かわいい愛犬と社交ダンス!? アジアで広まる「ドッグスポーツダンス」の魅力を人気ペアが語る「しつけの延長にある感じです」
ドッグスポーツダンス・大沢真衣香&ぽぽ インタビュー前編(全2回)
愛犬と飼い主が一緒に楽しむ「ドッグスポーツ」と言えば、コース上に置かれた障害物をクリアしてタイムを競う「アジリティ」や、ディスク(フリスビー)を使った「ディスクドッグ」などを頭に思い浮かべる人が多いのでは?
今回紹介する「ドッグスポーツダンス」は、音楽のリズムにあわせて華麗なトリック(技)を繰り出す、まさに犬と飼い主との社交ダンスのような競技だ。群馬県前橋市に住む大沢真衣香さんも、ドッグスポーツダンスに魅せられたひとり。ドッグトレーナーとして仕事をしながら、愛犬のぽぽ(日本スピッツ・オス・5才)と日々練習に励み、大会で優勝も果たしている。
ドッグスポーツダンスに挑戦中の大沢真衣香さんと日本スピッツのぽぽ
大沢さんが師として仰ぐ人物が、イギリスの国際的大会「クラフツ」で連覇を収めているルツカ 平井 プレボバさん。大沢さんはYouTubeでたまたまルツカさんの動画を見て競技の存在を知り、同じ動画を繰り返し見て研究しながら愛犬のぽぽにダンスを教えていた。
そして、ルツカさんから直接指導を受けるために、約2年前に東京からルツカさんが住む群馬県への移住を決断。週1回のレッスンを受けながら、ルツカさんが主催する大会に参加している。
「(アジリティやディスクなどの)他の競技もすごくカッコよくて好きなんですけど、ダンスはより犬と絆でつながっている感じがします。犬をふだんからかわいがったりする以外にもプラスでコミュニケーションをとることができるので、新たな一面を見ることもできる。もっともっと親密な関係になれるところがドッグスポーツダンスの魅力です」と語る大沢さん。
多彩なトリックを披露するぽぽ
大沢さんはドッグトレーナーとして「日帰りお預かりトレーニング」をはじめ、カウンセリングやオンラインレッスンを行ないながら、ドッグスポーツダンスのトリックも教えている。ドッグスポーツダンスに向いている犬種はあるのだろうか。
「年齢は子犬でもシニアでも関係なく、どの犬種でもできますよ。さらにダンスを極めていくには牧羊犬やボーダーコリーなどの身体能力が高い犬種が向いていますが、頭がいい子たちなのでそれはそれで教えるのが難しいということも。今、ダンスを教えている飼い主さんのなかに、ミニチュアダックスフンドを飼っている方がいます。(ダックスは足が短いため)前足をクロスさせることができなくて重ねるので精一杯なんですが、それもすごくかわいいんです」(大沢さん)
大沢さんが憧れ、師事しているルツカ 平井 プレボバさん 写真/ルツカさん提供
そもそも、「ドッグダンス」は1980年代にヨーロッパで始まったドッグスポーツ。欧米を中心に大会が開かれており、日本では2004年に横浜で初めてフリースタイル競技会が開催された。
一方の「ドッグスポーツダンス」は、ルツカさんが考案した新しい競技。「犬が主役で飼い主はそのサポート役」という性質が強く、犬が主体となってダンスすることが求められる。主に日本のほか、台湾、韓国などのアジア圏を中心に広まっているという。
ルツカさんが所属し、ドッグスポーツの普及に取り組む「ドグタウン工房」(群馬県)のHPによれば、ドッグスポーツダンスのフリースタイル種目は、初心者向けのビギナークラス、中級者向けのオープントリーツクラス、上級者向けのオープンクラスと、3つのレベルに分かれている。大沢さんとぽぽは現在、オープントリーツクラスに出場している。
大会では上位成績を残している 写真/大沢さん提供
音楽の長さは、ビギナークラスが1分〜2分30秒、オープントリーツクラスとオープンクラスは2分〜4分。曲目は参加するクラスの長さに合わせて各自で自由に準備する。ビギナークラスとオープントリーツクラスは、トリーツ(おやつ)やおもちゃの持ち込みができるが、オープンクラスは持ち込みができない。
