コンサルタントには、共通パターンを探り、目的や意味、本質を考える「抽象化スキル」が必要となる(写真:jessie/PIXTA)

コンサルタントは何らかの指示をされたとき(依頼を受けた際もそうだ)、「そもそも」「もともと」といった言葉を使い、上位概念を探ろうとするクセがある。

例えばお客様から、

「新規事業を開発したいと思っているので、アイデアをもらえませんか?」

と依頼されたら、

(もともと、この会社は既存事業に力を入れていたはず。なぜ今になって新規事業を開発したいと言いはじめたのか?)

と、その目的や真意を探る。

また、上司から、

「この業界分析をしておいて」

と指示されたら、

(そもそも、なんでこの業界の分析をしなくちゃいけないのか?)

(業界分析する理由は何なのか? 部長の本音は何だろう?)

と推察する。このようなときに発揮される能力を、「抽象化スキル」と呼ぶ。

抽象化スキルがない人が抱える3つの問題

抽象化するクセがない人は、具体的な指示や依頼に対してストレートに反応する。

「何のために業界分析をするんですか?」と反射的に口にしてしまったり、

さらには、

「どうして業界分析なんてしなくちゃいけないんですか。意味がわかりません」

と直情的に反抗してしまったりするだろう。

誰だって説明のないまま仕事を依頼されたら、やる気は起こらないと思うし、依頼者が説明してくれたっていい。しかし、目的を丁寧に伝えて仕事を依頼する人は多くない。お客様も同様で、何が目的で頼んでいるか、本人がわかっていないこともある。

そんなときに、「意味がわからない」と反射的に答えるのではなく、抽象化スキルを身につけることで一目置かれる存在になるかもしれない。

抽象化スキルが低いと3つの問題を抱える。

1、やらされ感を覚える
2、仕事の質が落ちる
3、評価されない

誰だって意味のわからない仕事を依頼されたら、やる気は起こらないだろう。突然上司から呼び出されて、

「この業界データをチェックして、分析してくれ」

と言われたら、

「何のために?」

と聞きたくなる。何らかの理由があるのかもしれないが、それが伝わらないと「やらされ感」を覚える。仕事に集中できず、やる気も出ない。

目的が不明なら、当然仕事の質は落ちる。質の低い仕事をすれば上司からは、

「誰がこんな分析しろと言った?」

「わかってないなぁ」

と苦言を呈されるだろう。評価もされなくなる。お客様はそんな風に指摘しないだろうが、期待通りにやってくれないと、

「この人は、わかってない」

と烙印を押されるはずだ。

目的や真意をキチンと教えてくれる人は少ない

先ほどもお伝えしたとおり、仕事を依頼した本人が、目的をわかりやすく解説してくれるのがベストである。

しかし、丁寧に目的まで添えて仕事を依頼する人は少ない。お客様も同様だ。何が目的で頼んでいるか、本人がわかっていないことさえある。

だから依頼された側が、その仕事の目的を推察するのだ。そのために使えるのが抽象化スキルである。

抽象化スキルとは、具体的な詳細から、より上位の概念を推察することだ。「葉っぱ」や「枝」といった部分を見て樹全体をイメージすることに似ている。

この抽象化スキルを使うことで、複雑な問題をよりシンプルで理解しやすい形に整理できる。

私の息子の話をしよう。

息子が幼いころ、いろいろな映画を観せたが、最も気に入っていたのは『ジュラシック・パーク』と『ジョーズ』だった。『スター・ウォーズ』や『アイアンマン』などはそれほど夢中にならなかった。

ティラノサウルスやホホジロザメを好んで絵に描いた。妻は「狂暴で強いのが好きなのだろうか」と驚いていた。

小学校に入ると車に夢中になった。とくに気に入っていたのはメルセデス・ベンツだ。しかもSクラスやマイバッハといった大きな車が好きだった。フェラーリやポルシェといったスポーツカーには、まったく興味を示さなかった。

