防衛大学校には世界の新興国、先進国からたくさんの士官候補生たちが集う。防大生の異文化交流事情について紹介します(写真:hamahiro/PIXTA)

防衛大学校(以下、防大)には世界の新興国、先進国からたくさんの士官候補生たちが集う。困ると日本語が怪しくなる留学生や、日本びいきになる留学生など……留学生たちのリアルな声からは、日本との違いや共通している所が見えてくる。

そんな防大生の異文化交流事情についてご紹介していこう。(本記事は元陸上自衛官のエッセイスト・ぱやぱやくん氏の書籍『今日も小原台で叫んでいます 残されたジャングル、防衛大学校』から一部抜粋したものです)

海外の士官学校からの留学生たち

防大には各国士官学校の学生が留学・研修生としてやってきます。防大にやってくる留学生は多種多様であり、アメリカをはじめとする西側先進国からアジアの新興国まで、幅広くいます。研修でやってくる学生は1週間〜2年ほどで自分の国に帰国しますが、アジアの新興国からきた留学生は日本語研修を1年間、その後に一般学生と同様に4年間の教育を受け、計5年で防大を卒業します。

さらに防大では、「国際士官候補生会議」という、世界中の士官学校の学生を集めた発表会なども行っており、防大は一般の方が思う以上に国際色豊かになっています。

「軍役を終えたらMBAを取ってビジネス界に行きたい」と本音を漏らすアメリカの留学生、「韓国よりも日本のほうがいいよ。空気が自由だから」と日本びいきになる韓国の留学生、「俺もみんなと一緒に陸上自衛隊に行きたい」と語るモンゴルの留学生など、「実はそう思っているんだな」という生の声を聞くことができます。

そんな留学生のエピソードについて、いくつか紹介します。

西欧諸国の学生にとって「防大は息が詰まる」

留学生からよく聞く防大の特徴としては、「規律が非常に細かい」が挙げられます。西欧の士官学校は「学生の自主性」を重視して学生による自治が認められていますが、防大は基本的に教官の介入ありきです。「所詮は学生」という意識が強いため、ほぼ自由度はありません。アメリカの留学生は、「何もかもが規律で決まっていてうんざりした。そして教官の介入が多い」というせりふを残していました。

また、整理整頓や物品管理の意識が非常に強く、モノを1つなくしても大捜索になります。このような状況を西欧諸国の留学生が見れば、「探す時間があるぐらいなら支給すればいいのに」と考えるようです。実際に留学生に訓練用の小銃を渡し、彼が部品を紛失しても「えっ? 探さなきゃいけないの? 部品ぐらいあるでしょ」という反応が返ってきたことがあるようです(防大生とはまったく違う感覚ですね)。

また、西欧諸国の士官学校は国によっては部屋も個室を与えられ、学校内にバーやビリヤードなどの娯楽施設が併設されていることもあり、防大より息抜きの場も多いようです。そうした理由から、西欧諸国の留学生から見ると、どうしても防大は「息が詰まる」という印象を持たれやすいようです。

一方で、新興国(モンゴル・東南アジア)の留学生からは、防大は人気が高い印象でした。

留学生にも毎月10万円ほどの手当が支給されますが、この金額はインドネシアなどでは大卒1年目の給与の2倍であり、高級将校の金額に匹敵します。また、新興国の士官学校は「必要とあれば体罰可」の風習が未だに根強いらしく、そうした事情を考えると防大は「穏やかで綺麗で最高」とのことでした。

新興国の留学生はとにかく七難八苦に強く、訓練で活躍します。

モンゴルの留学生は体幹が恐ろしく強く、「どうして強いの?」と聞いたら、「3歳から馬に乗って草原レースに出ていた」と答え、カンボジアの留学生は行軍にめっぽう強く、どうして強いのかと聞いたら「小学校まで10kmの山道を歩いていたから、歩くのは慣れている」と返ってきたことがあります。私は「それは強いわ」としみじみ思ったものです。

また、タイやインドネシアの留学生は暑さに強く、真夏の訓練でも「自分が住んでいた場所よりもマシ」と平気な顔をして、汗もあまりかきません。こうした彼らを見て、「日本人とはスペックが違うんだなぁ」と思ったものです。

ただし、留学生でも体力がなく弱い人たちもいます。

彼らの出身地を聞くと、大抵は首都出身で実家は金持ちであることが多いです。つまり、留学生もシティボーイ・ガールになると途端に弱くなり、田舎出身であればあるほど強くなります。環境が人を変えるのは事実と言えるでしょう。

そんな留学生に防大にやってきた経緯を聞くと、理由はさまざまです。

「軍隊の将校に憧れて」と言う人もいますが、よくよく聞くと「本当は医者になりたかったけど、学費がなくて士官学校に入った」や「大学に行く学費がなかったから」など、防大生が進学する理由と似たようなことを話す人がいます。

私と仲がよかった留学生の先輩は、親が陸軍将校で「日本に留学したくないか?」とある日言われ、「行きたい!」と言ったら陸軍に入隊させられて防大送りになったと話していました。

留学生に間違えられる日本人学生

留学生の中には見た目が日本人にそっくりな人もいれば、留学生にそっくりな日本人学生もいます。モンゴル人やベトナム人は日本人に似ているので、とくに間違えられやすいです。

留学生の中には、日本人以上に日本人っぽいオーラを出す学生がおり、見た目だけではほぼ違いがわかりません。「あいつがバートルかと思ったら、田中だった」などの間違いもよくあり、彼らが同じ教場にいると「え〜っと、チェンくん答えてくれるかな」と教官が日本人学生に向かって言うことがあります。

また、タイ人に似ている私の後輩は、「タイ人の下級生からタイ語で敬礼される」とよくぼやいていました。パッと見がタイ人であるためタイ留学生からの人気は絶大で、タイ人の集会に特別枠として参加したり、民族衣装を着たりとマスコットのような存在になっていました。


最終的には「自衛隊じゃなくて、タイ陸軍に来いヨ」と言われており、「見た目が似ていると親近感が湧くんだなぁ」と私は思ったものです。

なお、日本語が流暢な留学生の上級生が、しどろもどろになっている日本人の1学年に向かって「お前は日本語が下手くそだ。何を言いたいかわからない。イチから日本語を勉強し直せ!」と言っている姿を何回か見たこともあります。ネイティブの日本人学生が負けてしまうぐらい、彼らは優秀だとお伝えしておきましょう。

こうした留学生との交流は防大卒業後でも続き、海外派遣の際にばったり出会って防大の思い出を語るということも珍しくありません。

私は仲がよかった留学生に「元気にしてる?」と連絡したら、「今アフガンにいるよ! テロの爆発で先週は死ぬかと思った! 笑」とパワーワードが返ってきたこともあります。いずれにしても、各国の士官候補生との交流は防大でなければ経験ができないので、それだけでも防大に進学する価値はあるでしょう。

(ぱやぱやくん : 元自衛官・エッセイスト)