2023年のF1を象徴するトピックス10「ベッテルを抜いて歴代3位」「驚異のルーキー現る!」
2023シーズンF1トピックス10(前編)
3月5日にバーレーンで開幕を迎えた2023シーズンのF1は、世界各国を8カ月半かけて転戦し、11月26日のアブダビで閉幕した。
中国GPが新型コロナウイルスの影響でキャンセルとなり、エミリア・ロマーニャGPも豪雨による中止で予定されていた史上最多24戦のカレンダーは全22戦になったものの、F1サーカスは各国でさまざまなドラマを生んだ。
2009年からF1を現地で全戦取材するジャーナリスト・米家峰起氏に2023シーズンのトピックスを10点、ピックアップしてもらった。
※ ※ ※ ※ ※
オスカー・ピアストリはオーストラリア出身の22歳 photo by BOOZY
【1】レッドブル独走。前人未踏「22戦21勝」の快挙!
とにかく2023年は「レッドブルのシーズン」でした。
年々レース数が多くなってきたこともあり、1988年にマクラーレン・ホンダが打ち立てた16戦15勝・勝率93.75%という記録は永久に破られることはないだろうと思われていましたが、2022年の22戦17勝をさらに上回る22戦21勝・勝率95.45%という驚異的な強さを誇ったことは、2023年の大きなトピックと言わなければならないでしょう。
予選はフェラーリが7回、メルセデスAMGが1回、ポールポジションを獲っており、レッドブルが圧勝だったわけではありません。しかし決勝では、タイヤマネージメントと戦略、そしてミスをしないドライバーというすべてが揃っていたレッドブルがライバルを圧倒しました。『フォーミュラ・レッドブル』という言葉が生まれるほど、別格の速さを誇っていました。
ただし後半戦は、ライバルたちの足音が着実に大きくなってきていたのも事実です。
フェラーリのポールポジションは後半戦の11戦中6回に集中しており、決勝でもカルロス・サインツがシンガポールGPで優勝、イタリアGPでも途中まで優勝争いを繰り広げ、ラスベガスGPではシャルル・ルクレールが勝っていてもおかしくない速さを見せました。
また、メルセデスAMGもアメリカGPやカタールGPでは速さを見せ、マクラーレンもカタールGP、サンパウロGPでは優勝をうかがうところにいました。
モナコGPやオランダGPでは、雨に対するピット戦略判断によってはフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)が勝っていてもおかしくありませんでした。しかし、そんなギリギリの状況でも着実に勝利を掴み獲ってきたのが、2023年のレッドブルでした。
22戦21勝というのは、決してマシンの圧倒的な性能によって労せずして得た結果ではなく、チームとドライバーの総合力として、ほかの誰よりも優れていたがゆえの結果です。
優勝争いだけを見れば「またレッドブルか」と、シーズンがやや退屈なものになってしまったことも事実です。ですが、それはレッドブルのせいではなくライバルたちのせいであって、レッドブルの強さと偉業は賞賛されてしかるべきものです。
「1988年のマクラーレン・ホンダ」のように、今後、何十年と語り継がれていくであろう「歴史」を目撃したことを、我々は誇りに思うべきでしょう。
【2】フェルスタッペン3連覇。通算勝利数で歴代3位!
レッドブルの独走は、すなわちマックス・フェルスタッペンの独走でもありました。
シーズン序盤はセルジオ・ペレスが同等の速さを見せてタイトル争いに名乗りを挙げましたが、プレッシャーもあったのか急失速。それ以降のフェルスタッペンは、ほとんどプレッシャーを受けることもない状況が長く続きました。それでも毎回全力を出しきり、容赦なく貪欲に勝ち続けたのはさすがでした。
だからこそ「22戦19勝」という驚異的な記録で3年連続の王者となることができたのです。あらゆる部分で100パーセント実力を出しきることに貪欲で、レース全体を俯瞰して冷静に見詰め、攻めるべき所では攻め、ミスも犯さない。まさに「王者の風格」というものを見せつけたシーズンだったと思います。
通算勝利数は54に伸ばし、51勝のアラン・プロストや53勝のセバスチャン・ベッテルといった偉大なドライバーたちの記録を上回りました。1951年のアルベルト・アスカリやベッテルが打ち立てた最多連勝記録も抜いて10連勝をマーク。
間違いなくフェルスタッペンはF1史上に残る偉大なドライバーのひとりですが、惜しむらくは、マシン性能という点においてライバル不在という状況。「セナとプロスト」のようなよくも悪くもヒリヒリするような好敵手がいれば、フェルスタッペンのすごさや記録はもっと高く評価されるはずです。2024年はそんなシーズンになることを期待したいと思います。
【3】マクラーレンが大躍進。脅威の新人・ピアストリ!
フェラーリとメルセデスAMGは2022年新規定で成功できなかった独自コンセプトを継続したものの、結局モノにできずシーズン途中で断念。それに対し、マクラーレンは時にトップ争いに絡む大躍進を果たしました。
マシン開発に失敗したマクラーレンも、シーズン開幕時点では下位に沈んでいました。しかし、開幕前の段階でテクニカルディレクターをはじめ、技術体制を刷新して出直しを図りました。
第10戦オーストリアGPでフロアを刷新して、ようやく本来の開幕仕様を投入。まずはダウンフォース量を増大させることを優先し、そこから第16戦シンガポールGPでさらに第2段階のアップデートで低速コーナーやドラッギーさといった弱点を潰し込んでいきました。
急激なV字回復を果たしたように見えたマクラーレンですが、実は大きなアップデートはこのふたつだけ(第11戦イギリスGPでは前戦で間に合わなかったフロントウイングも改善)。この2回のアップデートをしっかりと成功させて大きなジャンプアップを果たしたのは、アンドレア・ステラ新代表の下で3部門の合議制によるマシン開発を進める新体制が非常にうまく機能していることを表わしています。
加えて、速さに定評のあったランド・ノリスだけでなく、新人のオスカー・ピアストリもシーズン中盤戦からノリスを上回るほどの速さを発揮しました。
さすがにタイヤマネジメントではまだノリスのほうが上手で、決勝では太刀打ちできないものの、日本GPとカタールGPで表彰台を獲得し、スプリントではポールポジションと優勝も経験。チームとマシンに恵まれたとはいえ、新人としては驚異的なインパクトを与えました。
このシーズン後半戦の上昇トレンドは、翌年に引き継がれるのが常。2024年はノリス、ピアストリともに初優勝の可能性も見えてきています。
(中編につづく)