FIBAワールドカップで3勝を挙げて、アジア勢の最上位を獲得し、パリオリンピックの出場権を獲得──。2023年夏、バスケットボール男子日本代表は世界中にインパクトを与えた。

 そのなかでひと際大きな注目を浴びていたのは、ポイントガードの河村勇輝(横浜ビー・コルセアーズ)だ。身長172cm──バスケット界では小さい部類に入る河村がキレのあるプレーで、世界の大男たちを翻弄し続けたのである。

 そんな河村も、突然、日本を代表するポイントガードになったわけではない。多くの選手たちと同様に学生年代にさまざまな大会で経験を積んで、今の"河村勇輝"になった。

 その舞台のひとつが、毎年12月下旬に開催されるウインターカップだ。「真の高校日本一を決める大会」とも呼ばれる同大会は、今年も12月23日から29日まで東京体育館をメイン会場に行なわれる。

 そこには「ネクスト河村」に名乗り出そうな選手たちがいる。


崎濱秀斗(福岡第一・3年)photo by Mikami Futoshi

 まず挙げたいのは、河村の母校・福岡第一(福岡)の崎濱秀斗(さきはま・しゅうと/3年)。9月に行なわれた「U18日清食品リーグ」で左足を骨折するアクシデントに見舞われたが、ウインターカップには間に合いそうだ。

 持ち味はフィジカルの強さを生かした突破力。強さだけでなくスキルも兼ね備えているため、わずかなスペースでもボールを失うことなくシュートまで持ち込むことができる。

 突破するコースがなければ、素早くジャンプシュートに切り替えるのだが、その精度も高い。滞空時間の長いジャンプシュートだけでなく、日本のバスケット界では、あまり「よし」とされてこなかった、やや横に流れながら打つシュートも確率よく決めてくる。

 高校卒業後は、すでに決定している「スラムダンク奨学金」を得て、アメリカに渡るそうだ。そのために中学生の時から英会話にも取り組んでいて、YouTubeでもその成果を披露している。

 2019年の河村たちの代以来となる「ウインターカップ制覇」を置き土産にできるか。注目したいところである。


榎木璃旺(福岡大学附属大濠・1年)photo by Mikami Futoshi

 次に紹介するのは、その福岡第一をウインターカップ福岡県予選の決勝戦で破って福岡県1位として本大会に出場する福岡大学附属大濠の司令塔、榎木璃旺(えのき・りお/1年)だ。

 榎木も崎濱と同じく、フィジカルの強さが強み。並みの1年生であれば上級生とのコンタクトで引けを取ってしまうが、彼にはそれがない。だからこそ、自らの持つスキルを多少のプレッシャーを受けた状態でも的確に繰り出すことができる。何より強いパスを出せるところは、ポイントガードとしての魅力のひとつでもある。

 加えて、チームを率いる片峯聡太コーチは「強靭なメンタル、大舞台であっても精神的なムラがなくプレーできるところがすばらしい」と太鼓判を押す。

 今夏のインターハイは県予選で敗れたため、全国の舞台を経験できていない。ウインターカップは、そのヴェールを脱ぐ初お披露目の場でもある。

 河村もまた、1年生の夏こそ主力ではなかったが、同じ年のウインターカップでスタメンの座を勝ち取り、大会ベスト4まで勝ち上がっている。身長も河村の172cmに対し、榎木は170cm。同じ小兵タイプのポイントガードとして、福岡大学附属大濠を2年ぶりの優勝に導けるか。ルーキーガードの挑戦が始まる。


瀬川琉久(東山・2年)photo by Mikami Futoshi

 そして現在「世代ナンバーワン」との呼び声が高いのは、今夏のインターハイで決勝戦まで勝ち進んだ東山(京都)の瀬川琉久(せがわ・りく/2年)である。

 オフェンシブなバスケットを標榜する東山にあって、さらに超攻撃的なプレーでチームを牽引。身長も184cmと大きく、それでいてクイックネス、パワー、スキルにも長けている。

 ディフェンスとの間にズレをつくる戦術「ピック&ロール」で判断よく攻めるプレーは、まさに世代ナンバーワン。スペースがあれば一気にリングまで加速し、ディフェンスが下がればジャンプシュート。シンプルだが、これほど厄介な選手はいない。

 中学時代は神戸のクラブチームで、ウインターカップの中学版ともいうべき「ジュニアウインターカップ」で優勝している。当時は強すぎるがゆえに負けることを知らなかったが、東山でその悔しさを知ったことで、より勝利への意欲が高まっている。精度が低かった3ポイントシュートも東山で磨きをかけ、さらにプレーの幅を広げ続けている。

 コート上で見ると3年生のような堂々とした振る舞いだが、まだ2年生。河村のプレー動画を見ながら研究しているという瀬川が、自身初となるウインターカップをさらなる飛躍の場にするはずだ。


平良宗龍(開志国際・2年)photo by Mikami Futoshi

 そして最後は、優勝候補の一角である開志国際(新潟)の平良宗龍(たいら・しゅうたつ/2年生)を紹介したい。昨年は1年生ながら主力メンバーのひとりとしてチームの初優勝に貢献。決勝戦では第2クォーターに4本の3ポイントシュートを沈めるなど、優勝への勢いを加速させた逸材だ。

 その得点力の高さから、今夏のインターハイまではシューティングガードを務めていた。今冬のウインターカップでも、基本的にはそのポジションでの出場になるだろう。

 しかし将来的なことを考えると、得点力の高いポイントガードとしてコンバートも十分に考えられる。男子日本代表での経験をきっかけに得点にもフォーカスし始めた河村がそうであるように、現在の日本を代表するポイントガードに得点力は欠かせない。

 実際、U18日清食品リーグでは、平良がポイントガードでプレーするシーンもあった。ウインターカップでの「ネクスト河村」を見出そうとすれば、シューティングガードの平良もそのラインナップに入っていい。

 今年の1月〜4月、平良は特別指定選手として地元・琉球ゴールデンキングスに加入し、Bリーグの試合にも出場した。彼もまた、進化の真っただ中にあるプレーヤーだ。

 今回紹介した4人は、高校時代の河村がそうであったように、飽くなき向上心を持ってバスケットボールに取り組んでいる。ウインターカップはその成果を披露する舞台であるとともに、世界へとつながる登竜門のひとつだ。

 彼らがいつか日本を代表する選手になった時、2023年のウインターカップで「こんなプレーをしていた」と思い出されるプレーに期待したい。それを求めることのできる選手たちである。