伊東純也がどんどんうまくなっている要因を風間八宏が分析「必ず仕事をする」「珍しい例」
独自の技術論で、サッカー界に大きな影響を与えている風間八宏氏が、今季の欧州サッカーシーンで飛躍している選手のプレーを分析。今回は、フランスで奮闘、30歳を過ぎてますますうまくなっている感のある伊東純也を取り上げる。ここ最近の進化の要因はどこにあるのか?
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【フランス移籍後の変化】「とにかく、速い。競走させたら、ほとんど無敵だと思います。とくに10mくらいのスペースがあれば、それだけで違いを生み出せてしまう選手ですね」
昨年6月、独自の視点を持つ風間八宏氏は、伊東純也の特長についてそのように解説してくれた。当時の伊東は、ベルギーのゲンクに所属し、カタールW杯アジア最終予選では4試合連続ゴールを記録するなど、日本代表の救世主としてスポットライトを浴びていた。わずか1年半前の話である。
伊東純也のハイパフォーマンスの要因を風間八宏が分析した photo by AFLO
その後、伊東は昨夏にフランスのスタッド・ランスに完全移籍。すると、加入初年度から不動のレギュラーとして活躍し、2年目の今シーズンもチームの中心選手として昨シーズン以上のパフォーマンスを披露する。
同時に、今年3月に始動した第2次森保ジャパンにおいても、得点とアシストを量産。これまで以上に、日本代表では欠くことのできないアタッカーへと進化した印象だ。
果たして、風間氏は現在の伊東をどのように見ているのか。改めて話をうかがうと、風間氏が最初に指摘してくれたのが、伊東の"変化"についてだった。
「昨年にお話しした頃の伊東の武器は、何と言っても走るスピード。とくに縦への速さで違いを生み出せる選手で、だからこそボールを体から離してドリブルすることで相手とのスピード競争に勝ち、そこで違いを生み出していました。
もちろん、それ以外の部分にもクオリティの高さはありましたが、やはり伊東の最大の武器は、走る時のスピードに集約されていたと言っていいでしょう。
しかし、現在の伊東は明らかに違います。以前と比べて相手と競争するシーンが減っています。しかしそれは、スピードが落ちたからではなく、それ以外のプレーのクオリティが格段にアップしたからだと思います」
【プレーの正確性が進化している】このわずかな期間のなかで、伊東はどのような変化を遂げているのか。風間氏が、具体的に解説してくれた。
「まず目につくのは、速さや強さに頼った強引なプレーがほとんどないということ。
ひとつひとつのプレーで無駄に力を入れず、つまり良い意味で力が抜けた状態でプレーできている。シュートやクロスを見るとよくわかりますが、ボールをしっかり自分のコントロール下に置いてプレーができているので、以前と比べると"運ぶ"と"止める"がはっきりしてきました。その中間がなくなったので、どちらも正確性が高まっています。
ボールを止める時にミスをして相手に奪われてしまうシーンが減っていますし、ボールを運ぶ時も、体から離しても近くに置いても、正確に運べるようになっています。
速さとは正確性ですから、現在の伊東は走るスピードだけでなく、ボールを扱うプレー自体のスピードも上がったということです。時間をつくれる選手になったのも、そういったプレーの正確性が進化したからだと思います。
もうひとつは、ポジションの取り方です。余っている時は得意の右サイドで張った状態でボールをもらいますが、中央や逆サイドに動きながらフリーな状態をつくることもできています。
それは、相手に捕まらない場所がわかるようになったから。相手が見えるようになったということです。相手に捕まらないから、無理して競争する必要がなくなったというわけです」
スタッド・ランスに移籍してからの伊東は、確かにプレースタイルが変化した。加入当初こそ右サイドを主戦場とするスピードスターだったが、ウィル・スティル現監督が指揮を執るようになったカタールW杯前の時期から次第に変化し、中央や左サイドにも顔を出し、攻撃の中心核として機能する選手になっている。
たとえば、今年10月13日の日本対カナダ戦で田中碧の得点をアシストした時の絶妙なボールコントロールと浮き球のパスは、以前には見られなかった発想と技術だった。
【見えるものが増えた影響】では、なぜ伊東はこれほど短期間でこのような変化を見せることができたのか。
「おそらくそれは、見えるものが増えたからだと思います。選手は見えるものが増えると、発想も増えてくる。そうすると、その発想を実現するための技術を見つけようとする欲求も高まるので、自ずと技術も上がり、プレーの種類も増えてくる。
技術が上がってプレーの種類が増えると、また見えるものも増える。その繰り返しによって、選手は変化することができるわけです。そうやって選手として変化できるのも、才能だと思いますね。
実際、現在の伊東は所属チームでも代表でも、必ず仕事をする選手になりました。何をすれば相手が嫌がるのか、どうしたら相手をやっつけられるのか、それが見えるようになったのでしょう。
たとえば、戻るべき時には自分のポジションに戻りますが、自由に動いて相手を崩すためのポジションを取ることもできる。しかもそれが自然にできる。だからチャンスをつくる選手から、試合を動かし、決める選手になったのだと思います」
伊東は現在30歳。決して若くはないが、この年齢でも選手として進化できることを証明したと言っていい。しかもまだその進化は止まらず、伸びしろさえ感じさせる。
「以前の日本だと、速さや身体能力を武器にする選手は変化しないのが一般的でした。それを考えると、伊東のようにスピードと身体能力が高い日本人選手が変化したことは、あらためて珍しい例だと感じます。
そういう意味では、まだ今後も変化を見せてくれそうですし、もっと上のクラブに移籍しても不思議ではありませんね。スタメンでも活躍できて、しかも途中出場で試合の流れを変えることもできる。監督にとってこれほど使いやすい選手はいませんから」
現在フランスで伊東の名前を知らないサッカー関係者はいない。それほど傑出した活躍を見せる選手だけに、フランス以外も含め、まだステップアップ移籍を果たす可能性は十分にありそうだ。
風間八宏
かざま・やひろ/1961年10月16日生まれ。静岡県出身。清水市立商業(当時)、筑波大学と進み、ドイツで5シーズンプレーしたのち、帰国後はマツダSC(サンフレッチェ広島の前身)に入り、Jリーグでは1994年サントリーシリーズの優勝に中心選手として貢献した。引退後は桐蔭横浜大学、筑波大学、川崎フロンターレ、名古屋グランパスの監督を歴任。各チームで技術力にあふれたサッカーを展開する。現在はセレッソ大阪アカデミーの技術委員長を務めつつ、全国でサッカー選手、サッカーコーチを指導。来季は関東1部の南葛SCの監督兼テクニカルディレクターに就任する。