大学生にとって、新学期はキャンパスツアー、ブランドグッズ、そしてラッシュ(大学の社交クラブへの勧誘)のシーズンだ。今年、ブランドは、#RushTok、AR没入型体験、カレッジフットボールのスター選手を起用したキャンペーンでこのアクションに参加した。

今年は、「#BamaRush」とタグ付けされたOOTD(今日の服装)の動画が7月からソーシャルメディアにあふれ始め、ソロリティ(女子学生友愛会)やフラタニティ(男子学生友愛会)の新入生募集シーズンが終了する8月末にひと段落した。そうした動画では、新入会員が頭からつま先まで身に着けているブランドをときには香水までをも含めて列挙している。ケンドラ・スコット(Kendra Scott)やラングラー(Wrangler)といったブランドは、専用のギフトやインフルエンサーとのパートナーシップを介して数年前から積極的に参加しており、トップ・オブ・マインドであり続けるためにシーズンごとに新たな戦略を駆使している。

アラバマ大学のラッシュ・シーズンを意味する#BamaRushは、2021年にTikTokで初めて人気を博し、ソロリティが新入会員にダンスを踊ったり、OOTDを披露したりするよう命じた動画がヒットした。HBOはこれを題材にしたドキュメンタリー『Bama Rush』を制作し、5月に公開している。TikTokでのそのハッシュタグは現在33億ビューとなっており、#RushTokは15億ビューだ。TikTokのコメントによると、ビュー数は年々伸びており、海外の視聴者までもが大学のこの募集プロセスに興味を持つようになっているという。

2021年以降、ケンドラ・スコット、ルルレモン(Lululemon)、ラングラー、カルティエ(Cartier)が#RushTokの動画でもっともフィーチャーされたブランドとなっている。ちなみに2023年、他のアスレジャー企業が苦戦するなかでさえも、ルルレモンの売上高は9月1日に発表された決算で18%上昇している。ケンドラ・スコットに関しては、#RushTokで言及されたものを自社のソーシャルプラットフォームで再投稿している。今年の#RushTokに関する18のTikTokの投稿のなかには、新入会員たちが自分の服装を見ながらブランド名を連呼するマッシュアップを紹介する動画がある。

ジュエリーブランドによるキャンパスツアー



今年、ケンドラ・スコットはこの現象に関連した3つのイベントを実施した。大学のキャンパスツアー、AR動画アクティベーション、そして慈善寄付だ。

「#RushTokによって、オーガニックでバイラルに広まり、特にTikTokでのソーシャルエンゲージメントに大きな影響があった」と、ケンドラ・スコットのブランドマーケティング・バイスプレジデントのエイミー・ハンナ氏は言う。「Z世代に人気のアイテムとして、当社のネックレス、エリサ(Elisa)が際立っていることに気づいた。キャンパスとオンラインという、消費者にとってもっとも重要な場で学生たちと関わる機会を得た。当社のキャンパスツアー『ヘイ、エリサ!(Hey, Elisa!)』は8月下旬にスタートした」。

1カ月間にわたって6つの大学で開催される「ヘイ、エリサ!」ツアーのイベントでは、参加者がアンケートに答えると、自分のスタイルにいちばん合ったエリサのペンダントを教えてもらえる。また、セルフィーを撮ったり、ネックレスの石の色にインスパイアされた特製アイスドリンクを味わったりすることもできる。エリサのシルエットをかたどった特注の凹面鏡や、エリサのキャラクターの等身大のカットアウトなど、インタラクティブでインスタ映えするセットアップも用意された。

Eメールやソーシャル上でクイズに参加した各校の先着250名の学生には、パーソナライズされた石のネックレスがその場で無料プレゼントされる。ブランドはまた、各校のカスタムカラーの特製スワッグもプレゼントしている。「どの市場でもオープン前から長蛇の列ができ、40分以内にネックレスが売り切れた」とハンナ氏は語った。

ARアクティベーションや慈善活動



マーケティング活動の第二弾はさらに革新的なもので、デジタルに詳しい若い大学生のオーディエンスに感銘を与える手段なのは間違いない。8月21日、同ブランドは、テキサス大学のスコティッシュライト寮でケンドラ・スコットのペンダントネックレス、エリサが巨大なサイズにふくらみ風に揺れている様子を映した拡張現実(AR)動画をソーシャルアカウントに投稿した。その寮を舞台に選んだのは建物が特徴的だったからだ。

