うっかり“勘違い”していない? ベテラン社会人が間違えがちな「ビジネスマナー」、マナーコンサルタントが解説
新年度がスタートしてもうすぐ3カ月。新入社員への指導を通じて、社会人としてのビジネスマナーや立ち振る舞いのお手本を日々示している先輩たちも多いと思います。しかし実は、ベテランの社会人にも“うっかり勘違い”や“間違えやすい”ビジネスマナーがあるようです。
そこで、「ベテラン社会人が勘違いしがちなビジネスマナー」の代表例について、一般社団法人「マナー&プロトコル・日本伝統文化普及協会」(東京都港区)代表理事でマナーコンサルタントの西出ひろ子さんに聞きました。
マナーは「所作」より「本質」
Q.そもそも、ビジネスマナーの意義とは何でしょうか。
西出さん「弊社の新入社員研修では、必ず『マナーとは何か?』と『ビジネスマナーとは何か?』を考えていただきます。それを理解した上で、名刺交換の仕方などの所作をお伝えしています。
一般的に『マナー』というと、決められたルールや守らなければいけないことなどと堅苦しく、ビジネスの売上などに直結しないと思っていらっしゃるベテランの方々も少なくないようにお見受けします。そこで、まずは『マナーの本質』、そして『マナーとビジネスマナーの違い』について紹介します」
【マナーの本質】
マナーとは、「相手の立場に立つ」ことが大前提にあります。相手の立場に立ってみる思いやりの心や感謝の気持ちです。それなくして、表面上だけ取り繕う所作を身に付けても、「相手が変われば対応も変える」という臨機応変な対応ができず、ミスやクレームなどに発展する恐れがあるわけです。
マナーという言葉自体は英語です。これを日本語にすると「礼儀」となります。礼儀と儀礼は異なります。「礼」という思いやりの心を重んじている礼儀が「マナー」であり、「儀礼」は型を優先させるものです。今までの日本におけるビジネスマナー教育は、型を優先とする儀礼研修が望まれていたのかもしれません。
【マナーとビジネスマナーの違い】
この両者の違いは、そこに金銭が発生することです。ビジネスですから収益をあげ、それが社員、スタッフたちの給与となり、最終的にはそれを社会貢献として生かしていく…これが互いのウインやハッピーを生み出すビジネスマナーの“真髄”です。
例えば、お客さまにご購入いただく商品も、お客さまの立場に立った、お客さまが欲する商品でないとなかなか売上には直結しないでしょう。だからビジネスにはマナーが必要なのです。それは、お辞儀の角度などの所作がどうだ、こうだ以前に大切な本質です。
ベテランの皆さんがビジネスで若手指導を行うとき、「なぜ仕事をする上でマナーが必要なのか」を理解した上で伝えると、若手の皆さんも納得した上で、言われたことを行い、具体的な仕事に取り組んでくれることでしょう。
Q.ずばり、ベテランの社会人が(ベテランだからこそ)間違えやすいビジネスマナーはありますか。
西出さん「エレベーターのマナーです。新入社員研修でもマナーをお伝えしていますが、エレベーターは日常的に利用する分、ベテランにとっては勘違いする要素があると考えます」
【エレベーター内へのご案内の仕方】
まず、エレベーター内に誰もいない場合は、案内人が先に入り、操作盤の前に立って「開」のボタンを押し、もう一方の手で扉を押さえ、お客さまに後からお入りいただきます。一方、エレベーター内に既に人がいる場合は、お客さまに先に入っていただきます。
エレベーターは輸送を目的としたものです。そのため、中に誰もいない場合は、安全確認の意味も含めて、案内人が先に乗り込みます。
【エレベーター内での会話】
基本的に、エレベーター内では「会話はしない」のがマナーです。よく、「エレベーター内で何を話せばいいのでしょうか」と悩む人もいらっしゃいますが、話さないのがマナーですから悩むことはありません。
また、エレベーター内で、職場の人間関係や仕事の内容、愚痴を話している人たちと乗り合わせることがあります。このような情報漏えいの危険を防ぐためにも、狭い密室といえるエレベーター内での会話は避けると心得ておいた方が無難です。
もちろん、身内だけの場合で、他の人の迷惑にならない状況であれば、その限りではありません。「エレベータートーク」といわれるように、短時間で効果的なコミュニケーションになるケースもあるためです。
マナーは、「TPPPO」(時・場所・人・立場・場合)に応じてそのスタイルが変わります。ビジネスでは、臨機応変に判断対応のできるマナー力が求められるのです。
「自分の常識が正しい」と決め付けない
Q.ベテラン社会人が、ビジネスマナーを見つめ直す機会というのは少ないのではないかと思います。ビジネスシーンにおいて、適切な立ち振る舞いやマナーをもって行動し続けるために、必要な意識とは。
西出さん「まず、今、私たちが重視するのは『時代は変わった』ということです。私は社会人になって34年になりますが、今までの考え方、やり方では、今、そしてこれからのビジネスシーンでは通用しないということを念頭におくことが大切です。『自分の常識が正しい』といった決め付けをしない、柔軟な対応が求められていると思います。
以前は、ヘアカラーの色など、身だしなみに厳しかった会社も少なくありませんでしたが、現在は『個人の判断に任せる』としている企業も増えています。『私たちの時代ではあり得なかったよね』ということが、現在では普通になっているケースもあります。
そこで、ベテランの皆さんが戸惑うことなく仕事にまい進するためにも、型重視のマナーではなく、『相手、すなわち若手の立場に立つ』というマナーの本質を理解した上で、伝えるべきことはマナーの心で伝え、実際にそれを形として表現していることは重要と考えます。マナーは、双方が心地よく職場で仕事を遂行できる礎となります。
ビジネスマナーを学んだ新入社員の皆さんの模範になるためにも、ベテランの皆さんのマナー力で、お互いが思いやり、感謝しあえる職場環境を構築できたらいいですね」