DNAは生命の設計図とも呼ばれ、生存に必要な遺伝子データが保存されていることから、巨大なストレージの1つとも考えられています。シンガポール国立大学のチュエ・ルー・ポー氏らの研究チームは、DNA内に光のパターンを記録し保存する「BacCam」と呼ばれる手法を考案しました。

A biological camera that captures and stores images directly into DNA | Nature Communications

https://doi.org/10.1038/s41467-023-38876-w



Capturing the immense potential of microscopic DNA for data storage - College of Design and Engineering

https://cde.nus.edu.sg/research-features-poh-chueh-loo/

Smile, You’re on BacCam! DNA Stores Images from a Living Digital Camera

https://www.genengnews.com/topics/genome-editing/smile-youre-on-baccam-dna-stores-images-from-a-living-digital-camera/

Living digital camera: scientists capture light patterns in DNA for image storage

https://www.news-medical.net/news/20230706/Living-digital-camera-scientists-capture-light-patterns-in-DNA-for-image-storage.aspx

インターネット上に存在するデジタルデータは急激に増加しており、2025年までには17.5兆GBという想像もできない量に達するとみられています。そこで、増加し続けるデジタルデータを保存するストレージとして、ハードディスクやSSDなどの従来のストレージに取って変わる存在として近年注目を集めているのがDNAです。

ポー氏は「地球上のすべての生物の重要な構成要素であるDNAは、さまざまな生命機能に関与する一連のタンパク質を発現する遺伝情報を保存しています。1グラムのDNAは21万5000テラバイト以上のデータを保存することが可能で、これは合計4500万枚ものDVDを保存することに相当します」と述べています。

また、研究チームのチェン・カイ・リム氏は「DNAは技術の進歩によって簡単に編集が可能になりました。またDNAは従来のストレージに比べてコンパクトで耐久性に優れているため、何世紀にもわたって情報を保存することが可能です」と述べています。



研究チームが開発したBacCamは、さまざまな生物学的技術とデジタル技術を融合し、生物学的コンポーネントを使用してデジタルカメラの機能と同等の技術をDNAにもたらすシステムです。

これまでのDNAへの画像の保存は、一度撮影した画像をデータ処理してDNAに書き込み、そのDNAを解析することで元画像を出力するという技術でした。研究チームが編み出したのは、青色光の有無に反応する性質を持つ遺伝子組換え酵素「Creリコンビナーゼ」を用い、その反応を直接DNAに記録することで画像データを大腸菌のDNAに保存するというもの。



研究チームはBacCamを用いて「BACCAM」の文字や笑顔のイラストなどのピクセルパターンをDNAに記録させることに成功しています。また、データを記録したDNAのシーケンシングを行うことで、元のデータを復元することにも成功したと報告しています。

また、「BACCAM」のピクセルパターンを使用した実験では、画像の再構築に約94%という高い精度で成功したことが判明しています。



さらに、研究チームは「赤と青という複数の波長の光を用いて2つの異なる画像を同時に記録し、高い精度で保存、出力することに成功しました」と報告。青色光に反応するシステムと赤色光に反応するシステムを組み合わせてマルチカラーの画像記録を行うことができるとのこと。

研究チームによる実験では、青色の「NUS」と赤色の笑顔のピクセルパターンを複合してDNAに記録させる、もしくは両パターンを切り替えながら記録させる実験が行われました。結果として、どちらの方法でも90%を超える高い精度での保存や出力が可能だと示されました。



ポー氏は「我々が考案したBacCamは、生物学的システムとデジタルデバイスを統合する上で重要なマイルストーンだと考えられます。我々はDNAと光遺伝学的回路の力を利用して、最初の『生きているデジタルカメラ』の作成に成功しました」と報告しています。また「我々の研究は、DNAのデータストレージ化におけるさらなるアプリケーションの開発につながるだけでなく、既存のデータ記録技術を生物学的フレームワークに導入することが可能になります」と述べています。

ポー氏は「我々の研究が、情報の記録と保存における革新的な技術の基礎を築くことを願っています」と語っています。