サッカーをやるようになってからは、ヨーロッパサッカーにはまり、クリスチアーノ・ロナウドの大ファンになった。リオネル・メッシよりも、攻撃的で強そうだからだろうか。

イーロン・マスクが好きなのも、荒々しくて強いイメージがあるからかもしれない。

このように抽象化スキルがあると、一見異なるように見える物事からも、共通のパターンを見つけ出すことができる。

「意味がわからん」

「理由を教えてほしい」

と思う前に、仕事の依頼を受けた際、意識してトレーニングしてみよう。

抽象化スキルを上げる3つのステップ

抽象化スキルを上げるために必要なステップは3つだ。

1、その人の立場に立つこと
2、背景情報を集めること
3、推察すること

まず第一に、相手の視点で物事を見ることからはじめよう。客観的視点が欠けていたら抽象化しようがない。

自分を捨て、相手の世界観を想像してみることだ。過去の経歴、親しい人、大切にしている価値観、愛読書、尊敬している人……。こういった情報を日ごろから集めておく。

背景情報はドンドン古くなるので、つねにアップデートすることも心がけよう。新旧の情報を集め、多面的に推察すれば、見えてくるものはあるはずだ。

・部長は2年ほど前まで、周りから出世頭と言われていた
・今年本部長になると思っていたが、そうなっていない
・最近そのような噂をめっきり聞かなくなった
・他部署の若い課長と交流しているようだ
・今年からSNSでの情報発信に挑戦していると聞いた

このような背景情報を加味したうえで、

「この業界分析をしておいて」

と依頼された仕事を見つめ直してみる。

「なんで私がこの分析をやらなくちゃいけないんだ? 意味がわからない」

と感情的になるのではなく、

「また分析作業を依頼された。最近、業界分析を依頼されることが多い」

「先日の会議では新商品の企画について話題にしていたようだ」

まるで探偵のように、相手の真意を理解しようとするのだ。周囲の噂、本人の言動、依頼内容などから、どんな共通項が見出せるのか? 抽象化するのである。

「ひょっとして、新しい事業を起ち上げようとしているのではないか?」

このように「アタリ」をつければ、新しく見えてくるものがあるはずだ。

「若い課長と意見交換したり、SNSをはじめたことに関係があるのでは?」

「やはり、まだ出世を諦めていないのでは?」

相手の立場になって、依頼された仕事の目的を推し量ることができたら確認してみよう。

「先日の会議で話題にあがった新商品が売れるかどうか。そのための業界分析ですよね」

「まあ、そうだな。それもある」

相手が認めたら、さらに突っ込んだ質問をしてもいいかもしれない。

「部長が出世するためには、年間5億以上の売り上げを作りたいですね」

「おいおい。誰もそんなこと言ってないだろ」

まんざらでもなさそうな表情をしたら図星だ。

日ごろから抽象化スキルを鍛えよう!

抽象化スキルを身につけることで、複雑なことをシンプルに考えられるようになる。

「どうして私がやらなければいけないのか?」

という感情を持たずに、

「おそらく、こういう裏があるに違いない」

とシンプルに理解できるようになる。

どんなシチュエーションにおいても、この抽象化スキルは活かせる。ある事象そのものを見るのではなく、抽象化して上位概念に思いを馳せるだけだ。例えば、

・フォンダンショコラ

・豚骨ラーメン

・フォアグラ

が好き、と誰かが言えば、

「こってりした食べ物が好きなんですね」

と好みを当ててみよう。いったん抽象化することで、転用/応用ができる。

「今度、味噌カツでも食べにいきましょうか?」

と具体的な提案もできるだろう。だから上司やお客様から指示、依頼をされたときは、

「意味がわからない」

と不平を口にするのではなく、抽象化スキル向上のチャンスだと受け止めてほしい。その都度、共通パターンを探り、目的や意味、本質を考えるクセをつけるのだ。

(横山 信弘 : 経営コラムニスト)