久保建英の日本代表戦をスペインの名指導者が回顧「リーダーになるべき選手だ」
ミケル・エチャリが振り返る久保建英の2023(後編)
「タケ(久保建英)のプレーにはディテールがある。それは過去・現在の優秀な選手たちと共通している」
スペインの目利き、ミケル・エチャリはそう説明している。
エチャリは、『Sportiva』で2009年から日本代表の分析を定点的に続けてきた。ロンドン五輪、リオ五輪、東京五輪などもスカウティングの対象にし、日本人選手の特性を把握。2010年南アフリカW杯ではアンカー採用の提案が当たったし、2014年ブラジルW杯の「前がかりになりすぎている」という警鐘も的を射ていた。さらに2018年ロシアW杯の「長谷部誠を中心とした人材のバランスのよさで躍進する」という予測も慧眼だった。
「タケは日本代表でも、リーダーになるべき選手だ」
そのエチャリの言葉には説得力がある。
「何度も言うが、タケはディテールに優れている。たとえば9月に行なわれたドイツ戦の3点目は、タケのラストパスを浅野拓磨が押し込んだ。相手のミスで簡単に決まったゴールのように見えるだろう。しかし、まったくそうではない。ミスを誘ってボールを奪えたのは事実だが、その後のドリブルのコース取りは相手を前に入らせないものだったし、何よりGKに近づいた時、4回は首を振っている。相手GKを牽制し、判断ができないように仕向けていた。その細部によって、"簡単"に映るのだ」
レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)だけでなく、代表でも中心的存在になりつつある久保の今を、エチャリが細部まで解析した。
シリア戦では先制ゴールを決めるなど日本代表を牽引した久保建英 photo by Yasser Bakhsh/Getty Images
「サッカーは細部に宿る。そこを疎かにしては、相手を上回るプレーは難しい」
エチャリはそう言って過去の伝説的選手たちと比較し、久保のプレーを解説した。
「プレーを観察する習慣は、選手のベースと言えるだろう。首を振って状況を確認するプレーは、ジョゼップ・グアルディオラ、シャビ・アロンソ、セルヒオ・ブスケッツ、そしてマルティン・スビメンディなどに共通している。今、挙げた名前は中盤のプレーメーカーばかりだが、どのポジションでも必要な要素である。なぜなら、たくさん観察し、多くの情報を入れ、それを迅速に精査し、ベターな選択、判断をする、ということを繰り返すことは、サッカー選手の基本だからだ。
【ディテールが示す平凡な選手との差】
それをもとにして、相手の裏をかける。
タケはディテールを身につけているからこそ、すでに多くのデータを蓄積している。おかげで、たとえ抑え込まれても、プレーをキャンセルして別の選択もできる。それは何気ない違いかもしれないが、その細部でトップレベルでは周りと差がつくのだ」
エチャリは、久保の左利きとしてのディテールにも着目していた。
「バスクでは、"そこそこ"うまい右利きよりもやや下手くそな左利きにポジションを与える傾向がある。それだけ、左利き選手はリズムが違い、差を出せるし、貴重な存在だからだ。ただし、左利きには左足でしかキックができない、という歪で偏った傾向がある。それはひとつの特徴だろうが、右足も蹴れることによって、現代のサッカーでは選択肢が増える。
その点、タケが右足も使えるのはプラスアルファだ。
彼が左足を得意とするのは間違いないが、右足のコントロールやキックにストレスを感じさせない。これは相手にとってはプレーが読めず、悩ましいことだろう。私がラ・レアルのセカンドチームを率いた時代、(フランシスコ・)デ・ペドロがレフティとして頭角を現すようになったが、彼も右足が使えたおかげで、スペイン代表に入るなど、長くトップレベルで活躍できた」
エチャリは20年近く、ラ・レアルでさまざまな職務を歴任してきた。レフティを重んじるクラブで、現在のチームもミケル・オヤルサバル、ミケル・メリーノ、ブライス・メンデス、アイエン・ムニョスなど左利きは少なくない。それは伝統と言える。
エチャリ自身もかつて小柄な左利きのドリブラーで、その特性を理解している。
「私は現役時代、小さな体だが、俊敏さと強気では誰にも負けず、ドリブルでマーカーをきりきり舞いさせる選手だった。それで仲間には『タケに似ている』なんてからかわれる(笑)。しかし実際のところ、タケはドリブルだけでなく、タイミングを変えられる選手だし、キックの質も極上で、自分とは比べ物にならないくらいに多彩な選手だよ。
タケはこれからも、さらに進化を遂げるだろう。サイドだけでなく、4−2−3−1のトップ下のようなポジションでも十分に真価を発揮できる。実際に、日本代表のトルコ戦やシリア戦ではその資質を十分に示している。伊東純也、堂安律などサイドアタッカーとの相性も悪くない。今さら私が言うことでもないが、彼はチームに戦いのオプションを与えられる重要な選手だ」
そして最後に、エチャリはあらためて久保についてのディテールを強調している。
「タケは脚力があって、お尻の使い方もうまく、下半身だけで相手との間合いに勝っている。たとえばドイツ戦の4点目のクロスに至るプレーもそうだろう。そのディテールが、トップ選手と平凡な選手の差だ。過去で言えば、香川真司、本田圭佑などと同じエクストラなレベルにある代表選手であり、将来的には彼らをはるかに凌ぐ可能性もある実力の持ち主だろう」
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ミケル・エチャリ
1946年生まれ。サンセバスチャン出身のスペイン・バスク人指導者。選手としては膝のケガにより27歳で引退し、その後は指導者に転身した。レアル・ソシエダでは20年以上にわたり強化ディレクター、育成ディレクター、セカンドチーム監督などを歴任。エチェベリア、デ・ペドロ、シャビ・アロンソなど有数の選手に影響を与えた。エイバルでは監督を務め、バスク代表監督(FIFA非公認だが、バスク最高の指導者に与えられる栄誉職)も10年以上務めている。また、指導者養成学校の教授も務め、教え子にフアン・マヌエル・リージョ(元ヴィッセル神戸監督)やハゴバ・アラサテ(オサスナ監督)などがいる。