会見をおこなう新社長・東山紀之、元社長・藤島ジュリー景子、井ノ原快彦

 ジャニーズ事務所の性加害問題を受け、所属タレントを広告などに起用していた企業が次々と契約の中止や見直しを表明している。東京商工リサーチによると、ジャニーズ事務所との取引がある企業は226社に上り、そのうち30社は上場企業だった。

 本誌は今回、ジャニーズタレントの起用見直しを9月14日時点で表明していた大手企業のうち、18社に対し、「ジャニー喜多川氏による長年の性加害を本当に知らなかったのか」について緊急アンケートをおこなった。

 そのなかで、一切の返答がなかったのが東洋紡、P&G、ティファニーの3社だ。

 オープンハウスについては、アンケートの趣旨を告げた段階で「個別の取引の内容については回答を控えている」と、受け取りを拒否されたため、18社のなかには数えていない。

 それ以外の15社からは、内容に濃淡はあれど回答を得ることができたが、予想どおり、「性加害の事実を知っていた」と回答した社はゼロだった。

 まず、性加害を本当に知らずにジャニーズタレントを起用していたのかという、スポンサー企業としてもっとも答えにくい質問に、真っ正面から向き合う誠実な回答を寄せたのは、日本生命だ。

「BBCにて報道されたあたりから、その疑義について報道されていることは認識しておりました」

「一部の報道については認識していたものの、事実の把握が困難であったことから当時の判断に至ったものです」

 そのうえで、「報道にあるような性加害に関する問題について、到底許される行為ではないと強く感じています。何よりも、被害者の方々に寄り添った対応が優先されるべきと考えております」と回答した。

 アサヒからも真摯な反省の弁が届いた。

「過去にさまざまな報道があったことは耳にしていましたが、それが事実であるかどうかを確認せず事実認定に至りませんでした」

「報道内容を精査した上で当社として確認すべきだったと感じています」

 また、サントリーからは、「8月29日の再発防止特別チームによる調査結果および9月7日のジャニーズ事務所の記者会見で事実を知りました」と、キリンからは「今年大きく報道されるまでは、詳細は把握しておりませんでした」との回答を得た。

 他にアフラックは「把握しておりませんでした」、東京海上日動も「昨今の報道や会見等までは、詳細には把握できておりませんでした」とした。

 対して、「回答を控えさせて頂きます」と回答を避けたのがカゴメとフマキラー。また、それ以外の明治、フマキラー、第一三共ヘルスケア、日産、丸亀製麺(トリドールホールディングス)、花王、日本マクドナルド、モスフードサービスの8社については、「本当に知らなかったのか」という質問には直接答えず、各社の今後の方針や倫理基準、ジャニーズ事務所への要望などを貼り付けた回答が届いた。

 また、アンケートでは、上記の回答を踏まえたうえで、今回、ジャニーズタレントの起用を見送る決定をした理由についても併せて尋ねた。こちらも、具体的な回答を寄せた社は少なく、一様に各社の “理念” を述べるだけの回答が集まった。

「今般の性加害の問題は絶対に許されるものではないと捉えております」(明治)

「性加害はもとより、いかなるハラスメントも容認いたしません」(日産)

「いかなる人権侵害も許容することはできません」(マクドナルド)

「いかなる性加害の問題も、私どもの人権方針の基本的な考え方に反します」(モスフードサービス)

 こうした企業の回答について、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」代表の平本淳也氏は、憤りを込めてこう話す。

「アンケートの回答を見ると、どの社も性加害問題を『知らなかった』とし、企業理念に反するから契約を見送ると言っています。でも、これまで週刊誌や暴露本で再三報じられてきたのに、各企業はなぜ調査しなかったのか。知り得るタイミングはいくらでもあったはずなのに、知ろうとしなかったのです。

 各企業は性加害の問題をスルーして、今までタレントを使い続けてきました。その責任は企業側にあると思います。『知りませんでした』で済むことではない。今までは知らなくても、今年に入りBBCが報じ、国連も動いた。それでも調査しようとした企業はありませんでした。

 それが、今回は “手の平返し” で、いっせいにジャニーズ所属タレントの起用を見送るという。

 私たちの会が『CMなどからの撤退を直ちに求めるものではない』と表明したのは、撤退する前に、まず企業みずからの責任を明らかにしてほしかったからです。臭いものに蓋をして、あとは知りませんという態度でいいのでしょうか」