大会では、3人の審査員が「Canine(犬)」「Handler(飼い主)」「Team Elements(技)」と減点対象の「Penality(ペナルティー)」の4つのカテゴリから採点する。
「Canine」は、犬がどれだけ飼い主に集中できているか、犬が体の使い方や運動能力を表現できているか、難しいトリックやムーブをスピーディーかつ飼い主と一緒に表現できているかなど、犬の魅力を引き出せているかが採点ポイントとなる。
大沢さんの声や合図を認識し技を繰り出すぽぽ
「Handler」は、全体の演技構成や音楽と犬の動きとのマッチ度、またシグナル(犬への合図)がどれだけ小さくできているかをジャッジ。手でサインするよりも、言葉だけの合図のほうが、難易度は高く加点対象となる。また、「Team Elements」では各トリックについて採点される。
「犬と飼い主が向かい合って行なうトリックよりも、横や後ろのポジションのほうが難易度は上がります。顔が見えない状態での指示は犬にとって不安なので、その不安を取り除くためのトレーニングも行なっています。また、犬が前を向いた状態で横移動する『サイドウォーク』や後ろに下がる動きは後ろ足を使うので難しいトリックのひとつ。犬は前足に強い意識があり後ろ足は後からついてくるという感覚なので、後ろ足を意識させるトレーニングを行なっています」(大沢さん)
ドッグスポーツダンスの楽しさを語る大沢さん
現在、ぽぽは100個以上ものトリックを習得。早ければ一日で覚えられる技もあれば、完全に声のサインだけで動くには1カ月ほどかかることも。しゃがんだ大沢さんの背中に後ろ足を乗せる逆立ちのトリックは、後ろ向きに下がる訓練と、後ろ足を浮かせるための筋肉をつける必要があるため習得まで半年ほどかかったという。
逆立ちは高い難度のトリック
ジャンプしたり立ち上がったり、その動きはまさにアスリートドッグ
「どのワンちゃんも最初の1個目のトリックは覚えやすいです。犬がその場で回転する『スピン』や、飼い主の足の間をくぐる『ウェーブ』は初めてのトリックでも比較的簡単に教えられますよ。ただ、その前提として、まずは名前を呼んだら来る『おいで』ができることが必須。コミュニケーションをとれることが何より大事なので、しつけの延長にこういったスポーツがあるという感じですね」
今年6月に前橋市で開催された「第5回ステップ&フライ クラウンズ(Step&Fly Crowns 2023)」のオープントリーツクラスでみごと優勝を果たしたぽぽ&大沢ペア。最後に、どんな人にドッグスポーツダンスをおすすめしたいか尋ねた。
「犬ともっとコミュニケーションをとりたい人もいいと思いますし、動くことが好きな方もいいと思います。ダンスをしていると筋肉がすごくつくので、犬の健康にもいいんですよ。あと、食欲旺盛で元気いっぱいっていうワンちゃんを飼っている方も。いくら運動させても疲れない子は、頭を使って適度に疲れさせると気持ちが満たされるのでとくにおすすめです」
「一緒に踊ることで絆が深まる」と大沢さん
後編<人気のアスリートドッグ・ぽぽの出演イベントに全国から日本スピッツが集合 100個以上の技を習得する秘訣をパートナーに聞いた>を読む
【プロフィール】
大沢真衣香 おおさわ・まいか
1997年、千葉県生まれ。東京動物専門学校を卒業後、東京都内のドッグトレーナーとして働いたのち、2021年に群馬県前橋市へ移住。犬のしつけ専門「ぽぽハウス」を経営している。日本スピッツの愛犬・ぽぽと「ドッグスポーツダンス」に取り組んでいる。SNSでドッグスポーツダンスの楽しさを発信中。
ぽぽ
日本スピッツの5才のオス。ペットショップで飼い主の大沢真衣香と出会う。大沢とともに「ドッグスポーツダンス」に挑戦しているアスリートドッグ。習得したトリック(技)は100個以上にもなる。ふだんはマイペースで、ぬいぐるみと遊ぶのが大好き。