この動画はインスタグラムとTikTokで170万ビュー以上を記録しているが、TikTokのコメント欄ではこの光景が本物かどうか疑問視する声が上がるなど、フェイクOOH広告の新たなトレンドを反映している。「ARは、注目を集めるさまざまなマーケティングキャンペーンにうまく利用されており、消費者がソーシャルメディア上でどのような反応を示すかをみてみたかった」とハンナ氏は述べている。

3つ目の要素は慈善活動で、ケンドラ・スコットは学生が就職の面接の際に身につけるジュエリーを250点ほど大学に寄付している。

ケンドラ・スコットは134店舗を展開し、今年はさらに6店舗をオープンする予定だ。同社の売上高は2020年以降10%台半ばで成長しており、今年はおよそ5億ドル(約730.8億円)に達する勢いだ。同ブランドは、新学期の売上が年間売上に占める割合については公表を避けた。

伝統的なマーケティング戦術を活用するラングラー



ほかのブランドは、大学の誇りやスポーツに基づいた伝統的なマーケティング戦術で大学生にリーチすることを選んでいる。コントール・ブランズ(Kontoor Brands)傘下のデニムブランド、ラングラーは、8月30日にデニムジャケット、シャツ、ジーンズで構成される第2弾カレッジコレクションを発表した。アラバマ大学、オハイオ州立大学、テネシー大学など70の大学がさまざまなスタイルでフィーチャーされており、#RushTokの動画にも登場している。

ラングラーのマーケティング・シニアディレクターであるジョン・ミーガー氏は、#RushTokのトレンドについて「当社のチームはかなり踏み込んでいて、会話に参加してリードできる場をチェックしている」語った。「トレンドのためにトレンドを追うのが目的ではなく、意味のある場所で行われている会話に参加することが重要だ」。

「当ブランドのカーゴパンツやリラックスフィットデニムのような、履き心地、耐久性、価値の高さで知られるスタイルは、TikTokで以前からトレンドになっているし、私たちのアイコンである『カウボーイカット』のジーンズスタイルは、キャンパスでも試合のある日でも定番になっている」とミーガー氏は言う。「ブリーチウォッシュはテキサス大学や他の主要大学で大流行している」。ミーガー氏は正確な販売数については明らかにしていない。8月2日、ラングラーブランドの第2四半期の売上高は4億2500万ドル(約621.2億円)で、前年同期比2%増となった。

ラングラーの大学マーケティングには、#RushTokの動画で人気があるピンクを着用したブロンドの人々ではなく、さまざまなスポーツの一流アスリートを起用している。2022年は、テキサスのクォーターバック、クイン・ユワーズ氏、ラインバッカーで現在はダラスカウボーイのデマーヴィオン・オーバーショーン氏、ネットボールのマディセン・スキナー氏、バレーボールのスター、アシア・オニール氏を起用した。2023年は、オハイオのスタータイトエンドでNFLの有望株であるケイド・ストーバー氏がアシア・オニールとパートナーを組む。

「ケイド(ストーバー氏)はオハイオ州の牧場で育ち、ラングラーの価値観である勤勉さや勇気、謙虚さを人生の指針としている。人々、特に若いオーディエンスは、正真正銘に信頼できる形で行っているのか、ただどこかにロゴをぽんと置いているだけなのかを嗅ぎわけることができる」とミーガー氏は述べた。

さらにラングラーでは、キャンパスアンバサダーや影響力のある卒業生に商品を配布し、有料とオーガニック双方のソーシャル投稿を活用している。同ブランドは、今回のコレクションのマーケティング予算については明言を避けた。昨年のカレッジコレクションはラングラーの店舗やOOH広告、大学キャンパス、そしてソーシャルで宣伝されている。

[原文:Glossy+ Fashion Briefing: As 2023 #RushTok comes to a close, brands break down their strategies]

ZOFIA ZWIEGLINSKA(翻訳:Maya Kishida 編集:山岸祐加子)