アメリカで100紙以上の日刊紙を発行する大手新聞社のガネットが、傘下の地方紙が掲載した「AIが執筆したスポーツ記事」に多数の問題点があるとSNSで批判されたことを受け、AIによるスポーツ記事執筆の実験を一時停止しました。

Columbus Dispatch pauses AI sports writing tool following viral story - Axios Columbus

https://www.axios.com/local/columbus/2023/08/28/dispatch-gannett-ai-newsroom-tool



Gannett to pause AI experiment after botched high school sports articles | CNN Business

https://edition.cnn.com/2023/08/30/tech/gannett-ai-experiment-paused/index.html

Gannett backtracks after readers ridicule AI-written sports recaps - The Washington Post

https://www.washingtonpost.com/nation/2023/08/31/gannett-ai-written-stories-high-school-sports/

近年はさまざまなニュースメディアが「テキスト生成AIによる記事執筆」をテストしていますが、記事作成時点では、これらのテストはさまざまな問題を浮き彫りにする結果となっています。大手メディアのCNETも2022年11月からAIによる金融解説記事を掲載し始めましたが、AI製の記事に多数の誤りが含まれていると指摘されたり、競合他社や系列サイトの記事と非常によく似た文章が含まれることが問題視されたりしています。

それでも、2023年7月にはIT系ニュースサイト・Gizmodoの親会社が、編集スタッフの反対を押し切ってAIによる記事生成を始めるなど、AIによる記事執筆に可能性を感じる経営者は多いようです。

ニュースサイトGizmodo運営会社がスタッフの反対を押し切りAIでの記事生成をスタート - GIGAZINE



そんな中、地域に密着したさまざまな新聞を発行するガネットも、スポーツ記事の執筆でAIによる記事執筆ツールを開発する人工知能企業・Lade AIをテストしていました。Lade AIは「スポーツの試合のスコア」から記事を生成することができるとうたっており、2023年8月には実際にガネットが発行する地方紙で、「高校スポーツの試合結果」の記事をLade AIが執筆したとのこと。

ところが、Lade AIが執筆するスポーツ記事は奇妙な言い回しを用いる特徴があり、それでいてスコアのみをソースにしているため試合内容や選手に関する詳細はありません。そのため、「AIが書いたこのスポーツ記事はひどい」とSNSで嘲笑の的となってしまいました。

SNSで特に話題となっているのが、ガネット傘下のコロンバス・ディスパッチに掲載された、ウェスターヴィル・ノース高校とウェスタービル・センター高校のフットボール試合の結果を報じた記事です。この記事ではフットボールの試合を、「close encounter of the athletic kind(運動競技的な近接遭遇)」と不思議な言い回しで表現しています。



また、ワージントン・クリスチャン高校とウェスターヴィル・ノース高校のサッカーの試合結果を報じた記事では、冒頭の高校名の後ろに「WINNING_TEAM_MASCOT(勝ったチームのマスコット)」「LOSING_TEAM_MASCOT(負けたチームのマスコット)」という文字列が入っており、明らかに人間の手が入っていないことが丸わかりです。



大手日刊紙のワシントン・ポストやCNNによると、Lade AIが生成した複数のスポーツ記事には「was in hibernation in the fourth quarter(チームは第4クォーターに冬眠状態だった)」「The Pilots avoided the brakes and shifted into victory gear(パイロットはブレーキを避け、勝利のギアを入れた)」「high school football action(高校のフットボールアクション)」「took victory away from(〜から勝利を奪い取った)」「cruise-control wins(勝利をクルーズコントールした)」など、独特の表現が頻繁にみられたとのこと。また、ゲームの日付がほんの数段落ごとに繰り返される傾向があったことも報じられています。

SNSでAI製記事が悪い意味で注目されたことを受けて、ガネットはすべての地方紙においてLade AIの実験を一時停止しました。オンラインメディアのAxiosの問い合せに対し、ガネットの広報担当者は「私たちは全国で数百人のレポーターを増やすだけでなく、自動化やAIを使って記者のためのツールを構築し、読者のためにコンテンツを追加する実験も行っています。私たちが提供するすべてのニュースや情報が最高のジャーナリズム基準を満たしていることを保証するため、私たちはプロセスを改善しながらベンダーを継続的に評価しています」と返答しました。

Lade AIのジェイ・オールレッドCEOはワシントン・ポストやCNNの問い合せに対し、ガネットのために生成された記事に「いくつかのエラー、不要な繰り返し、または厄介な言い回し」が含まれていたことを認めています。Lade AIは問題を修正するための取り組みを開始し、適切な変更を加えたとのことです。

Lade AIが生成した記事には問題があったものの、オールレッド氏は依然として自動化がローカルニュースの未来にとって重要であると主張。「私たちのサービスは、読者や地域社会に他の方法では得られない情報を提供し、記者や編集者は彼らがサービスを提供する地域社会に影響を与える、真のジャーナリズムを実践することができます」と、オールレッド氏は述べました。