 以下、本誌がおこなった質問と各企業の回答の抜粋を掲載する。

【質問】
(1)ジャニー喜多川氏の長年の性加害は、被害者の告発本や週刊誌により以前から報じられてきたが、把握していなかったか?
(2)もし把握していた場合、ジャニーズタレントをCM起用し続けた理由は何か。
(3)今回、ジャニーズタレント起用見送りを決定した理由は何か。
(4)性加害問題について、ジャニーズタレントを起用し続けた企業として、何らかの責任があると考えているか。

【サントリーホールディングス】

(1)再発防止特別チームによる調査結果の報告およびジャニーズ事務所の記者会見で事実を知った。
(3)当社は人権尊重の姿勢を打ち出しており、会見で公表された内容はそれに反する事案のため。ジャニーズ事務所に対して、ガバナンス体制の強化を含めた具体的な被害者の救済策や再発防止策を真摯に進めていくことを強く要望するため、9月11日に書面にて申し入れた。被害者の救済策や再発防止策が充分であるとの納得いく説明があるまでは、ジャニーズ事務所との新たな契約を結ばない。
(4)再発防止特別チームによる調査結果の報告及びジャニーズ事務所の記者会見で事実を知り、ジャニーズ事務所に対して、ガバナンス体制の強化を含めた具体的な被害者の救済策や再発防止策を真摯に進めていくことを強く要望するため、9月11日に書面にて申し入れた。

【キリンホールディングス】

(1)今年大きく報道されるまでは、詳細は把握していなかった。
(3)(4)被害者への悪影響の拡大を防ぐ意味から、すぐに取引関係をやめるということではなく、まずは影響力を行使し、被害者の救済・再発防止等を促していくことが大切。広告代理店を通じてこの点を求めた。9月7日の会見で性加害の事実を認め、被害者への救済や再発防止策の実行を表明したものの、具体策やスピード、当面のガバナンス体制では社会からの受け止められ方は十分とは言えない。具体策を公表・実行し、明確な人権方針と第三者から見て企業としてのガバナンスを発揮している状態になるまでは、契約しない方針。今後も、救済策・再発防止策の実行を求めていくことで、人権問題の解決に向け企業としての責任を果たしていきたい。

【日本生命保険】

(1)BBCにて報道されたあたりから認識。
(2)「セ・パ交流戦」のアンバサダーに当該事務所のタレントを起用したことは事実。BBCをはじめとした一部の報道については認識していたものの、事実の把握が困難であったことから当時の判断に至った。事実認定された後は、当該事務所所属のタレントを起用しない方針。
(3)性加害の事実認定がなされたことを受け、今後は当該事務所のタレントを起用しない。報道にあるような性加害に関する問題について、とうてい許される行為ではないと強く感じている。被害者に寄り添った対応が優先されるべき。
(4)事実の把握が困難だった状況においては、どのスポンサー企業もなんらかの責任を負う立場にはなかったのではないかと考えているが、事実認定されたことを受け、当該事務所のタレント起用方針について改めて検討が必要と考え、現在の方針に至る。

【カゴメ】

(1)回答は控える。
(3)人権の尊重を掲げており、性的加害をはじめ、いかなる種類のハラスメントも一切容認しない。調査報告書および記者会見の内容を検討した結果、本契約期間の満了をもって更新しない予定。
(4)回答は控える。

【アフラック生命保険】

(1)把握していない。
(3)(4)人権を尊重することは企業としての当然の責務。いかなる性加害もハラスメントも容認しないという企業姿勢を堅持している。ジャニーズ事務所元社長による性加害問題は重大な人権侵害かつ深刻な社会的問題であるとの認識であり、とうてい容認できるものではない。同事務所による会見や発表で示されている再発防止、被害者救済、組織のガバナンス強化策の内容は、抜本的改革を実施するには不十分なため、同事務所との契約を終了する方針。一方、同事務所の所属タレントに非があるものではなく、彼らの活躍の場が奪われることは遺憾。したがって、同事務所との契約を終了する方針であるものの、タレント個人との契約に変更するなど、さまざまな可能性を検討。

【東京海上日動火災保険】

(1)昨今の報道や会見等までは、詳細には把握できていなかった。
(3)個々のタレントの貢献には感謝。東京海上グループは、いかなる形態のハラスメントも認めていない。そうした取り組みへの理解と協力をお願いしており、本方針に則って判断している。当社の広告契約はジャニーズ事務所を介したものであり、今回はジャニーズ事務所との契約を更新しない。
(4)いかなる形態のハラスメントも認めていない。そうした取り組みへの理解と協力をお願いしている。

