平畠啓史の2023年J2総括 選手編

日本屈指のサッカーマニアでJ2ウォッチャーでもある平畠啓史さんの、2023シーズンのJ2総括選手編。今季見つけた、語らずにはいられない選手5人とは?

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平畠啓史さんが今季J2で注目した保田堅心(左/大分トリニータ)と市原吏音(右/大宮アルディージャ) photo by Getty Images

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【スタジアムの期待感が半端なかった】

中原 輝(東京ヴェルディ/MF)
なかはら・ひかる/1996年7月8日生まれ/身長169cm、体重66kg

 シーズン終盤の主役として、J2を盛り上げてくれた選手といえば中原輝選手ですよね。

 シーズン途中にセレッソ大阪から加入したのですが、「やりきる」「決めきる」選手です。ここで決めてほしいという時に決めてくれる。技術の高さなどもありますが、プロの選手としてより大事な、いつ点を取るかのインパクトが抜群です。

 39節ジェフユナイテッド千葉戦のアディショナルタイムに決めた逆転ゴールもそうですし、41節の栃木SC戦で82分に決めた決勝ゴールもそうです。あれはチームがひとり少ない状況での直接FKでした。

 シーズンが進むにつれて、中原選手の左足にボールが入った時のスタジアムの期待感が半端ないんですよ。なんか絶対やってくれるという雰囲気になっていましたよね。シーズン途中で来たばかりなのに、ここまで心をつかむのはすごい。

 中原選手と染野唯月選手は、J1昇格には欠かせないふたりでした。中原選手は体は小さいんですが、相手に体を寄せられても強い。当たられても簡単には倒れずそのままドリブルで運んでいく。

 アビスパ福岡の紺野和也選手とも共通するんですが、小さい選手が大きい選手をドリブルでかわしていくのは痛快でサッカーの魅力ですよね。それに左利きだからさらにかっこよく見える。

 サッカー少年たちが見ても「ああいう選手になりたいな」と思える選手が、大事なところでゴールを決めるので、シーズン途中からですが2023シーズンの主役になりましたよね。

 ドリブルはめちゃくちゃ速い感じでもないのですが、運び方のうまさ、ドリブルのコースの選び方がうまく、相手が来ても相手の力を利用して逆を取っていきます。

 相手がものすごいスピードで来たら急に止まって、慣性の法則で相手が流れていくみたいな。自分がフェイントをかけてというよりも、相手の力を利用してどんどんかわしていくのがすごくいい。

 あとヴェルディは中原選手の後ろに宮原和也選手がいて、右サイドのふたりのコンビが抜群でしたよね。いわゆるJ1レベル。中原選手が攻撃にいけばいくほど、宮原選手も攻撃にいける。そのコンビの力みたいなのがすごかったですね。(※シーズン後にサガン鳥栖への移籍が発表されました)

【姿勢がいい、密集でも全然慌てない18歳】

保田堅心(大分トリニータ/MF)
やすだ・けんしん/2005年3月5日生まれ/身長181cm、体重68kg

 18歳なんですが、将来やばい選手になりますよね。もう今でもすでにやばいんですが。

 まず姿勢がいい。181cmあって姿勢がいいので、視野が確保できている。中盤の真ん中で、ピッチのなかで一番人が密集しているエリアにいるのに全然慌てない。あれだけの密度の中であの余裕を持てる18歳はなかなかいないと思います。

 プレーぶりがすでに優雅な感じがすごく好きなんですよね。周りと磁場が違うというか、持っている空気感が違うんですよ。

 どの角度からパスが来てもボールを収めて状況を見てターンできるし、自分でサイドまでボールを運んだりもします。昨年から見ていましたが、今年はさらによくなっています。

 あれだけ余裕を持ってボールを持たれると、守備するほうも寄せきれない。行ったらかわされる磁場というか、ガツンといきづらい空気感を18歳で出している。18歳で出しているということは、おそらく15歳でも出していたと思うんですが。

 やっぱりサッカーって、慌てれば慌てるほどミスするじゃないですか。わかっていても相手がボールを取りにきたら慌てる。でも保田選手は本当に慌てないんですよ。寄せられて慌てる人もいるんですが、おそらく自分の技術力の自信みたいなものがあるから慌てないでできるんだと思う。

 うまいから姿勢がよくなるのか、姿勢がいいからうまくなるのかわからない(笑)。家長昭博(川崎フロンターレ)選手もそうなんですが、もともと姿勢がいい人がああいう感じのプレーをできるようになったのか、足元がうまいから姿勢がああなったのか。

 保田選手も家長選手も普段のショッピングモールで買い物している時の普段の姿勢を見てみたい(笑)。普段の姿勢がどれぐらいなのか、それともサッカーの時だけ姿勢がいいのか。それはめっちゃ気になります。

 来季が本当に楽しみな選手ですが、今シーズンはどんどんシュートを打つようになっていったので、来季はシュートだけでなくゴールに関わるようなアシストやスルーパスが増えてくるとさらに面白い選手になりそうです。

 今はチームのなかでの役割をまっとうしている部分もあると思うけど、こじんまり収まらずに、たまには言うことを聞かずにゴール前に行っちゃっていいのになって。

【大卒ルーキーで13ゴール】

小森飛絢(ジェフユナイテッド千葉/FW)
こもり・ひいろ/2000年8月6日生まれ/身長178cm、体重73kg

 2023シーズンで小森飛絢選手はおさえておかないといけない。大卒ルーキーで13ゴールってやっぱりすごい立派だと思います。J2得点ランキングでも4位に入りました。

 できるプレーの引き出しが多いですよね。13点も取っているんでシュートもうまいんですが、だからといってシュートを打つためだけにプレーしている感じではなくて、ポストプレーもできるし、裏にも抜けられるし、守備もします。周りとのコンビネーションもうまく合わせられる。

