久保建英の移籍報道が過熱する理由 ただしソシエダ→マドリードには数々の失敗例も
10月29日、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)はラージョ・バジェカーノの本拠地に乗り込み、終盤に追いつかれる形で2−2と引き分けている。
久保建英は、先発で80分までプレーした。65分には、右サイドをブライス・メンデスとのワンツーで抜け出すと、そのクロスが対峙した相手ディフェンスのハンドを誘い、PKを獲得。これをミケル・オヤルサバルが決め、一時は逆転に成功した。
この日、スペイン大手スポーツ紙『アス』『マルカ』ともに久保には二つ星を与えている(0〜3の4段階評価)。2得点でゲームMVPだったオヤルサバルに次ぐ高評価。CKから味方の際どいシュートをアシストし、自陣からのカウンターで脅威を与え、左足でゴールを急襲するボレーも放った。PK獲得だけでなく、要所でのプレーは瞠目に値した。
ただ、チームはアディショナルタイムに追いつかれ、ラ・リーガの神髄を思い知らされている。
「常勝を求められるビッグクラブの難しさは、欧州カップ戦で華々しく火花を散らして消耗した後、国内で互角の勝負を挑んでくるオサスナやラージョのようなチームとの敵地戦を勝ちきらないといけないところにある。相手を見くびるわけではないが、心身のバランスをとるのは簡単ではない」
ジョゼップ・グアルディオラの言葉である。
久保はこうした経験を積むことで、さらに化けるのだろう。
ラージョ・バジェカーノ戦に先発、後半35分までプレーした久保建英(レアル・ソシエダ)photo by Nakashima Daisuke
最近、その久保の周囲がやけに騒がしい。
「名門マンチェスター・ユナイテッドが、来年1月に久保を獲得?」「レアル・マドリードが買い戻しを決定か!」「移籍決定は秒読みで、ラ・レアルは久保の後釜探しに奔走」「アーセナルも参戦。ビッグクラブのスカウトが集結?」......。
そんな情報が日々、メディアを賑わしている。レアル・マドリードのイングランド代表ジュード・ベリンガムを抑えて9月の月間MVPを受賞するなど、久保に注目が集まるのは当然だろう。しかし、久保本人がチャンピオンズリーグ(CL)に全力を投じている現在、来年1月のマンU移籍などは考えられない。噂の域を出ない話ばかりだ。
【成功例はシャビ・アロンソ】
各クラブにはスカウトに殉じる関係者が数多くいる。そこに代理人も暗躍するだけに(直接の代理人だけでなく、代理人に近づく代理人もいる)、噂はリークも含めて、無限に噴き出す。そもそもスカウトはシーズン中も常に人材を物色するのが仕事で、補強選手のリストを日々更新している。ただし、ほとんどは契約に直結しない。
久保移籍の話題を提供しているのはマドリードの専門サイトが中心で、現状、大手メディアは移籍報道にそこまで積極的ではないのが現状だ。
久保の契約状況について言えば、ラ・レアルと2027年6月末までの期間になっている。移籍違約金は6000万ユーロ(約96億円)に設定。ビッグクラブにとっては手の届かない金額ではない。しかも古巣レアル・マドリードはその移籍金の半分を譲渡される契約。つまり彼らは"たった"3000万ユーロで獲得が可能で、それが噂の絶えない理由になっている。
「久保がこの活躍を続ければ、いつかは出て行くだろう」
現地で取材した折、ラ・レアルのレジェンドと言われる元選手やクラブ関係者も、そう洩らしていたほどだ。しかし現在の久保は、グループリーグ首位のCLに集中している。ラ・レアルという理想に近いクラブを、ようやく見つけた。地力を蓄えるのがベストだろう。
過去10年、若くしてラ・レアルでブレイクし、レアル・マドリードに移籍した選手は少なくない。アシエル・イジャラメンディ、アルバロ・オドリオソラ、マルティン・ウーデゴール。彼らはすばらしいシーズンを送った後、マドリードに新天地を求めたが、いずれも本領を発揮することはできなかった。1シーズン程度の活躍では、レアル・マドリードで安定的に力を出すことはできなかったのだ。
一方、シャビ・アロンソはラ・レアルで3シーズン主力を務め、ラ・リーガ2位、CLベスト16という結果を残し、リバプールを経由した後、レアル・マドリード移籍で華々しい活躍を遂げた。当時のプレミアリーグはスペイン、イタリアに追いついてきた程度で、今のように世界最高峰のリーグではなかった。彼はひとつひとつ、階段を上ったのだ。
【「先発確約」など絵に描いた餅】
ベリンガムも、ドルトムントで3シーズンを主力としてプレーした後、レアル・マドリードで開花しつつある。「3シーズン」はひとつの基準になるのかもしれない。
その意味では少なくとも2024−25シーズンまで、久保はラ・レアルでプレーすべきではないか。市場価値を最大限に上げ、実力を底上げするべきで、去就が問われるのは、その時だ。
「タケが残りたいと思うクラブかどうか」
ラ・レアルのジョアキン・アペリバイ会長も発言しているように、今はラ・レアルが久保を必要とし、久保がラ・レアルを必要とする"均衡"が保たれている。
また、レアル・マドリードが来季の監督も決定していないなかで(現在のカルロ・アンチェロッティ監督はブラジル代表監督就任が有力視されている)、「先発を確約」など絵に描いた餅でしかない。そもそもレアル・マドリードというクラブに「ポジションを与える」という甘さはない。世界に冠たるクラブでは、ポジションはどんなスターであっても自らつかみ取るものだ。
さらに、「EU外選手枠3人がハードル」という話も聞こえるが、レアル・マドリードは本気でエース候補を迎え入れる場合、どんな手も使う。もし「ハードル」と語られているとしたら、評価が十分に高まっていない証拠だろう。
個人的には、久保がレアル・マドリードに戻る条件のひとつは、かつてラ・レアルに在籍し、若き名将として注目される先述のシャビ・アロンソ(現在はレバークーゼンの監督だが、契約解除条項がある)が監督として戻ってきた時だと考えるが......。
いずれにせよ、これからも久保の移籍報道は過熱するだろう。しかし当面、久保はラ・レアルでのプレーを楽しみ、研鑽を積むべきだ。