絶対に負けられない一戦を、チーム一丸「ONE TEAM」となって制した。

 9月29日、ラグビーワールドカップに出場している日本代表(世界ランキング13位)は予選プール3試合目、フランス・トゥールーズでサモア代表(同12位)と激突した。サモアと1勝1敗(勝ち点5)で並ぶなか、日本は負けたら予選プール敗退危機どころか、次回大会の出場権も失うかもしれない大一番──。

 しかし日本は、序盤から試合を巧みにコントロールした。前半はトライとペナルティゴールでじりじりと得点を積み重ね、後半は的確な選手交代でサモアの反撃の芽を摘み、最終的に28-22で逃げ切って勝利を手にした。


POMを受賞したのは4年前に続いてレメキ

「本当にタフなゲームだったので、勝ててホッとしました。このチームを誇りに思う。チームのみんなで勝ち取った勝利です!」

 得意のジャッカルでサモアの勢いを奪ったキャプテン、No.8姫野和樹は笑顔を見せる。

※ポジションの略称=HO(フッカー)、PR(プロップ)、LO(ロック)、FL(フランカー)、No.8(ナンバーエイト)、SH(スクラムハーフ)、SO(スタンドオフ)、CTB(センター)、WTB(ウイング)、FB(フルバック)

「サモアは大きくてフィジカルが強く、まさに"腕相撲"のような試合だった。本当にハードだったが、勝ったことで自分たちにも(ベスト8進出の)チャンスが残されているので、非常にワクワクしている」

 今大会かぎりで勇退が決まっているジェイミー・ジョセフHC(ヘッドコーチ)は、試合内容に納得した表情を浮かべた。

 2015年には26-5、2019年には38-19と、ワールドカップ過去2大会はいずれも日本がサモアに勝っている。しかし、今年7月に札幌で行なわれたテストマッチでは、22-24で逆転負けを喫していた。

 さらにワールドラグビーのルール変更により、元オールブラックス(ニュージーランド代表)や元ワラビーズ(オーストラリア代表)だった選手がサモア代表メンバーに加入。7月の対戦時から12人も入れ替わるなど、大幅に戦力を補強してワールドカップに臨んできた。

 選手層が厚くなったことで、サモアはFW、BKともに平均体重で6kgほど日本を上回った。FLリーチ マイケルが「今大会はサモア代表が一番怖い」と警戒したのもうなずける。

【4年前のW杯サモア戦でもレメキは圧倒的な存在感】

 しかもサモア戦の2日前、副キャプテンのSH流大が右ふくらはぎを痛めてしまった。控えだったSH齋藤直人が先発に上がり、ノンキャップのSH福田健太が控えに入るというスクランブル態勢のなか、試合を迎えることになった。

 ただ、イングランド戦から中10日、モナコで2日間のオフを取った日本は、試合序盤から落ち着いていた。イングランド戦は12-34で負けたものの、スクラムやディフェンスで優勝候補相手に手応えを掴んだのも大きかった。

「蹴るところに蹴って、勝負するところで勝負し、無理に攻めず9番・10番中心にバランスよく攻められた」(リーチ)

 9番のSH齋藤と10番のSO松田力也、そして15番を背負ったFBレメキ ロマノ ラヴァのハイパントキックが効果を発揮し、日本は試合の主導権を握ることに成功した。

 前半13分、安定したスクラムから左サイドに展開すると、レメキが力強いランからゲインしてゴール前へ。最後は齋藤のパスを受けたFLピーター・ラブスカフニが左中間にトライし、松田のゴールも決まって先制。前半32分にも再びスクラムを起点に大きく左へ展開し、最後はリーチが滑りこみながらトライを挙げてリードを広げた。

 後半7分、サモアの選手が危険なタックルで一発退場となった直後にもチャンスが訪れる。日本はモールを押し込んで姫野がトライを奪うと、後半16分にも松田がPGを決めてサモアを引き離した。

 試合終盤20分はオフロードパスをつなぐサモアの攻撃で2トライを献上するも、最終的に28-22でノーサイド。4トライ以上のボーナスポイントを得ることはできなかったが、2勝目を掴み取って決勝トーナメント進出に望みをつないだ。

 この日のPOM(プレイヤーオブザマッチ)に選ばれたのは、4年前のサモア戦に続いて再びレメキ。

「トライが取りたかったけど......常にボールを持ったら前に行けたし、キツい時でもちゃんとプレッシャーをかけることができた。プランどおり、うまく成功した! POMトロフィーは子どもにあげます!」

【日本代表チームが大事にしている「TPD」という言葉】

 チーム内MVP「ソード賞」に輝いたのは、先発SHの役目をしっかりと果たした齋藤。

「自分に何を求められているのか、そこをはっきりさせて準備してきたので、そこまで動揺することもなく試合に入れたかな。『(ケガで先発の座を託された流から)チームを勝たせてこい』と言われました。(勝利して)もうすごくうれしいのと、少し安心しています」

 プレースキックを担当した松田は、3試合目にして初めて1本外してしまったが、今大会は16本中15本を決めて成功率93.8%。「切り替えて1本ずつ集中してやるだけ。自分のキックを信じてやり続けていきたい」と前を向いた。

 もちろん、反省も忘れていない。試合後のコメントで「ぬるい部分があった」(WTB松島幸太朗)「ムラがあった」(姫野)と語られたように、4トライ以上のボーナスポイントを挙げられなかったことは次戦に生かしたい。

 日本代表が大事にしているキーワードのひとつに、「TPD」という言葉がある。「TEAM FIRST(チームファースト)」「PREPARATION(準備)」「DO YOUR JOB(自分の役割を果たす)」の頭文字だ。まさしく今回のサモア戦の勝利は、FWとBKが「TPD」を成し遂げた結果だ。

 勝ち点9として予選Dプール2位となった日本は、10月8日のアルゼンチン戦にどんな形でも勝利すれば、アウェーの地で初のワールドカップ・ベスト8進出となる。

 ジョセフHCの初陣となった2016年11月、日本はアルゼンチンに20-54で大敗した。あれから7年──。ジェイミージャパンの集大成として、白星を掴み取って新たな歴史を築いてほしい。