【アサヒグループホールディングス】

(1)過去にさまざまな報道があったことは耳にしたが、それが事実であるかどうかを確認せず事実認定に至らなかった。当社は人権侵害を当社が助長しないよう努めている。現状において、ジャニーズ事務所との取引を継続することは「アサヒグループ人権方針」に相反するもの。今後、ジャニーズ事務所のタレントを起用した広告や新たな販促は展開せず、現行の契約はそれらの満了をもって更新しない。

【丸亀製麺(トリドールホールディングス)】

(1)把握していない。
(3)ジャニー喜多川元社長による性加害は、当社グループで掲げている人権方針に反することであり、誠に遺憾。ジャニーズ事務所に対して、再発防止策の徹底と被害者への真摯な対応を求める。今後は、適切な対応が取られるまで見送る方針。今後も事務所の取り組み状況を注視。

【明治】

 当社は、人権の尊重を掲げており、今般の性加害の問題は絶対に許されるものではない。ジャニーズ事務所新体制における人権尊重への取り組みや、コンプライアンスとガバナンスの体制強化も含めた再発防止策、被害者への補償、救済に関し、真摯な対応を求める。対応状況を注視し適切であると判断できるまで、ジャニーズ事務所に関連する今後の広告を見送る。ジャニーズ事務所とは今後も対話を続ける。

【日本マクドナルド】

 当社は、いかなる人権侵害も許容することはしない。また、当社は、人権を尊重した行動をとることを求めた「サプライヤー行動規範」を制定しており、サプライヤーに対しても、当該基準の遵守を求めている。今後のジャニーズ事務所所属のタレントの起用について、現行の広告契約の期間が満了後、更新しない方針。ジャニーズ事務所には、人権を尊重した適切な行動を遵守していただけるよう要請した。

【第一三共ヘルスケア】

 弊社は、性加害はもとより、いかなるハラスメントも容認しない。ジャニーズ事務所に対し、再発防止策を講じることを直接申し入れていた。十分な対応が取られるまで、新たな契約や契約の更新を行なわない方針だが、記者会見以降、被害者救済委員会の設置や補償受付窓口の開設等、さまざまな対策が進められつつある。一日も早く、ガバナンス強化も含め、救済策と再発防止策が講じられ、所属タレントへの配慮についても引き続き強く求める。

【日産自動車】

 弊社が社内外に公表している「人権尊重に関する基本方針」に反し、非常に遺憾であり重く受け止めている。当面の間、所属タレントを起用した新たな販促物は展開しない。ジャニーズ事務所が行なう改革や再発防止の取り組みを確認した上で、弊社のマーケティング活動の方針について判断していく。

【花王】

 性加害の問題は、花王人権方針の基本的な考え方に反する。また、ジャニーズ事務所所属タレントを起用した広告等により、さまざまな印象を与えると考える。以上により、花王グループで現在展開しているジャニーズ事務所所属タレントを起用した広告・販促物等の展開は、可及的速やかに中止する。ジャニーズ事務所とのタレント契約は、今後、ジャニーズ事務所が行なう改革や再発防止の取り組みを確認したうえで判断する。

【モスフードサービス】

 いかなる性加害の問題も、私どもの人権方針の基本的な考え方に反する。今後、明確な被害者救済と再発防止の取り組みが認められない以上、ジャニーズ事務所との契約は継続しないことを本日決定した。現在展開中のジャニーズ事務所所属タレントを起用したCMや店頭広告などについてもできる限り速やかに変更する。

【フマキラー】

 ジャニーズ事務所の今後の具体的な対応も注視しながら、当該タレントの起用について現在社内で協議中。回答は差し控える。

 各企業は一様に、ジャニーズ事務所の対応は不十分だとみているようだ。一方、「ジャニーズ性加害問題当事者の会」は要請書を公開し、「(起用した企業が)直ちに事務所との取引停止を希望するものではない」との態度を示している。

「取引停止は、人権侵害それ自体を解消するものではなく、ステークホルダー(利害関係者)の監視の目が届きにくくなるうえ、企業の経営悪化によって従業員やタレントの地位が脅かされる可能性がある」とし、まずは対話と働きかけで改善すべきだと述べた。

 はたしてジャニーズ事務所は、会見で宣言した「解体的な出直し」を実現することができるのか。