 得意なプレーがあると思うんですけど、それに固執しないというか、状況に応じて一番いいプレーを選択できる。自分がやりたいプレーもそうだけど、チームが苦しい時にひとりでボールを受けて、ちょっとドリブルで運んで時間を作ったりとか。

 点を取ることだけじゃなくて、いろんなプレーでチームのために戦う。大卒ルーキーだと、もっと自分のプレーに必死になってしまいそうじゃないですか。

 自分のプレーにある程度自信があるんじゃないかと思います。だから慌ててバタバタすることがない。やっぱり自信がなかったら、何かが足りないんじゃないかとか、何かを変えないといけないんじゃないかとか、考えがちだと思うんです。だけど、自分のプレーに徹していますよね。

 小森選手って背番号がはっきり見えるんですよ。背中が大きい。それって僕は結構大事だと思っていて、体を鍛えるとか、筋肉をつけるとかありますが、そうじゃなくて背中が大きい。

 それってスポーツ選手全般的にも、特にサッカーのFWにおいて大事だなと。背番号がはっきり見えて、くしゃくしゃにならない。細くてユニホームが大きいと、ユニホームがくしゃくしゃになるじゃないですか。それは小森選手を最初に見た時から感じていました。

 あの背中だとちょっとくらい当たられても余裕がある。精神的にも戦えて、今シーズンのジェフのなかでも際立っていたし、大卒ルーキーもいろんな選手がいましたが、そのなかでも活躍した選手。

 意識の高さもあるし、びびっている感じもない。大卒ルーキーって早く結果を出さないといけないなかで、期待されて入ってきても結果に結びつかない選手もいる。その状況で1、2年目って勝負だと思うんです。そこで13点取ったのはすばらしかった。

【U18所属でシーズン後半からフル出場】

市原吏音(大宮アルディージャ/DF)
いちはら・りおん/2005年7月7日生まれ/身長185cm、体重77kg

 まだ大宮U18の選手なんですが、26節から17試合フルタイム出場しているんですよね。それだけでもこの選手はすごい。

 あとどう見ても18歳の選手に見えない。外見は若いし好青年って感じなんですけど、プレーぶりが本当に落ち着いていますね。DFとして守備もうまいし、ボールも運べるし、パスも出せる。それだけじゃなくて周りの選手も励ますんですよ。えらい18歳やなと。

 試合を見たことはないですが、アンダーカテゴリーではリーダーシップをとっている選手だと思うんです。それを同じようにトップに入ってもできる。チームの状況も良くないなかで、周りは大人ばっかり。そんなところに18歳が入っていつも通りやれって言われても、それは簡単じゃないですよ。

 でも本人はそれを多分なんとも思ってない。「18歳なんて関係ないですよ」「世界から見たら遅いぐらいですよ」って感じに見えます。

 DFなんで冷静さはすごく大事で、市原選手は周りがすごく見えている。18歳でこれだけ落ち着いて、淡々とプレーできるのはいい選手。こういう選手が出てくるのが大宮のアカデミーの力ですね。前線や中盤でいい選手がいっぱい出てきていますが、DFでもこういったいい選手が出てくるのは、あらためて大宮のアカデミーの力を示しているなと。

 あとうまい選手に共通するところかもしれませんが、うまい選手はミスが大ケガにならないんですよ。自分も高校までサッカーやっていて、本当になんでかなと思うんです。ミスが失点に繋がったりとか、ミスがピンチを生み出す選手ってだいたい決まっているんですよね。

 誰だってミスはするんですよ。でもミスが失点に繋がらない選手っていて、それはうまい選手のひとつの条件かもしれませんね。

【三笘薫的。将来が楽しみなドリブラー】

松澤海斗(V・ファーレン長崎/MF)
まつざわ・かいと/2001年2月5日生まれ/身長174cm、66kg

 三笘薫選手的な左サイドの攻撃的なポジションで、ドリブルを仕掛けていきます。

 三笘選手のようにボールを突きながらドリブルして、相手の逆を突いていく。かわすだけじゃなくて、なんならゴールラインまで持っていって、ゴールラインと平行に中にも入ったりできるのがちょっと三笘選手っぽいんですよね。もう、すでにそれはいろんな人が言っていると思うんですが。

 長崎は外国籍選手も多くいて個の力が強烈で、そこに目が行きがちですが、松澤選手やジョップ・セリンサリウも若くていい選手なんですよね。このふたりはもうちょっと見たかったですね。出番が多かったわけではなかったんですが、出た時はすごく活躍していました。個人的には来シーズンもっと見たい選手。

 試合によっては真ん中で使われることもありました。中央でファンマ・デルガド選手と組むこともあり、そのなかでシュートの機会も増えました。でもやっぱり面白いのは左サイドに開いてボールを受けて1対1で仕掛ける時ですよね。

 せっかくいい形でボールが入ってサイドで1対1になった時に、何回もボールを下げちゃう選手っているじゃないですか、松澤選手は1対1で行ってくれるんですよ。自分の持ち味を理解しているし、見ている側も仕掛けることを感じている。

 今シーズンずっと出場していたわけではないので、多分まだまだプレーの幅が広がるんじゃないかと。ジョップ・セリンサリウ選手とともに今年見つけた将来楽しみな選手ですね。

平畠啓史 
ひらはた・けいじ/1968年8月14日生まれ。大阪府出身。芸能界随一のサッカー通として知られ、サッカー愛溢れる語り口が人気で、多くのサッカー関連番組に出演中。『平畠啓史Jリーグ56クラブ巡礼2020 日本全国56人に会ってきた』(ヨシモトブックス)など、サッカー関連の著書も多い。