相澤晃が語る箱根駅伝の魅力と母校・東洋大学へのエール 前回、現地観戦場所に2区を選んだワケ
相澤の快走は鮮烈な記憶として残っている photo by Naoki Nishimura/AFLO
2020年の箱根駅伝2区、東洋大4年の相澤晃(現・旭化成)は更新至難と見られていたM・モグス(山梨学院大)の区間記録(1時間06分04秒)を上回り、史上初めて1時間6分を切る1時間05分57秒で走破。翌年にはイェゴン・ヴィンセント(東京国際大、現・Honda)が相澤の記録を8秒更新したが、日本人の歴代記録では以前トップである。
あれから4年、相澤は1万mでオリンピアンとなり、長いブランクを経て再び2度目のオリンピックを目指しているが、卒業後も箱根駅伝を継続して見てきた。
「実業団入りしてからの3年間はコロナ禍だったので、テレビで見る機会が多かったですが、1回だけ現地に足を運びました」
現地観戦は前回大会の2区、横浜近辺にひとりで足を運んだ。沿道の観衆もコロナ前並みに戻ったこともあり、場所取りの大変さを、身を持って体感したという。
「現地観戦に行くなら、待ち時間が長いのでひとりでは行かない方がいいですね。僕の場合は小学生の子連れの家族に見やすい場所を譲った縁もあったので、トイレに行く時は声がけして場所をキープしてもらうことができました(笑)」
周囲からアスリートとして気づかれることもなく、やって来る選手たちの走りを堪能したという。また、2区を観戦場所に選んだのは懐古的な気持ちではなく、「行きやすい場所で、いい選手が走る区間」というのが理由だった。ちょうど故障箇所の治癒のため練習を控えていた頃のことで気分転換も兼ねていたのかもしれないが、自身の持つ1時間5分台の区間歴代2位、日本人最高記録に対する思いはいま、どのようなものなのだろうか。
「卒業してすぐの頃は抜かれたくないという部分もありました。でも翌年にはヴィンセント選手に区間最高記録は抜かれましたし、まだ日本人最高記録でもいまはもう抜いてほしいと思っています。というよりも、特に駅伝の場合は年を跨いだ区間記録で比べるのではなく、1年ごとに強かった、という判断でいいという考えになってきたからかもしれません。
だから前回区間賞(区間の最速選手)を獲得した吉居大和君(中央大4年)が今回、ぜひ1時間05分台に行ってほしいですね」
前回の2区は吉居、田澤廉(駒澤大、現・トヨタ自動車)、近藤幸太郎(青山学院大、現・SGホールディングス)という、学生界を代表する3人の主役級が終盤にデッドヒートを繰り広げ、歴史に刻まれる名勝負を演じて見せる中、相澤には特に吉居の走りが印象深いものだったという。
「間近で見る吉居君の走りは別格でした。自分にはできない動き方、言葉にするのは難しい部分がありますが、一言で言えば軽い、リズムが圧倒的にいい。田澤君はどちらかというと僕みたいに(力感的な)感じなんですけど、やっぱりリズムがいい人の走りって見ていて気持ちいいですよね」
フォームなどはもちろん、「足音」もまた「気持ちいい走り」を判断する要素だという。
「僕は、足音にかなり反応するほうで、"いい足音だな"と思うと、だいたい良い走り方をしている選手なんです。吉居君の足音は聞いたわけではないですが、いい足音がする走り方です。しばらくはトラック種目優先で行くでしょうけど、僕らの後の世界では吉居君がしばらく中心になってくると思います。5000mを軸にしているようですが、1万mに出ればもっと記録が出ると思うんですけど」
【第100回大会と母校・東洋大へのエール】節目の100回大会を迎える今回の箱根駅伝、史上初の2年連続3冠の偉業がかかる駒澤大学が圧倒的な優勝候補だ。相澤はどう見ているのか。
「間違いなく大本命は駒大だと思います。とはいえ、青山学院大も強いですよ。たとえば前回大会でも4区まで競り合いました。当日変更のあった5区で大きく後れを取ったことでリズムが崩れた印象でしたが、普通に走れていれば復路ももっと競れたと思いますし、選手層からしても、優勝するチャンスはある。中央大、國學院大も優勝を狙う戦力は整っていると思います」
駒澤大の区間エントリーは、主将の鈴木芽吹(4年)が2区、2年生エースの佐藤圭汰が3区、補欠の篠原倖太朗(3年)は当日変更で4区への起用が見込まれており、三枚看板が前半3区間で勝負を決めにくることも予想されているが──。
「往路に3人を並べてくるのか、篠原君を復路に残すのかでだいぶ変わると思います。推測されていた佐藤君の1区はありだと思っていましたが、現実的にはやはり3区です。藤田監督が1年目でどのような采配をしてくるか。どうでしょう(笑)」
そして、やはり気になるのは母校・東洋大。ここ数年は厳しい戦いが続く中、18年連続でシード権を守り続けてきた。今季もなかなか主力の足並みが揃わず、出雲駅伝、全日本大学駅伝では精彩を欠いているが、相澤は後輩たちにエールを贈る。
「高校(学法石川・福島)の後輩でもあるエースの松山和希(4年)がカギを握るでしょうね。松山がどの区間にしても区間上位で走れれば、シード権は固いと思います。仮に計算できる選手が計算どおりに行かなくても、ここ数年は4年生が踏ん張って、つないできました。その意味では4年生の踏ん張り、今年に関しては下級生含めて全員でしっかりつないで行ってもらえればと応援しています」
今回は前日のニューイヤー駅伝に出走予定のため、箱根駅伝の現地に足を運ぶかどうかは未定だが、行くならあるアイデアを心に温めている。
「松山は、高校は入れ代わりの世代ですが話もする間柄で、とはいえ先輩風を吹かせるのも嫌なので(笑)、箱根駅伝での最後の勇姿を自分のカメラで撮影して、それとなく渡せたら最高ですね」
【プロフィール】相澤晃(あいざわ・あきら)/1997年7月18日生まれ、福島県出身。学法石川高(福島)→東洋大。高校時代は貧血などに悩まされインターハイ出場はなかったが、大学入学後は食事の改善等もあり、その潜在能力を発揮。2年時以降は特に学生3大駅伝でその存在感を見せつけ、出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝すべてで区間新記録を樹立。2020年箱根駅伝2区では史上初の1時間5分台(57秒)となる区間新記録を樹立した(今も歴代2位、日本人歴代最高)。卒業後は旭化成に進み、トラック1万mで日本記録更新、日本選手権2連覇、2021年東京五輪出場(17位)とさらなる成長を続けている。2023年12月の日本選手権1万mでは27分13秒04の自己ベストで3位に入った。