事実。どういう伝え方が正しいのか難しいんですが、だからこそ『正直不動産』はリアルだなと思いました。

シリアス路線で全編真実を突きつけ続ける作品であったら、あまりに痛すぎる。そこに主人公の永瀬が一欠片の救いとして存在するコメディーに見せているからこそ届けられたり、切り込める真実があると思うんです。だからこそ一番生々しいリアルをいち読者として追体験できていると感じ、自分は読んでいてすごくエキサイティングでした。

不動産に関する勉強にもなるので本当に価値のあるコンテンツだなと。原作サイドの方を前に偉そうに語ってしまいすみません(笑)。

山下くんは人生を楽しんで生きている

――出演にあたり、シーズン2から参加する難しさはありましたか?

フジオカ:山下(智久)くんとは初めて共演させていただくんですが、(高橋)克典さんとは何作品もご一緒させていただいていますし一切難しさは感じません。役者のみならずスタッフさんを含め、皆さんプロで、「いい作品を作るためにここにいる」というブレない強い意志を持っているので、居心地の良さしか感じない現場ですね。


ディーン・フジオカさん

――初共演となる山下さんは、どう映っていますか?

フジオカ:俳優として素晴らしいですし、山下くんが今やっていること、その全部を知っているわけではないですが、自分が知る範囲で、彼が彼の人生をすごく楽しんでいるんだなと映ります。

もちろんそのために見えない部分で努力を惜しまない。誰かにやらされているわけじゃないんだろうな、やりたいことがたくさんあるんだろうなというのが近くにいてすごく伝わってきますね。

海外作品やいろいろなことに挑戦する姿は、すごく勇気ある行動だと思うし、周囲につねにポジティブな影響を与えている。なんかワクワクしませんか?

山下くんしかり、人生を楽しんで生きている人が近くにいると。僕も日々、山下くんにインスピレーションをもらっていますし、自分もそういう存在になりたいなと思いますね。

――では、永瀬というキャラクターはどう映りますか?

フジオカ:正直だなあと(笑)。同時に意外とみんな、永瀬みたいになりたいと思っているのかもと思います。誰にどう思われようと思ったまま感じたままのことを言う。自分もそうなれたらいいなとうらやましいですし、言いたいことが言えず苦しんでいる人もたくさんいると思うので。ただ現実社会で本音しか言わないというのはすごい反動がある。それは言わないでほしい、夢は夢のままでという一面もあるのが人間のサガだと思うので。だからこそ、『正直不動産』を読んでいて「永瀬、よくぞ言ってくれた」と思えたり、クスッと笑ったりできるんだろうなと。『正直不動産』がコンテンツとして持つ魅力っていろいろなものがあるなって思いますね。

けっこう今でもクレイジーですね

――ディーンさんとお会いできるので、いろいろ調べてきたんですが、“ディーン”という発音には広東語でクレイジーという意味もあるそうですね。狂気をはらんだ神木役をディーンさんに演じていただけるのはどこか運命的というか、不思議な縁のようなものすら感じます。

フジオカ:アメリカ留学中、ホストファミリーにつけてもらったニックネームなんです。その後、移り住んだ香港で壁と壁の間のような狭い部屋に住んでいたり、寝ずに働いたり、生活が無茶苦茶で周囲に「まさにディーン、クレイジーだ」と言われていた時代もありました。あの頃から比べたら、少しは洗練されたと信じたいです(笑)。

ただ、高校を出てすぐ海外生活を始め、敬語もままならない状態のまま30歳を過ぎて日本の芸能界に足を踏み入れ、日本に半年、海外で半年暮らす住所不定のような時期もありました。最近も海外のプロジェクトで1カ月ほどインド洋に浮かぶ島のジャングルで、冷暖房もWi-Fiもない床の隙間から地面が見え、寝ていると天井から虫が落ちてくる家で生活したりしています。結構今でもクレイジーな生活をしてますね(笑)。

――確かに(笑)。

フジオカ:こういう無茶苦茶なことをやってきて、もちろん今後はどうなるかはわからないんですが、それでも今のところは無事に生きているヤツもいるわけで。結果としてそうなったらいいなという話なんですが、『正直不動産2』を見てくださる人の中に、もしも今何かに悩んでいたり、生きづらいなと思いつめている方がいたら、「ディーンでもどうにかなったんだから、自分も何かまだできることがあるのかもしれない」と思ってもらえたらいいなと思います。

神木の存在を通して、見ている方の背中を押せたら

――それは素敵なことですね。

フジオカ:もちろん、肩の力を抜いて『正直不動産2』を純粋に楽しんでもらえるだけで嬉しいです。不動産屋というのは、誰しも人生で最低3度はお世話になるとも言われていますよね。その際に少しでも役立つ情報をお伝えできたらいいなと思いますし、不動産という難しい話がドラマという形であることで、視聴者の頭にスッと入っていく、その一翼を担えたらと思います。


ディーン・フジオカさん

――今日、お話をさせていただき、改めて神木役がディーンさんでよかったと思いました。最後にディーンさんが思うドラマの見どころを教えてください。

フジオカ:ドラマでは原作同様、神木がブッ飛んで、わけのわからないことをします。本当に極端で突拍子もない奇妙なキャラクターなので、きっと視聴者の方は神木を見て笑ったり、不思議に思ったりすると思います。ただ、物語が進行するうちに、時にはすごく胸が痛くなったり、共感してもらえたりすることも起こるはずです。

気づいたら神木の存在を通して見ている方の何かが成就したり、抱えていた何かが溶け出したり、願わくは前へ進む一歩、その背中を押す形になったらいいなと思います。そういうラストが待っていると僕は感じているので、どうぞ最終話まで『正直不動産2』をお楽しみください。

(取材・文 / 水野光博 撮影 / 三輪憲亮 ヘアメイク / 荒木美穂)

(プロフィール)
ディーン・フジオカ

俳優・ミュージシャン。2005年香港映画『八月の物語』の主演に抜擢され俳優デビュー。その後、台湾の多くのドラマ・映画に出演する。2015年、NHK連続テレビ小説『あさが来た』の五代友厚役で人気を博し、『ダメな私に恋してください』『モンテ・クリスト伯 -華麗なる復讐-』『パンドラの果実〜科学犯罪捜査ファイル〜』等に出演。『正直不動産2』では、主人公永瀬の最大の敵対者・神木涼真を演じる。

(水野 光博 : ライター(脚本)、漫画原作者)